「お薦めの投資信託、何かありますか?」筆者は昔からそんな質問を良く受けてきた。本音では「そんなの急には分かりません」と言いたくなる場面もあったが、そう答えてしまっては元も子もない。実際にはファンドマネジャーとして担当ファンドを持っていた頃は「私が運用している投資信託ならばどれでもお薦めです」と、今にして思えばやや傲慢な感じのする答えをしていたし、楽天投信投資顧問の社長時代は「当社のファンドは全て自信作です」などと答えてもいた。

「そんなの急には分かりません」と本音に近い答えを言えるようになったのは、バークレイズでISSチームのヘッドに就任した頃からだ。セルサイド(プライベートバンクといえども分類上はこっち)の投資ソリューションの親玉がそんなことで良いのか? と思われるかも知れないが、親玉だからこそ、そうあるべきだった。つまり、よくお伝えしているようにプライベートバンクは、お客様に仕立ての良いテーラード・スーツを作るような仕事をしている。従って、そのお客様のお好み(投資特性)を理解することなく「これなんかお薦めです」みたいな、商品プッシュ型の提案は出来ない。端的な例はアクティブ運用を是とするお客様に、インデックスものなどはお薦めしないということだ。

余談になるが、先日、旧知の超富裕層の方に「大島さんが言われているような、顧客の投資特性を充分に把握した上で提案をくれるようなプライベート・バンカーなんて、そうそう居ないですよ」と言われてしまった。誤解の無きように申し上げれば、筆者は自社をあるべき方向へ導くためにISSチームのヘッドを務めていたわけで、現実にそれが隅々まで全員に行き渡っていたかと言えば、在職5年の間に完遂出来なかったのは事実だ。当然、他社にまで筆者の影響力は及ばない。

さて話を元に戻そう。「なんかお薦めの良い投資信託は無いのかなぁ?」と金融パーソンに期待されている投資家が多いのは事実だ。更に言えば、その金融パーソンの間でさえも、お互いに情報交換をしながらお客様にお薦め出来る投資信託を探しているのも事実である。筆者が率いたチームのように、常時商品情報を集めて、ファンド分析をして、リサーチビューにも整合的な商品をセレクトしているファンド・チームのようなセクションを持っている例は稀だからだ。「売る」商品を決めて、その旗を振るセクションはどこにでもある。多くは会社の商品部門が「21年度上半期の注力商品はこれ」みたいな有無を言わさぬ仕切りをし、かつてのようなノルマまがいの数字までは落とさないまでも、何らかの目標値を定めたりしている筈だ。逆に言えば、営業活動に忙殺される営業担当者に、商品内容を細かく分析した上で、個々のお客様に最適な商品をご提案しろと期待するのは、彼らがお釈迦様か何かで無い限り、理想と現実のギャップが大き過ぎる。ただでさえ、昨今はコンプライアンスが厳しく、その手続きだけでも大変なのだから。

現状は投資信託の「良し悪し」を見極める好機だ

投資信託,選び方
(画像=CORA / pixta, ZUU online)

さて、こんな風にお伝えしてしまうと夢も希望もない感じに聞こえてしまうかも知れないが、実はそんなことは無い。特にこのCOVID-19の影響で市場が大きく揺れた昨今のような時は、投資信託の良し悪しを見極めるのに非常に良いタイミングだと言える。ざっくり思い出すだけでも、2月半ばまでは非常に好調なマーケットが続き、3月下旬には奈落の底に落ち込んでいくように騒ぎ煽られ、4月からは沢山の半信半疑なコメントを聞きながらも5月末現在でも株価は好調な戻しを成し遂げている。マクロ経済の指標で株価の戻りを支援しそうなものは少なく、寧ろ、リーマン・ショック時を上回る悪材料と成り兼ねないもののオンパレードが続いている。つまり専門家といえども市場環境は見極め辛く、AIのロボット運用(このAIに対する議論は別途する予定)と呼ばれたようなものでも、四苦八苦するような市場展開が続いているということだ。だからこそ、投資信託の良し悪しを見極めるのに非常に好都合なタイミングなのだ。