補助金は法律に基づいて交付されるため、要綱を読み込んで申請を行わなければならない。しかし、資料の多さゆえに重要な部分がわかりづらい。今回は、補助金の申請を検討している経営者に向けて、要綱の記載項目や確認すべきポイントについて解説する。
補助金の要綱とは?
補助金の要綱とは、補助金を交付するまでの事務手続きに関する行政機関側のマニュアルである。補助金を扱う行政機関や事務局の対応に不公平がないように定められ、補助金の交付事務の基準になっている。
補助金の交付は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」や同施行令などを根拠とし、交付に関する細かいルールは要綱などに定められている。
なお、要綱の内容は法律のように第1条から始まり、それ自体に法的な拘束力はないとされる。ただし、上記の法令に基づいて作成される部分が多く、同法令を根拠に罰則や処分を受けないよう注意したい。
補助金の要綱はホームページで閲覧できる
経営者にとって身近な補助金といえば、経済産業省が主管となる補助金だろう。代表的なのが、「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」、「小規模事業者持続化補助金」などである。
補助事業の決定とともに交付要綱や公募要領がホームページで公開され、補助金の検討を目的に閲覧できるようになる。
自治体の補助金にも要綱がある
自治体による補助金の根拠は地方自治法にあるが、個別の交付事務については国と同様に交付要綱などが作成される。
必ずしも要綱が公開されるわけではなく、交付要領や要項が公開されることもある。
補助金の要綱・要領・要項の違い
要領や要項は、要綱の要点を詳しく解説した資料だ。
交付要綱は、あくまで行政機関側の事務手続きのマニュアルという色が強い。もちろん、申請者側に関係する内容もあるが、それについては公募要領のほうが詳細にまとまっている。
交付要綱については、行政機関側の事務手続きを知りたいときや様式を確認したいときに確認すると良い。
補助金の要綱は遡及適用されることも
遅れて要綱が作成されると、要綱が遡及適用される場合がある。災害が発生したケースを考えるとわかりやすい。
災害から数か月後、復旧工事に対する補助金の要綱が策定されたとする。施行日より前の復旧工事に要綱を遡及適用し、補助金を交付することがある。
補助金の要綱に記載されている12の項目
補助金の要綱には、おおむね次の項目内容が記載されている。
記載項目1.通則
補助金の交付が、補助金適正化法や同施行令、要綱に基づく旨を記載している。定型的な内容なので、特に気にする必要はないだろう。
記載項目2.交付の目的
国や自治体が補助事業を行う目的が記載されている。支援される企業の取り組みをイメージするために一読しておくとよいだろう。
記載項目3.補助金の対象者
補助金を受けられる事業者の要件について記載されている。要件については、「中小企業者」や「小規模事業者」といった定義が散見される。
法人だけでなく個人事業も含む定義となり、業種ごとに資本金の額や常時使用する従業者数の制限が設けられている。
要綱ではそれぞれの定義について、中小企業等経営強化法、産業競争力強化法、小規模事業者支援法などの条文を定めている場合が多い。
自治体の要綱では、市税を完納していることや、他の補助事業で支援を受けていることなどが要件になるケースもある。
対象者1.中小企業者
中小企業者の定義は、中小企業基本法を基礎としている。内容は次のとおりだ。
業種 | 要件 |
製造業その他 | 資本金の額が3億円以下 または 常時使用する従業員が300人以下 |
卸売業 | 資本金の額が1億円以下 または 常時使用する従業員100人以下 |
サービス業 | 資本金の額が5,000万円以下 または 常時使用する従業員が100人以下 |
小売業 | 資本金の額が5,000万円以下 または 常時使用する従業員が50人以下 |
各法律では、個別の業種や組合に関する定めなどが上記のほかに追加される場合もある。要綱では条文を示すのみで、定義が掲載されていないことも多い。公募要領で必ず確認しておこう。
対象者2.小規模事業者
小規模事業者の定義も中小企業基本法を基礎としている。
常時使用する従業員の数が20人以下の事業者が対象であるが、商業・サービス業では5人以下を条件としている。
小規模事業者支援法では、このルールに商工会法に定める商工業者であることや、宿泊業や娯楽業の定めなどが加わっている。公募要領で必ず確認しておこう。
記載項目4.補助対象経費
補助対象経費については要綱内の別表で示し、公募要領などで詳細を補足することが多い。
記載項目5.補助率
補助率は、支払った補助対象経費に対する補助金の割合である。たとえば、補助対象経費が50万円、補助率が2分の1であれば、25万円の補助金が交付される。
ただし、同じ補助金の交付要綱でも、補助対象経費の内容や補助金対象者の区分によって補助率が変わることがある。
補助率で注意したいのが、補助金に設定される上限額と下限額である。
たとえば、補助率が3分の2、上限額が100万円の場合を考えてみよう。もし、300万円の補助対象経費を支払ったとしても、交付額は200万円ではなく100万円となる。
補助金が下限額を下回るときに交付しないというルールもあり、少額の取り組みは補助金の対象にならない場合もある。
記載項目6.交付申請の方法
補助金の交付申請者は、各省庁が定める時期までに、各省庁が定める書類を添付した申請書を提出しなければならない。(補助金適正化法第5条)
補助金の要綱では、申請書として使用する様式やその申請先などが具体的に定められている。使用する様式は、交付要綱の末尾に示されることが多い。
なお、交付申請の具体的な方法や期日、申請後の流れなどは、要綱よりも公募要領のほうがわかりやすい。
記載項目7.交付決定通知の方法
各省庁は、補助金の交付を決定したとき、すみやかにその旨を申請者に通知しなければならない。(補助金適正化法第8条)
補助金の要綱には、通知方法や交付決定までにかかる標準的な期間などが示される。なお、通知方法は書面の送付が一般的である。
記載項目8.補助金の支払
補助金を支払う時期について記載されている。申請完了後、補助金の入金までに半年以上かかる場合もあるので、忘れずに確認しておこう。
記載項目9.補助事業の経理
補助金は申請内容以外への流用が認められず、違反すれば交付が取り消される。そのため補助金の対象となる経費は、他の経理と明確に区分し、関係書類を整理しなければならない。
たとえば、補助対象経費が人件費であれば、補助対象事業にかかる金額しか経費にできない。出張旅費であれば、他の事業に関する出張を行う場合、補助対象となる部分だけを補助対象経費にする。
記載項目10.計画変更の承認
補助事業の計画を変更する場合は、原則として承認を受けなければならない。ただし、小さな変更などは申請を必要としないケースもある。
条件について要綱で詳しく定められる場合があるので、申請した計画に変更が生じそうであれば一読しておこう。
記載項目11.契約について
補助事業の実施を目的に締結する売買契約や請負契約は、一般競争によるものと定めている要綱があるため、発注先の選定に注意したい。
補助金の交付を申請する際には、契約や見積りを依頼する前に要綱を一読しておこう。
記載項目12.実績報告
補助金の交付申請者は、各省庁に補助事業などの遂行状況を報告しなければならない。(補助金適正化法第12条)
また、補助金の対象事業が完了したときや、補助金の交付の決定に関する国の会計年度が終了したときは、成果報告も義務付けられている。(補助金適正化法第14条)
補助金の要綱では、この規定に基づき報告様式や報告期日などが定められている。
補助金の要綱で理解しづらい部分
補助金の要綱で理解しづらい部分は、消費税等の仕入控除税額に関する箇所ではないだろうか。趣旨は、国から消費税分にあたる金銭を受け取ることを防止することにある。
まず、補助金を申請する事業者が、一般課税によって消費税を納税する課税事業者の場合、諸条件を満たすと受け取った消費税と支払った消費税の差額を国や地方に納めることになる。
つまり、受け取った消費税を国に納めなければならない。ところが、交付される補助金は消費税の不課税取引となるため、これに消費税は含まれていない。
したがって、税込み価格で補助対象経費を申請し、税込み価額を基準に計算された補助金を受け取った場合、納めるべき消費税を補助金から充当する。
これを回避するために、補助対象経費からは補助対象分の仕入控除税額となる部分を減額するルールとなっている。
補助金の要綱や要領を押さえて確実に受け取ろう
補助金の要綱や要領はボリュームも多く、初めて読んだときは理解しづらい部分も多いと思う。多忙な経営者が要綱を読む際の手助けになれば幸いである。(提供:THE OWNER)
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)