企業再生コンサルタントは、企業の経営再建を支援する専門家である。すべての企業が順風満帆に経営を進められるとは限らない。最悪のケースに利用できるよう、最低限の知識を身に付ける必要がある。今回は企業再生コンサルタントについて解説していく。
企業再生コンサルタントが必要とされる背景
日本経済においてバブルが膨らむ直前の1983年、日経ビジネス誌の主張をきっかけに「企業の寿命は30年」との説が広まった。
順風満帆な事業であっても30年後には衰退している可能性が高く、時代の新たなニーズに適応できなければ、企業として生き残るのは難しいとの論調だ。
ITの普及にともない時代の変化は加速し、企業の寿命はさらに短くなったと言われている。東京商工リサーチの調査によれば、2017年に倒産した企業の平均寿命は23.5歳だった。
時流に合わなくなれば従来のビジネスモデルが通用しなくなり、おのずと経営環境が悪化するだろう。そのような窮地に陥った際、救いの手を差し伸べてくれるのが企業再生コンサルタントである。
企業再生コンサルタントは経営コンサルタントの一つ
企業再生コンサルタントは、経営コンサルタントの業界に属している。経営コンサルタントとは、企業経営の課題を中立的な立場から分析し、解決策を提案する専門家だ。
企業は、事業戦略や経営方針、財務、人事などに関する課題を抱えていることが多い。経営コンサルタントは、相談・指導・企画などのサービスを提供し、課題を解決して業績を向上させる。
帝国データバンクの調査によれば、経営コンサルタント業務を営む会社の数は2008年〜2012年の5年間で約1.9倍、そのサービスを利用する企業数は約3.7倍に増えたという。
2012年の調査時点では、1,600社超がこのビジネスを手掛けていた。各企業によって得意分野は異なっているが、コンサルタントの種類は下記のとおりだ。
コンサルタントの種類 | 詳細 |
---|---|
戦略系コンサルタント | 主に事業戦略や経営面について指南する |
総合系コンサルタント | 特定の領域に絞らず包括的にアドバイスする |
シンクタンクコンサルタント | 金融機関が母体 |
中小企業コンサルタント | 中小企業に特化している |
企業再生コンサルタント | 企業再生に特化している |
企業再生コンサルタントの支援の手法
企業再生コンサルタントの役割は、企業の経営再建を支援することだ。具体的な支援について説明しよう。
企業再生コンサルタントの支援1.ターンアラウンドとワークアウト
コンサルティング業界において、企業再生はターンアラウンドと呼ばれる。つまり、方向転換をさす。企業の経営再生や事業の再構築を手掛ける専門家は、ターンアラウンドマネージャーと呼ばれる。
資金繰りが悪化して破綻危機が迫っている企業や、不採算部門を抱えて赤字が常態化している企業などを再建する。
クライアント企業の現状を分析し、ビジネスモデルや事業構造、組織再編などに関する具体策を立案。ターンアラウンドマネージャーがトップダウンで経営改革を推進し、収益改善を図っていく。
一方、経営再建策にはワークアウトと呼ばれる手法もある。具体的には、法的な債務整理や固定費の圧縮、所有資産の売却などを進めることで、速やかに債務超過の状況から脱却を図る。
ターンアラウンドが中長期的なスパンで取り組む方法であるのに対し、ワークアウトは短期間で成果を発揮しやすい方法と言えるだろう。
企業再生コンサルタントの支援2.ハンズオン支援
企業再生コンサルタントの中には、ハンズオン支援を強みとしているところもある。ハンズオン(hands on)は「実践」という意味をさす。
ハンズオン支援とは、企業再生コンサルタントが経営に直接参画し、同じ目線から再建策を推進する手法だ。直接参画するために自社の人材を支援先に派遣する。具体的な再建策は下記のとおりだ。
・新たな成長戦略の構築
・事業の再編(不採算事業の売却・撤退)
・経営資源の配分見直し
・子会社の整理・再編
ハンズオン支援のメリットは、急ピッチで改革できる点にある。その反面、外部の人間による強攻策だという印象を抱かれると、社内で反発が生じかねない。
改革では従業員に犠牲を強いる場面も時にはあるだろう。施策の目的と方向性を明確にしなければならない。
ハンズオン支援が用いられるケース1.バイアウトファンド(PEファンド)
ハンズオン支援は、バイアウトファンドにおいても用いられる。バイアウトファンドは、業績不振に陥っている企業を買収し、自ら経営に関与して再建策を推進するファンドだ。
企業価値を高めてから売却することで値上がり益を獲得し、それを機関投資家に分配する仕組みである。
企業再生コンサルタントがクライアントから要請を受けて支援するのに対し、バイアウトファンドは機関投資家の利益を獲得するために企業を再生する。
買収先はほとんど未上場企業であることから、PE(private equity=未公開株)ファンドと呼ばれることが多い。ただ、再生ファンドという表現も用いられる。
こうしたファンドの目的は、企業価値を高めて利益を獲得し、出資者に分配することだ。しかし、窮地に陥っていた企業が復活する点に変わりはない。
ハンズオン支援が用いられるケース2.M&A
M&Aにおいても、傘下に収めた企業を改革するためにハンズオン支援を用いるケースがある。出資以外のマネジメントにはタッチせず、再建を担う企業が経営を主導する方法はハンズオフと呼ばれる。
ハンズオン支援が用いられるケース3.IPO(新規公開)
株式のIPOを念頭に出資を行い、ハンズオン支援で経営をサポートするパターンもある。
ベンチャーキャピタルが出資先のベンチャー企業に社外取締役などを派遣し、経営に関して助言する。迅速に成長させ、株式市場で上場した後にキャピタルゲインを得る。
企業再生コンサルティング会社5選
企業再生を手掛ける主要なコンサルティング会社をいくつか紹介しよう。
企業再生コンサルティング会社1.経営共創基盤
経営共創基盤では、カネボウやダイエーなどの支援で知られる産業再生機構の中核を担っていた冨山和彦氏が代表取締役CEOを務めている。
2007年に設立され、「常駐協業」のハンズオン支援を特徴とし、企業規模の大小や分野を問わずに幅広い支援を展開。
経営コンサルタントをはじめ、企業経営経験者や会計士、税理士などのプロフェッショナルが集結している。
企業再生コンサルティング会社2.リヴァンプ
ファーストリテイリング社長やローソン代表取締役会長CEOを務めた玉塚元一氏と、現ユニー・ファミリーマートホールディングス代表取締役社長の澤田貴司氏が設立したリヴァンプは、ロッテリアの再建で注目された。
経営者の派遣を通じた経営受託や、事業会社の設立および経営、さらに成長が期待される未公開企業への投資などを手掛けている。
企業再生コンサルティング会社3.ドリームインキュベータ
世界有数のコンサルティング会社であるボストンコンサルティンググループ(BCG)の日本代表を務めた堀紘一氏が、2000年に設立したグローバル戦略コンサルティングファームである。
環境の変化を見据えて、政府とも連携しながら事業・産業のプロデュースを展開。日本企業の海外進出も支援している。
企業再生コンサルティング会社4.ジェネックスパートナーズ
外資系戦略ファームから独立して2002年に設立された経営コンサルティングファームで、クライアント企業の変革をサポートしている。
2011年には、グローバルコンサルティングファーム同盟のCordence Worldwideに加盟している。
企業再生コンサルティング会社5.フロンティア・マネジメント
金融や会計、法律などに関するさまざまな専門家が集結している経営コンサルティング会社で、事業再生やM&Aアドバイザリーなどを展開している。
ノンバンクに対する事業再生ADR手続きを活用した債務返済猶予の私的整理支援をはじめ、多岐に渡る業種において経営再建をサポートしてきた。
万が一に備えて企業再生コンサルタントについて理解を深めておこう!
経営者の誰しもがビジネスの安泰を求めているだろう。しかし、予期せぬ出来事で経営環境が悪化するケースは避けられない。
事業が大きく傾く前に自助努力で軌道修正できればよいが、対処できなかった場合は企業再生の専門家に支援を受ける必要があるだろう。
最悪の事態も頭の片隅に置き、企業再生コンサルタントに関する最低限の知識を身に付けておくのが無難である。(提供:THE OWNER)
文・大西洋平(ジャーナリスト)