中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

帝国データバンクの統計によると、倒産件数は2020年2月までに6ヶ月連続で前年同月比を上回っている。経営者の頭に倒産や自己破産という言葉がよぎる時代になったといえる。今回は、自己破産の概要をはじめ、メリットやデメリットなどをまとめた。

自己破産とは?

自己破産
(画像=diy13/stock.adobe.com)

自己破産とは、借金などの債務を整理する手続きをさす。個人が裁判所に申し立てることによって手続きされる。

自己破産の手続き

まず、財産を分配するための破産手続きを行う。破産手続きでは、破産者の財産を調査・換金して債権者に分配する。もともと破産者に財産がない場合、破産手続きは調査なしで終了する。

免責手続きでは、法律上の支払い義務について免除の可否を決める。ただし、税金や養育費などは免除されても支払いが必要なケースもある。

自己破産がもたらす影響

破産者の名前や住所が官報に掲載される。債権者が債権を回収しやすくするためだ。破産者の財産を調査するにあたって、下記の行動などが制限される。

・裁判所の許可なく転居や長期の旅行ができない
・郵便物などが財産を調査する人に転送される
・財産を調査する人に財産状況を説明する義務を負う
・警備員や保険募集員などの職業に就けない

ただ、選挙権や被選挙権がなくなったり、破産したことが住民票や戸籍に記載されたりすることはない。また、生活に必要な現金や日用品を差し出す必要もない

自己破産と会社の破産・倒産

自己破産の理解を深めるために会社の破産や倒産について説明する。それぞれの違いについて着目してほしい。

会社の破産と倒産

会社の破産は、個人と同様に借金などの債務を整理する手続きをさす。裁判所に申し立てることで手続きできる。個人の破産と異なるのは、手続き後に会社が消滅する点だ。

破産と似た言葉に倒産もある。東京商工リサーチによると、倒産とは、企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態をさす。

すなわち、倒産は会社経営に行き詰まった状態であり、破産はそのときに選択する手段の一つである。

倒産のパターンは、破産以外にも会社更生手続や民事再生手続などがある。すなわち、倒産したからといって、破産して会社が消滅するわけではない。

経営者も自己破産するのか?

会社の破産は経営者の自己破産に直結するのだろうか。結論として、経営者の状況や判断にゆだねられる。

株式会社や合同会社の場合、会社の債務と経営者の債務は別である。したがって、会社の債務を個人が肩代わりする義務はない。

ただ、経営者が連帯保証人になっていると、会社が債務を返済できなくなった場合、代わりに返済しなければならない。

また、会社が融資を受けられない場合、経営者が個人的に借り入れた金銭を会社に貸すこともある。

もし、会社の資金繰りに窮した場合、経営者個人の返済も難しくなるだろう。その結果、会社とともに経営者も自己破産することになる。

経営者が自己破産する3つのメリット

会社の経営者が自己破産する場合、経営者は個人と会社の破産手続きを並行して進めることになる。会社は財産を分配した後に消滅するが、経営者は財産を債務返済にあて、その後も生活し続ける。

経営者の自己破産に対してネガティブな印象を受けるかもしれない。しかし、自己破産によってメリットが生じることもある。

1.人生を再スタートできる

自己破産した場合、債務に関する返済がほとんど免除されるため、精神的に苦しい生活から解放され、新たな気分で人生の再スタートを切れる。

2.資金繰りに追われない

会社と一緒に破産を申告した場合、通常は会社と本人の債務が免除される。自社や経営者を名義とする債務の返済がなくなり、自己破産後の資金繰りも楽になる。

3.取引先に迷惑をかけないで済む

自己破産後は、債務者が取引先に直接押しかけられない。取引先に迷惑をかけることなく債権を清算できる。

経営者が自己破産する3つのデメリット

自己破産にはメリットだけではなくデメリットもある。代表的なデメリットを3つお伝えするので、自己破産を検討する際の判断材料としてほしい。

1.会社の財産を失う

会社が破産した場合、会社の財産を清算して債権者に分配する。

個人の破産では生活に必要な資産を差し出さずに済むが、会社の破産ではそのような仕組みがない。会社の破産では、例外なく財産を債務の返済にあてる必要がある。

また、会社が破産した場合、手続き後に会社が消滅するので会社自体も失う。

2.社会的な信用がなくなる

自己破産すると、公私ともに社会的な信用を失うことがある。経営者が自己破産した場合、官報にその旨が掲載され、信用情報機関にも伝わる。

少なくとも5年間は記録が残るため、その期間に新たな借り入れはできない。その他、保険募集人や警備員などの職業にも就けない。

3.従業員が解雇される

会社が破産した場合、最終的に解散することになる。もちろん、従業員は破産申請の前後に解雇される。従業員とその家族に多大な迷惑をかけてしまうのはいうまでもない。

自己破産の前に検討すべき2つの方法

本来、会社の破産や経営者の自己破産は最終手段とすべきである。では、会社経営が困難になったときはどうすればよいか。自己破産の前に検討すべき方法を紹介しよう。

1.中小企業再生支援協議会を利用する

全国の商工会議所には中小企業再生支援協議会が設けられ、事業再生の相談に乗っている。金融機関経験者や税理士、公認会計士などが、事業や財務を改善する方法についてアドバイスしてくれる。

深刻でなくても企業の経営状態を診断してくれるので、必要に応じて利用してみるとよい。

2.私的整理を試みる

私的整理では、破産や会社更生などの法的手続きを経ることなく債務を整理する。会社と個人の両方が使える手段である。

破産などの法的整理ではすべての債務を対象とするが、私的整理は一部の債務でも可能である。具体的には金融機関の債務がこれにあたる。

破産の場合は、官報ですべての債権者に公表されるのに対して、私的整理の場合は、相手方以外の債権者に知らせることなく手続きできる。私的整理は当事者同士で行ったり、ADR制度のもとで手続きしたりする。

自己破産は最終手段としては有効、慎重に決断を

自己破産は、債務に行き詰まったときの最終手段として有効である。自己破産すれば、債務が免除される。資金繰りに苦しむこともなく、新しい人生をスタートできる。

ただし、資産や社会的な信用を失うなどのデメリットがある。会社経営に行き詰まったら、中小企業再生支援協議会や私的整理の活用なども検討してほしい。(提供:THE OWNER

文・中川崇(公認会計士・税理士)