鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

「憧れのマイホームを買ったのに毎年の固定資産税が重い」というつぶやきを耳にすることがある。さらに、「所得税や相続税と違って固定資産税は節税できない」と思っている人も少なくないようだ。だが固定資産税は、最初の住宅選びで工夫すれば低めに抑えることができる。今回は、固定資産税の基本事項を見た後、節税するために欠かせないポイント解説する。

固定資産税を節税するなら住宅選びが肝心

固定資産税
(画像=MIND AND I/stock.adobe.com)

住宅を購入すると固定資産税の納税義務が生じる。この固定資産税は毎年発生するコストだ。さらに、固定資産税は一度決まるとなかなか下げられない。そのため、人によっては「前に払っていた賃貸料よりも固定資産税の方が重い」「こんなことなら賃貸の方がまだよかった」と嘆くことになる。

ただし、住宅の購入段階で気をつければ固定資産税を安くすることができる。住宅の内容で固定資産税が変わるからだ。言い換えると、固定資産税を節約するためには最初の住宅選びがカギになる。

固定資産税のキホン!3つの特徴を知っておこう

そもそも固定資産税とはどのような税金なのだろうか。また、どのような特徴があるのだろうか。それぞれの税金について簡単に説明するとともに、基本的な3つの特徴を確認していく。

固定資産税とは?

固定資産税は毎年1月1日、土地や建物を所有する人に対して課される税金だ。登記簿に記載されている内容に基づき、市区町村(23区については東京都)が実態を把握して課税する。所得税や相続税と異なり、市区町村や東京都が固定資産税評価額を元に税額を計算し、納税通知書を納税者に送付して期日までに納税してもらう仕組みだ。余談だが、未登記の土地・建物でも固定資産税は課税される。

特徴1.毎年かかる

1つ目の特徴は「毎年かかる」という点だ。毎年1月1日時点で土地・建物の所有者として固定資産課税台帳に名前が記載されている人に対し課税されるのだが、実際に納税通知書と振込用紙が届くのは毎年4~6月頃だ。自治体によって異なるが、6月・9月・12月・2月の年4回に分けて納付するのが一般的である。一括で払うことも可能だが、原則割引になったりはしない。

特徴2.3年に1回見直し

固定資産税は永遠に同じ金額で課税されるわけではない。情勢に応じて不動産の実勢価格は変化する。建物に関しては、経年劣化で徐々に資産価値は落ちていく。そのため、3年ごとに評価額の見直しを行っているのだ。なお、2020年度は評価額の見直しが行われないため、課税の基準となる評価額(固定資産税評価額)は2018年度に評価された価額となる。

特徴3.土地建物の用途や状態で税額が変わる

固定資産税はその土地や建物の使い道で税額が変わる。事業用の土地や建物、更地は、固定資産税が本来の税額で課税される。しかし、住宅用の建物や土地は、固定資産税が安くなる。なぜかというと、居住用の不動産は日常生活に欠かせないため、社会的配慮をしないと税負担が重くなってしまうからだ。加えて、住宅に耐震改修やバリアフリー化、省エネ化が施されているとさらに固定資産税が軽減される。

固定資産税の簡単な計算方法

固定資産税は市区町村や都が計算し、納税者に通知をする賦課課税方式を採用している。ただ、どのように税額が計算されているかを知らないと納税者としてはやや不安に感じるだろう。そこで、この項目では、固定資産税がどのように計算されているかを簡単に解説する。

固定資産税は「固定資産税=課税標準×1.4%」という算式で計算する。注目したいのは「課税標準」だ。この課税標準とは土地や建物の評価額であり、それぞれ決定方法が次のように異なる。

土地の課税標準とは

土地の課税標準は大まかに次の2パターンに分かれる。

  • 宅地(自宅や建物の敷地となるもの)…毎年3月中旬に国土交通省が発表する公示地価の約7割相当額
  • 宅地以外(農地や雑種地など)…売買実例価額など

建物の課税標準とは

建物の課税標準は、「この建物を一から建築したらどれくらいコストがかかるのか」という建築費に経年劣化分を加味して評価した金額となる。

固定資産税を安くする住宅選び3つのポイントと土地選びのポイント

「市区町村側で計算して勝手に課税してくるものだから節税のしようがない」と思われがちな固定資産税だが、前述の通り、住宅についてはポイントを押さえておけば節税できる。意識したいのは次の3つだ。

ポイント1.新築にする

固定資産税を節約したいなら、住宅は新築にしたほうがいい。なぜなら、新築住宅だと120平方メートルまで税額が半分に減額されるからだ。

ただし、新築であれば何でも半分になるわけではない。次の要件をすべて満たす新築物件に限られる。

1.2022年3月31日までに新築された住宅であること
2.住宅の居住用部分の床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下であること
 ・ただし、分譲マンションは専有居住部分の床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下
 ・戸建て以外の貸家住宅は一戸につき40平方メートル以上280平方メートル以下
3.事業用との併用住宅は居住用部分が1/2以上であること

さらに、この軽減措置もずっと続くわけではない。戸建ては3年、3階以上の耐火・準耐火マンションは5年が軽減期間だ。軽減期間が終わると、本来の税額で課税される。

ポイント2.長期優良住宅にする

さらに、住宅を新築にするにしても、「長期優良住宅」という、より耐熱性、断熱性、耐久性に優れ、維持管理のしやすい住宅を選ぶとメリットが大きい。税額が半額になる期間が次のように延長されるからだ。

  • 戸建て住宅:「3年間」が「5年間」になる
  • マンション等:「5年間」から「7年間」になる

つまり、新築する住宅を長期優良住宅にすれば、より長く節税メリットを享受できるわけだ。ただし、この適用を受けるには、上記の床面積要件(50平方メートル以上280平方メートル以下)を満たすほか、長期優良住宅の認定通知書を取得することが求められる。なお、この制度は2022年3月31日まで活用できる。

ポイント3.環境や災害、高齢者に優しい住宅にする

また、新築でなくてもリフォームで固定資産税を節税することができる。次のようなリフォームを行うと、1年間は固定資産税が軽減される。

ただし、これらの軽減を受けるためには、工事終了後3ヵ月以内に工事内容を証明する書類を市町村や都に提出・申請しなくてはならない。また、軽減措置の期限はいずれも2022年3月31日である。

1.省エネ目的のリフォーム

「夏は涼しく、冬は暖かい」という省エネ住宅にするためのリフォームを行うと固定資産税が安くなる。以下の要件をすべて満たす省エネ改修工事を行うと、工事の翌年度分の固定資産税が120平方メートル相当分を上限に1/3に軽減される。

  • 2008年1月1日以前から所在する住宅であり、賃貸物件ではないこと
  • 工事後の床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下であり、居住用部分が全体の床面積の1/2以上であること
  • 省エネ改修工事の費用が50万円を超えること
  • 省エネ改修工事が「窓のみ」または「窓と床・壁・天井のどれか」についての断熱改修工事であり、かつ、改修したところがどれも2013年省エネ基準に適合するものであること

2.バリアフリーのためのリフォーム

高齢者や障害者がより住みやすくするため、バリアフリーにするためのリフォームも固定資産税の節税につながる。次の要件を満たしたバリアフリー化の改修工事を行うと、工事の翌年分の固定資産税が100平方メートル相当分を上限に1/3に軽減される。

  • 新築してから10年以上経過している住宅であり、賃貸物件ではないこと
  • 工事後の床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下であり、居住用部分が全体の床面積の1/2以上であること
  • バリアフリー化の改修工事の費用が50万円を超えること
  • 「65歳以上の高齢者」「要介護または要支援の認定を受けた者」「障害者」のいずれかが住んでいること
  • バリアフリー化の改修工事が「通路の拡張」「浴室やトイレの改良」「手すりの取り付け」など、法律要件に該当するものであること

3.耐震強化のためのリフォーム

耐震を強化にするためのリフォームを行ったときも固定資産税が安くなる。以下の要件をすべて満たす耐震強化の改修工事を行うと、工事の翌年度分の固定資産税が120平方メートル相当分を上限に1/2に軽減される。

  • 1982年1月1日以前から所在する住宅であり、賃貸物件ではないこと
  • 現行の耐震基準に適合する耐震改修工事をしたこと
  • 耐震化のための改修工事の費用が50万円を超えること

4.リフォームにより長期優良住宅になったとき

「新築物件を長期優良住宅にすると固定資産税の軽減のメリットをより長く受けられる」と先ほど述べた。これはリフォームの結果長期優良住宅になったときも軽減のメリットが受けられる。上記「2.省エネ改修」か「3.耐震改修」をした結果、自宅が一定要件を満たす長期優良住宅に該当すると、工事の翌年度分に固定資産税の軽減枠が次のように拡充される。

  • 耐震改修により長期優良住宅になったとき:「1/2軽減」が「2/3軽減」になる
  • 省エネ改修により長期優良住宅になったとき:「1/3軽減」が「2/3軽減」になる

ポイント4.宅地は200㎡以下にする

土地は住宅の敷地(宅地)であるというだけで固定資産税の課税標準額が減額される。ただし、200㎡以内かどうかで次のように減額割合が変わる。

  • 住宅用地のうち200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)…課税標準額×1/6
  • 住宅用地のうち200平方メートル超の部分(一般住宅用地)…課税標準額×1/3

なお、この減額措置は土地の上に住宅があるときのみだ。つまり、住宅を取り壊してしまうと途端に3倍か6倍に戻ってしまう。

家屋調査には協力しよう

以上が住宅にかかる固定資産税の節税のポイントだ。この他に、もうひとつ、自宅の新築・増築なら誰でもやっておきたい節税策がある。それは「家屋調査に協力する」ことだ。なぜかというと、家屋調査の結果ひとつで固定資産税が変わるからである。

住宅を新築あるいは増築すると、市区町村の職員が住宅に家屋調査にやって来る。手紙や電話で訪問日時を打ち合わせた後で住宅を直接確認する流れで、確認するのは家の外部と内部の両方だ。外部では外壁や屋根、基礎工事などが、内部では床や壁、天井の資材などが調査対象となる。

この家屋調査での節税ポイントは「家主自らが調査に立ち会う」ことだ。家屋調査には立会人が求められるのだが、代理人でもよいともされている。それでも家主本人が立ち会った方がいい。なぜかというと、自ら立ち会えば、何がどのように評価されているかをその都度きちんと確認し、おかしな査定を事前に防ぐことができるからだ。

役所の職員と言っても人間だ。評価でうっかり間違えることもある。状況によっては本来あるべき評価額よりも高く査定され、その結果毎年の固定資産税が余計に重くなるおそれもあるのだ。

家主自ら立ち会う、正しく調査されているかを確認する、疑問があったらその都度聞く。これをするだけでも固定資産税が安くなる可能性がある。適正に評価がされるべく、家屋調査には協力しよう。

固定資産税を低めに抑えるポイントを理解しておこう

節税は難しいと思われがちな固定資産税は、ポイントを把握しておけばある程度節約することは可能だ。土地や建物を購入するときは、新築、長期優良住宅などの固定資産税が軽減される要件をふまえて選ぶよと良いだろう。(提供:THE OWNER

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)