新型コロナウイルスの影響で、経済の先行きが不透明な状況が続いている。そんな中、業績予想を「未定」としたり、決算発表を「延期」としたりする企業が相次いでいるが、安易な「未定」や「延期」は株式市場では失望を招きかねず、苦しいながらも中長期ビジョンを示す重要性が指摘されている。

コロナの影響で業績見通しの「未定」が相次いでいる

航空会社
(画像=KITTIKUN YOKSAP/Shutterstock.com)

上場企業は四半期ごとに決算発表を行い、その年度の通期業績や来年度の業績がどのように着地するか、業績予想を発表する。計画を下回る売上高や利益が続いている場合は、下方修正し、逆に業績が予想以上に好調で上方修正することもある。修正せず、それまでに発表していた業績予想を維持することもある。

業績予想を「未定」とするケースもあるが、それはその企業が何か懸念すべき事態に直面していることを意味する。計画では想定されていなかったことが起き、売上高や利益をコントロールできない状態に陥っているということだからだ。こうして「未定」としてしまうと、投資家側は大きなリスクを感じる。

ただ新型コロナウイルスの感染拡大によって、業績見通しを未定とする企業が相次いでいる。報道によれば、上場企業の約7割が今年度の業績見通しを未定としている。ANAやキヤノン、ミズノなど未定としている企業には、誰でも知っている大手企業が多数含まれている。

安易な「未定」は拙速とも捉えられかねない

上場している株式会社が安易に業績見通しを未定とすると、株式投資家からは拙速とも捉えられない。もちろん、新型コロナウイルスの終息がいつになるのかが不透明な中、企業が業績見通しを示しにくいというのはわかる。しかし、だとしても現状をできる範囲で分析し、予想を立てることは不可能ではない。

企業側にとっては、業績見通しの数字を一度出してしまうと、最終的にその結果にならなかったことで株式投資家からのちに失望されることが怖い。また業績見通しの数字があまりに厳しいものであるため、株価の下落が発表直後に一気に進む可能性もあり、なかなか業績見通しの発表に踏み切れないことも理解できる。

ただそれでもやはり業績見通しを発表し、中期ビジョンをしっかり社外向けに示すことは重要なのだ。新型コロナウイルスで業績が落ち込んでいる企業にとっては、中期ビジョンはV字回復に向けたロードマップだ。そのロードマップをしっかりと描けていると判断されれば、株式市場では好感される可能性もある。

業績見通しを未定とせざるを得ないとしても

仮に、業績見通しを未定とせざるを得ないとしても、このような視点で言えば、せめて中期ビジョンだけはなんとか発表しておきたいところだ。

新型コロナウイルスの終息が見通せない中では、複数のシナリオを立てて中期ビジョン・中期経営計画を策定するのが重要だと考えられる。例えば、終息時期を「2020年内」「2021年前半」「2021年後半」と分け、終息時期に応じてどのような施策を打つのかを株主などに対して説明するような形だ。

中期ビジョン・中期経営計画を打ち出すことが難しければ、「適宜開示」でなるべく多く情報を発信していく姿勢が求められる。適宜開示は証券取引所に上場している企業に義務付けられており、重要な会社情報や事業情報などを投資家に提供するための制度だ。

すでに適宜開示や公式サイトでの「お知らせ」などを通じ、新型コロナウイルスに対する対策や今後の取り組み方針などを明らかにしている企業は一定数いる。民間調査会社の東京商工リサーチによれば、4月3日時点でこうした対応をした企業は上場企業の24.3%だった。

決算発表の安易な延期も「諸刃の剣」になりかねない

決算発表の延期も相次いでいるが、安易な延期は業績見通しを「未定」とするのと同様、「諸刃の剣」になりかねない。東京商工リサーチの調べによれば、4月22日時点で2020年2月期もしくは3月期の決算発表を延期した企業は、168社に上っており、約1週間前から3倍に増えている。

このようなときこそ、株主は経営者の生の声を聞きたがる。たとえ経営者が決算説明会の場で厳しい状況を伝え、苦しい中でひねり出した苦渋の戦略を発表したとしても、経営者が真摯に現在の状況に向き合っていることがわかれば、株主に対して一定の安心感を与えることにもつながる。

ただ、決算に必要な業績の集計が終わらないため、決算発表を延期せざるを得ない状況にある企業も少なくないことは知っておきたい。政府が企業に求めている出勤の抑制などにより、担当者が普段通り業績の集計や説明会の資料をまとめることができないためだ。

株主や投資家の存在を考える重要性

業績見通しや中期経営計画の発表は、いわば政治家の「公約」のようなものだ。一度発表してしまうと責任が伴うのは理解できるが、株主や投資家の存在を考えると目を背けてばかりもいられない。コロナ禍の最中、投資に値する企業はどこなのだろうか。投資家たちはいま、こうした厳しい状況下においてもしっかりとビジョンを示せる企業を探している。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)