アパートやマンションの一棟オーナー様の中には、手持ち物件に空室が多く悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。空室になる物件には原因があり、適切な対策を打つことで状況を改善できる可能性があります。しかし、効果を出すためには段階を踏んだ調査や施策が必要です。
ここではアパートやマンションの空室対策のためにできる具体的な方法、アイデアをご紹介します。
目次
1.空室の原因は?対策に取り掛かる前に調べること
物件が空室になっている場合、必ず原因があります。その原因を把握しないまま空室対策をしても、期待した効果は得られないでしょう。
まずは空室の原因や、物件の問題点があるならばどこにあるのか、そして物件に求められるのは何かを探りましょう。
1-1.立地は問題ないか
アパート・マンション経営において立地は最重要事項ともいえます。比較的乗降者数の多い最寄り駅から徒歩10分圏内にある物件ならば、よほど高い家賃を設定している、設備や周辺環境に問題があるなどの物件でなければ、それほど労苦なく空室を埋められる可能性は高いでしょう。
立地や土地の形状、周辺環境があまり良くない場合は、それを補って余りある「その物件ならではのアピールポイント」を作り出すことで、立地条件の不利をカバーしていきましょう。そのためには次の「ターゲット層」を把握することが重要になってきます。
1-2.ターゲットはどんな層か
漠然とアパートやマンション経営をしていても常に満室にできるわけではありません。賃貸物件を探している人たちには、それぞれに物件に求めるものがあります。
例えば近隣に大学があるなら、駅から多少遠くても学生の下宿先としてのニーズがあるでしょう。大学のある町は文教地区として建物規制があることが多く、比較的閑静な住宅街であることも多いため、学生だけではなくファミリー層やリタイア後の裕福な夫婦が住んでいることもあり、その場合はどのような物件でもある程度ニーズがあることになります。
一方、駅から距離がある住宅地はどうでしょうか。駅から多少遠くても学校や幼稚園、公園やショッピングセンター、病院などの施設が充実していれば、ファミリー層からのニーズがある町の可能性が高いといえます。
しかしそのような地域にワンルーム物件の需要は低いと考えられます。理由として、駅から遠いため通勤に時間がかかること、繁華街から離れるためすぐに食事や買い物に行ける場所が限られることなどが挙げられます。
このような場合は、リフォームやリノベーションで間取りを変えてファミリー向けのコンパクトアパートにする方法などが考えられます。また、単身世帯だけれど車を所持している人を狙って、駐車場を完備し料金を安くするなどのアイデアもあります。
このように、「どの層をターゲットにするか」「そのターゲットが必要とするサービス、設備を用意できているか」が非常に重要になります。
このためにも近隣の調査をしっかりと行う、またその地域のことをよく知っている、信頼のおける不動産会社を選ぶことが大切です。
1-3.家賃は近隣と比較して高すぎないか
近隣にある似た条件の物件と比較して、家賃を高めにしていないか確認しましょう。
新築の頃は適正な家賃であったとしても、よほどの好条件がそろっていない限り、経年とともに家賃相場は少しずつ下がるのが一般的です。
家賃をある程度の水準で長期間維持するためには、
・物件に付加価値をつけ、近隣の強豪物件との差別化を図る
・定期的にリフォームやリノベーションで設備のリニューアルを行う
などの施策が必要です。
これらを踏まえて、次の章で詳しく説明します。
2.空室対策の具体的なアイデア21選
ここでは空室対策の具体的な方法と、それぞれに期待できる効果、実施にかかる費用(無料or有料など)を紹介します。
オーナーの工夫ですぐに実施できるものもあれば、長期にわたる計画を立てて行うもの、大きな費用がかかるものもあります。1章の「ニーズにどのように応えるか」と照らし合わせて御覧ください。
2-1.募集条件を緩和する
(1)入居者の制限を緩和する・工夫する(無料)
一般的に高齢者、外国人、生活保護者などは受け入れを不可としている物件は多いといえるでしょう。居住後のトラブル回避という意味では入居者制限は誤った方針ではありませんが、近隣で似たような条件の物件が飽和状態になっている場合、競合との差別化を図るために入居者の間口を広げるのは有効です。
滞納が心配な場合は家賃保証をつけるとよいでしょう。
このほか、男性のみ、女性のみと性別を限る方法もあります。女性に限る場合は、女性の好む設備をつけたりセキュリティを万全にするなど、複数の方法を組み合わせる必要があります。
(2)使用方法の緩和(無料)
ペット可にする、自転車の室内置きを許可するなどの方法です。
特にペット可は有効な方法といえます。
一方で、ペットによる室内汚損の可能性や臭いの問題が出てくるため、導入には慎重な検討が必要です。また退去時の原状回復についても、あらかじめ覚書などを定めルールを明確にするなど工夫しましょう。
(3)DIY、リフォーム可にする(無料、ただし退去時の修復は事前契約で内容確認)
建物の構造に問題がない範囲で、住民が室内を好きなようにリフォームできるよう規約を緩める方法です。
賃貸であっても自分の暮らしやすい室内やレイアウト、デザインにしたいという人は一定数います。「この壁だけは何をしてもOK」から、「壁紙をや床を張り替えるなど構造躯体以外の箇所は自由にカスタマイズしてOK」まで、裁量はオーナー次第です。
一般的に、改修費用は入居者が負担するためオーナーの負担はありません。実際に住民の手でカスタマイズされた物件を見学してみて、どの程度の改修なら許可できるか検討してみましょう。
2-2.広告などに力を入れる
まず内見者を増やすことが第一です。ここにあるのは内見者を増やすことに直結する方法です。
(4)ネット広告やチラシに使う素材を提供する(無料)
自分の物件のアピールできるポイントや知ってほしい良さは承知しているはず。
インターネット広告やポスティングチラシへ提供する写真や動画を、不動産会社に任せておくだけでなく、自身が撮影しているオーナーもいます。特に、あまり広告を出してくれない不動産会社の場合は積極的にはたらきかけてみてください。
(5)キャッチコピーの工夫・アピールポイントを前面に(無料~プロに頼むと有料)
シンプルで基本的なことですが、その物件の良いところ、アピールポイントを前面に出した広告になっていますか?キャッチコピーや室内の見せ方などを変えてみましょう。
(6)ホームステージングの利用(有料)
ホームステージングとは、売却中のマンションなどで室内をモデルルームのように家具などを配置して装飾し、内覧者へのイメージアップを図る方法です。おもに売却物件に取り入れられる手法ですが、賃貸物件でも取り入れることは可能です。
ホームステージングを施すことで住んでからのイメージも掴みやすく、内見に来た人へ良い印象を与えることができます。
ただし、ホームステージング用の家具やインテリア雑貨などを用意する必要があります。素人仕事では効果的なインテリアに仕立てることは難しいため、専門の業者に依頼したほうが無難です。
2-3.家賃など金銭的な条件の緩和
(7)敷金・礼金など一時金の緩和(無料)
手早くできる空室対策です。メリットとしては家賃を下げず一時金のみで割安感を出せるため、利回りには影響しないことが挙げられます。
ただし、敷金・礼金無し物件は現在増えていますので、あまり目新しさは無いかもしれません。
(8)フリーレントをつける(施策は無料。ただし家賃収入が一時的に減少する)
フリーレントは家賃を1か月~3か月程度無料(フリー)にする方法です。
家賃を下げると既に入居している住人からも家賃値下げの要望が出るかもしれません。また家賃を下げることで物件の表面利回りが下がるデメリットもあります。そうなると銀行の融資担当者からの印象も悪くなる可能性があります。
借りる方も初期費用を抑えられるため人気があり、近年はフリーレントをうたう物件は増加傾向にあります。
2-4.環境整備
(9)清掃や植栽で清潔感をキープ(ほぼ無料)
・エントランスやアプローチに花を飾る
・敷地内の植栽の手入れをする
・ごみの管理を徹底し清潔感を出す
これらはささいなことですが、すぐに出来る対策であり、住民や内見に来た人へ好印象を与えられます。
自身で行えば無料ですが、物件数が多い場合は業者に依頼することも検討しましょう。
(10)セキュリティの保持(有料)
アパートの場合はオートロックを導入することは難しいかもしれませんが、「一戸ごとにドアにモニターフォンをつける」「電子キーにする」などの方法があります。
また「植栽などで目隠しをする」「死角になる箇所に防犯カメラをつける」「警備会社と契約する」などでセキュリティを高めることが可能です。
特に女性をターゲットにする場合は、選ばれるポイントになる有効な施策です。
(11)宅配ボックスなど利便性の高いシステムの導入(有料)
特に単身用物件は一人暮らし世帯向けのため、日中は仕事などで不在であることが考えられます。マンションなどによくある宅配ボックスを導入するなど、住民の利便性を高める工夫をしてみましょう。
なお、導入には一定の費用がかかり、2万円~25万円程度が一般的です。セキュリティを考え、一定の機能はついているものを選ぶとよいでしょう。
ただし宅配ボックスは設置スペースの問題もあるため、近隣に荷物を受け取れるコンビニなどがある場合は不要かもしれません。
(12)無料Wi-Fi完備(有料)
比較的簡単にできる有効な施策が「無料インターネット回線の設置」です。インターネットやスマートフォンは今や生活必需品となっています。
有線の場合は工事が必要になりますが、無線の場合は比較的簡単に設置することができます。
有線にもテレビ配線を利用した方式、各戸へ設置する方式などさまざまな方法があるため、予算と相談のうえ専門業者に見積もりをとってみましょう。
2-5.リフォーム・リノベーションなど
築古物件の場合、どうしても内見に来た人に「古い」「暗い」「汚い」などの印象を与えてしまいがちです。経年劣化は避けられないため、ある程度の年数が経ったらリフォームやリノベーションを検討する必要が出てきます。
リフォームやリノベーションには規模を問わず費用がかかります。大規模な改修になると大きな予算が必要になります。
そのため、むやみに行うのではなく、どこにポイントを置いてリフォームやリノベーションをするのか?をはっきりさせることが大切です。
・近隣の同じ価格帯の物件とデザインや設備で差別化したいのか
・現在の状況(設備の老朽化や見た目の悪印象)を改善するために行うのか
・ターゲットを絞って、そのターゲットが好む方向へ物件を改築するのか
ただ「なんとなくキレイにしただけ」では、結局あまり空室対策に効果が出ず、無駄な出費をするだけになることもあり得るため、十分な検討が必要です。
(13)クロス(壁紙)やクッションフロアなどの張替(有料)
比較的小規模なリフォームです。壁紙や床材の張替だけで内装は見違えるように美しくなります。内見者の印象も良くなるでしょう。
ただし、物件の外観は変えられないため、ホームステージングやその他の便利な設備設置と併用することで、内見数も増えることが期待できます。
(14)収納スペースの追加造作(有料)
現在の収納スペースが少なければ、新たに壁の一部などに造作することで収納量の多さと利便性をアピールできます。
(15)水回りの改修、システムキッチンなどの導入(有料)
一般的に、水回りの設備(キッチン、洗面所や浴室、トイレなど)に高級感があり使い勝手が良い物件は、特に女性の内見者に好印象を与えられます。洗濯機が室内に置けることも選ばれるポイントとして高いでしょう。
IHコンロを設置することで火事のリスクも下げられます。可能ならば浴室乾燥機もあると、洗濯物を外に干す必要がないため防犯上も良い印象を与えられるでしょう。
(16)耐震性を高める補強工事(有料)
築古物件の場合は耐震性能が近年の基準に達していないものもあります。そのため地震の被害を心配して敬遠されることもあるでしょう。
耐震工事を施すことで、広告にその旨を記載でき、借り手に安心感を与えられます。
なお、耐震工事は程度や優先度はさまざまです。工事内容や箇所数によっては建物全体の大規模修繕と同じかそれ以上の費用がかかる場合があります。
(17)外壁塗装や屋根の補修(有料)
大きな費用がかかります。(建物の規模にもよるが、3階建てアパートの場合は目安として、外壁塗装で150万円~400万円)
(18)内外装含めた大規模修繕(有料)
空室対策の最終手段ともいえるでしょう。
上記の対策を行っても空室を埋められない場合や、経年劣化が明らかに激しい場合などは有効です。
ただし、居住している住民の家賃を修繕の後にどうするか、退去してもらうのかなどの問題もあります。
なお大規模修繕を行う場合は、物件のトータルデザインを、ニーズを調査して変更してみることも一考の価値があります。例えば新しい建物の外装を
・コンクリート打ちっぱなしのシンプルモダンなデザインにする場合
・女性の好むプロヴァンス風やレンガの外壁でおしゃれな印象を与えるものにする場合
・京都の町屋のような和風で落ち着いたデザインにする場合
では、借りたい、住みたいと思う人の層が異なってきます。
オーナーの意向ではなく、どのターゲットに訴えるのかを考えて計画をすすめましょう。
2-6.その他
工夫やアイデアでできる方法です。
(19)来場者プレゼントやウェルカムボードの設置、内見者への心遣い(無料)
来場者プレゼントは内見者を増やすことには一定の効果があるようです。また、内見の際にエアコンをつけておき寒い・暑いなどを和らげたり、ウェルカムボードやアロマなどで好印象を与えることもできます。小さな心遣いですが、オーナーによっては積極的にこれらの施策を取り入れて、内見者を増やし、満室経営している人もいるようです。
(20)駐車場・駐輪場を用意する(有料)
駅から20分ほどかかるなど、立地条件でどうしても不利な場合は、駐車場や駐輪場を完備することで住民のニーズを満たせる場合があります。また、家賃を下げることなく、駐車場や駐輪場をかなり安くすることでメリットと感じてもらえます。敷地内に駐車場を用意できない場合は、近隣のコインパーキングを安く利用してもらうなどの方法もあります。
(21)家具付き物件にする(有料)
ホームステージングなどで用意した家具をそのまま契約した住民に使ってもらう方法です。新社会人や学生など、これから新生活を営む立場の人には喜ばれるかもしれません。退去時にはそのまま持っていってもらうか、引き続きその部屋で次の人に使ってもらうかはオーナーの判断によります。
一方で、「好みではない家具は使いたくない」「すでに家具はある」という人も当然いるため、一長一短といえます。
これら以外にも1章で調べた、立地や条件からの「ニーズ」に沿ったサービスを提供することが、空室対策の基本といえるでしょう。
そして、まず何よりも「内見に来てもらう」ことが重要です。
3.入居者へのアピールだけでなく退去予防施策も必要
2章は空室対策のアイデアを紹介しました。しかし、そもそも住んでいる人が退去しなければ空室になることはありません。
もちろん、住民の家族構成の変化や仕事の都合による転出などは仕方ありませんが、長く気持ちよく住んでもらえる物件にすることで他の物件を選び退去されるリスクを抑えられます。2章の内容で特にオーナーが日常的に気を配ることで実施可能な方法は、退去予防にも役立つため、ぜひすぐにでも取り入れてみてください。
4.管理会社・不動産会社への対応と切り替えの検討
不動産会社や物件管理会社は空室対策のプロですが、会社や担当者によっては上記のような施策をあまり積極的に行っていない場合があります。任せているのに空室がいっこうに埋まらない場合、不動産会社や管理会社の変更も検討してよいかもしれません。そのような会社を判断するにはどうしたらよいのでしょうか。
まずは不動産会社、管理会社の現在の施策を確認しましょう。
4-1.家賃を下げることばかり提言してこないか
よほど相場と外れた設定でない限り、家賃をむやみに下げることは極力避けたほうがよいでしょう。家賃を下げることで表面利回りの低下や家賃収入の永続的な減少、既に住んでいる住民の不満を招くことを説明しました。
他の施策を提案せず、家賃を下げることばかり言ってくる会社の場合は、現状どのような具体的な施策を行ったのか、効果はどの程度だったのかを確認しましょう。
4-2.募集を一つの媒体だけでなく広く出しているか
契約に至るためには、内見に来てもらうことが必要です。そのためにも広告は重要です。
広告を一つの媒体にしか出していないならば、インターネット、ポスティング、タウン誌への掲載、看板など幅広く出してもらえるように依頼しましょう。
必要なら管理会社だけでなく、オーナーが懇意にしている工務店やプロパンガス会社、施工会社にも謝礼を出して紹介を頼むことも可能です。これらは一定の効果も見込めます。しかしまずは、物件を管理している不動産会社や管理会社に手を尽くしてもらえるように交渉しましょう。
4-3.データで根拠を示して分析しているか
現時点の内見者数と昨年の比較などデータを提出してもらうことで、どのような施策をうち、どの程度効果が出ているのか、効果がないならば今後何を行うのか、説明してくれる会社なら任せておいてもよいと考えられます。しかし根拠となるデータが提示できないならば、信頼に足るとは言い難いのではないでしょうか。
以上の点をおさえ、誠意ある対応をしてくれないならば、不動産会社や管理会社の変更を考えてもよいかもしれません。
5. まとめ
空室対策の具体例を紹介しました。
空室対策はオーナー様ご自身でできることもありますが、一方で個人ではままならないことも多くあります。まずは空室の原因を探り、どのような方法が適しているか判断のうえ、最終的には信頼のおける不動産仲介会社に相談して継続的な満室経営へ繋げてください。 (提供:YANUSY)
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