中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

税金の計算では、控除によって納める金額を減額できる。個人事業主が活用できる控除にはさまざまな種類があり、節税対策に活用しない手はない。今回は事業主が知っておくべき控除の種類や手続きについて解説していく。税金面で損をしないようぜひ参考にしてほしい。

事業主が知っておくべき控除1.所得控除

個人事業主
(画像=New Africa/stock.adobe.com)

所得控除は、個々の事情に応じて所得金額を調整する仕組みだ。所得税は、所得の金額から所得控除を差し引いた金額をもとに計算される。そのため、所得控除が多いと所得税の金額を減らせる。

所得控除の種類はさまざまあり、知らないと損をするケースもある。ここからは所得控除の代表的な種類について説明する。

社会保険料控除

納税者が本人または生計を一にする配偶者や親族の社会保険料を収めた場合、その全額を所得から控除できる。

対象となる保険料の例は以下の通りだ。

・健康保険、国民年金、厚生年金保険及び船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
・介護保険法の規定による介護保険料
・国民健康保険の保険料または国民健康保険税

控除を受けるには確定申告で控除額を記載する。なお、国民年金については申告時に関連書類を添付しなくてはならない。

一方、給与所得がある場合は年末調整時でも申告できる。国民年金の書類は年末調整の書類とともに会社に提出すればいい。

医療費控除

納税者が、本人または本人と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合、一定額を超えるとき費用に応じた金額を控除できる。

医療費控除の特例として、特定一般用医薬品を購入した場合に適用されるセルフメディケーション税制もある。

事業主が知っておくべき控除2.青色申告特別控除

青色申告特別控除とは、青色申告者が事業所得や不動産所得、山林所得について帳簿類を備えるなどの要件を満たした場合、それらの所得から一定額を控除できる仕組みだ。

控除の種類は以下の通りである。

・65万円の青色申告特別控除
・10万円の青色申告特別控除

65万円の青色申告特別控除

青色申告特別控除は、一定の要件を満たすと控除額が最高で65万円になる。控除が適用される要件を複数の観点から解説していく。

【所得の内容】

青色申告では、事業所得や不動産所得、山林所得などを申告できるが、青色申告特別控除の対象は事業所得と不動産所得のみである。

すなわち、3つのうち山林所得しかない申告者は最大65万円の控除を受けられない。

【事業規模】

申告する所得が不動産所得のみの場合、以下の要件も満たさなければならない。

・アパートや貸間の場合は独立した部屋がおおむね10部屋以上
・独立した家屋の場合はおおむね5棟以上

【記帳】

事業所得と不動産所得に係る取引を正規の簿記の原則により記帳しなければならない。一般的には複式簿記がこれにあたる。記帳では会計ソフトを利用することが多い。

【財務諸表】

事業を行うのであれば確実に確定申告しなければならない。申告では、年間の事業成果を表す損益計算書のみならず、事業に関する資産や負債の内訳を表す貸借対照表も申告書に添付する必要がある。

なお、貸借対照表は期首時点と期末時点、すなわち前年度分と当年度分の2年分を作成する

【提出期限】

財務諸表を含む確定申告の書類をその期限(通常毎年3月15日)までに提出しなければならない。

【控除の手続き】

青色申告特別控除を適用する場合、青色申告承認申請書を管轄の税務署に提出しなければならない。

期限はその年の3月15日までだが、年の途中で事業を開始した場合は開始日から2ヶ月以内になる。

青色申告者から相続により事業を承継した場合、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内までに提出すればいい。

【控除額の変更】

令和2年度から青色申告特別控除の控除額が55万円に下がる。ただし、以下の条件から一つを満たせば、青色申告特別控除の控除額は65万円のままになる。

・その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について電子帳簿保存をする
・その年の確定申告書及び青色申告決算書などをe-Taxで提出する

このうちe-Taxの利用をおすすめしたい。電子帳簿保存には事前手続きが必要で、適用に手間がかかるためだ。

10万円の青色申告特別控除

青色申告特別控除を受けるとき、場合によって控除額が最大10万円になる。具体的なケースは以下の通りだ。

・不動産賃貸を行っているが規模が小さい場合
・正規の簿記の帳簿ではなく簡便な帳簿しかつけていない場合
・山林所得のみの場合

【控除の要件】

この控除は、最大65万円の青色申告特別控除を受けられない場合に適用される。

【控除の手続き】

手続きは65万円の青色申告特別控除と同じである。その際、10万円の青色申告特別控除を受ける旨について記述する必要はない。その都度、青色申告特別控除の控除額を選択する。

青色申告特別控除を活用すべき理由

白色申告では、青色申告特別控除の恩恵を受けられないが、帳簿を作成する義務がある。少なくとも10万円分の所得に対応する税金を余分に支払わなくてはならない。

結論として、青色申告によって控除の恩恵を受けたほうがよいといえる。

事業主が知っておくべき控除3.小規模企業共済等掛金控除

納税者が小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金などを支払った場合、その全額を所得から控除できる。

控除の対象

対象となる掛金は以下の通りである。

・小規模企業共済法の規定によって独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金
・確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金(iDeco)
・地方公共団体が実施する心身障害者扶養共済制度の掛金

控除の手続き

手続きでは、確定申告書の小規模企業共済等掛金控除の欄に記入する。支払った掛金の証明書類を添付しなければならない。

なお、会社員や会社役員として給与を受け取っている場合、年末調整のときでも提出できる。

事業主が知っておくべき控除4.基礎控除

基礎控除は条件なしで一律に適用される控除であり、所得の金額から一定額を差し引ける仕組みだ。

従来の基礎控除の金額は一律38万円であったが、令和2年から48万円になった。個人の合計所得金額に応じて控除額が変わる点も特徴だ。

個人の合計所得金額控除額
2,400万円以下48万円
2,400万円超2,450万円以下32万円
2,450万円超2,500万円以下16万円
2,500万円超0円

事業主が知っておくべきその他の控除

ここまでお伝えした控除以外にも節税につながる制度がある。家族がいるケースや災害に見舞われたケースに役立つ控除をご紹介しよう。

配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除

配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除などは、家族を養っている場合に一定の金額を控除できる仕組みだ。

配偶者控除と配偶者特別控除は、配偶者がいる場合に最高38万円の所得控除を受けられる。主な要件は以下の通りだ。

配偶者控除納税者の年間所得が48万円(給与換算で103万円)以下
配偶者特別控除納税者の年間所得が48万円超133万円以下

なお、控除額は一定ではなく、本人や配偶者の所得や年齢によって変わる。

扶養控除は、扶養している親族のうち年間所得が48万円以下の者などについて、一人あたり38万円の控除が受けられる仕組みだ。

雑損控除

災害または盗難若しくは横領などで資産に関する損害を受けた場合、雑損控除が適用される。

生活に必要な資産が被害を受けた場合に適用されるため、棚卸資産や事業用固定資産が被害を受けた場合には適用されない。その場合は、通常の事業所得として処理する。

控除をうまく活用し盤石な資金基盤を

所得税の節税に利用できる控除を事業主に向けて紹介した。適用条件に該当し、利用できる控除もあったのではないだろうか。税金は一つひとつが少額でも、積み重なると多額になる。各控除をうまく活用し、資金の強化に役立ててほしい。(提供:THE OWNER

文・中川崇(税理士)