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先日中小企業庁が、中小企業の動向をまとめた「中小企業白書・小規模企業白書(以下、白書)」の2020年版を発表しました。2020年版は中小企業に期待される「役割・機能」や、それぞれが生み出す「価値」に注目し、様々な取り組みについて調査・分析されています。

この記事では、2020年版の白書の一部を抜粋し、事例と共に紹介していきます。白書では、中小企業が成長する手段としてオープンイノベーションを挙げているので、中小企業の方は参考にしてください。

※出典:「2020年版中小企業白書・小規模企業白書」(2020年4月/中小企業庁)

【総論】企業の新陳代謝と目指す姿の多様化

まずは調査の総論について見ていきましょう。中小企業庁の調査によれば、昨今の中小企業の動向として「後継者不足」と「多様化」の2つのポイントがあげられています。

●経営者の高齢化と後継者不足

存続している企業と廃業した企業の労働生産性を比較すると、総じて廃業した企業の方が低いことがデータで明らかになりました。労働生産性が低いが故に業績が低迷し、廃業に繋がることは容易に想像できるでしょう。しかしその一方で、廃業した企業の労働生産性の上位10%の平均値が、存続した企業の上位25%の平均値よりも高いというデータもあります。つまり、生産性が高く業績が低迷していないにも関わらず、廃業している企業が一定数いるということです。

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実際に廃業した企業の直前期の業績を見ると、約6割の企業が当期純利益が黒字という結果になりました。

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業績が低迷していないにも関わらず廃業する企業がいる原因は「経営者の高齢化」と「後継者の不在」にあります。経営者の年齢分布を見ると「70代以上」の経営者が増える一方で「40代」の経営者が減っており、年々経営者が高齢化していることが分かります。

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さらに社長の年齢別の後継者の有無を見ると、60代でも半数、70代で4割、80代でも3割の企業が後継者不在となります。経営者の年齢が高い企業であっても、後継者が決まっていない企業が多く存在することがわかるでしょう。

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後継者の不在により、黒字企業が廃業し、培って来た技術や従業員といった貴重な経営資源が失われるのは大きな課題です。国としても事業承継を促進させるための、様々な施策をとっています。その効果があってか、ここ数年で事業承継のあり方に大きな変化が訪れています。「同族承継」は年々減少傾向にあり、代わりに「内部昇格」や「外部招聘」といったケースが増えています。

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また、第三者承継の一つの形として期待を集めている「M&A」が増加傾向にあります。その理由として、比較的低コストで中小企業でもM&Aが行えるオンラインのM&Aマッチングサービスの登場が考えられます。経営者の高齢化や後継者不足が深刻化していく中で、M&Aによる事業承継が注目を集めていると言えるでしょう。

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多様化する中小企業と4つの類型

白書では様々な切り口から中小企業の多様性が示されました。それらを踏まえ、白書の中で中小企業に期待される役割や機能によって、次の4つの分類が紹介されています。

①グローバル事業を展開する企業(グローバル型)

②サプライチェーンでの中核ポジションを確保する企業(サプライチェーン型)

③地域資源の活用等により立地地域外でも活動する企業(地域支援型)

④地域の生活・コミュニティを下支えする企業(生活インフラ関連型)

それぞれの事例を紹介していきます。

①マスダックマシナリー:「どらやき機」の海外展開

食品機械の開発・設計を行うマスダックマシナリー。1957年の創業時から、こだわりの菓子を再現するための機械を開発しており、主力製品のどら焼き機は国内シェア90%を占めることもありました。

しかし、バブル崩壊後の景気低迷のあおりをうけて、同社の経営も苦境に立たされます。そこで突破口として勝機を見出したのが海外市場。2002年にパリで開かれた展示会に出典し、餡の代わりにチョコを使用したどら焼きを会場で配り、「サンドイッチパンケーキマシン」として機械を展示したところ、大きな反響を呼びました。その後は海外のニーズに対応した機械を製造し、世界各国で代理店を見つけて販路拡大を図ります。

今ではどら焼ききの海外シェアはほぼ100%、40カ国以上に販売し、海外売上高比率は2~3割にまで成長して同社の重要な収益源となりました。同社はその経験を活かして、国内の製パン・成果関連企業と海外展示会への共同出展にも取り組み、業界全体で海外経験を重ねてグローバル化を図っています。

②株式会社中山製作所:日本の腕時計のサプライチェーンを支える

腕時計のリュウズ、ボタンといった外装品の製造を中心とした精密部品メーカーである中山製作所。同社ほどの技術をもつ競合他社が少ないことから、国内の有力時計メーカーにとって欠かせない中核企業です。

創業当初は腕時計の内装品製造を手掛けていましたが、途中から外装品製造に舵を切り、国内での販路を拡大しました。1994年には海外にも進出し、サプライチェーンの中核企業としての地位を確立していったのです。1985年には光通信用コネクタ部品や食品関連部品の精密部品の製造にも参入。腕時計の外装品事業で培ってきた高い技術力と実績を基に業績を拡大し、今では同社の売上の3割を担うほどに。

このようなサプライチェーンの中核企業のおかげで、日本が技術先進国であり続けられているのです。

③大髙商事株式会社:地域資源を活用して業績回復

沖縄の大髙商事はもともと、機械機器等の卸販売をしていた商社。その後、スポーツ用品の販売を手掛けるも、価格競争の激化により業績が低迷します。商社という業態に限界を感じた同社は、自社ブランドの商品の開発に着目。既に認知度を得ていた「かりゆしウェア」に「伝統工芸品×スポーツウェア」のコラボ商品の開発を始めます。

大手スポーツメーカーの特許技術やデザイナーの力を借りながら、機能性と伝統を兼ね備えた商品の開発に成功しました。地元のサッカーチームともコラボして知名度を向上させ、県外・海外へと販路を広げて事業を成長させ、業績回復を果たしたのです。

今では沖縄の天然資源であるアセロラを用いたスポーツドリンクを開発する他、アスリート支援・スポーツ振興の取り組みを続けています。

④吉野川タクシー有限会社:地域に密着して新たなサービスを開発

徳島県徳島市の吉野川タクシーは、「独創的なサービスにより、顧客に寄り添うイノベーションを社会に起こすこと」を理念に掲げ、新たなサービス開発やIT化に取り組んでいます。

例えば破水のおそれがあるため、乗車を拒否される不安があるという妊婦の声をもとに開発したのが妊産婦専用の「マタニティタクシー」。安全性能の高い専用車両とヘルパーの資格を持つドライバー、必要に応じて防水シートを装着するなどの気遣いから利用者から高い支持を得ています。

また、塾への送迎する車で渋滞が生じているという声から「キッズタクシー」を考案し、複数の子供を相乗りして塾や習い事への送迎をしています。両親の負担も減らすこともでき、地域の住民から喜びの声も。積極的にIT化を進めて業務を効率化していることも相まって、同業他社よりも高い給与水準を実現しています。

調査では、4つの類型は期待される役割や企業の目指す姿が異なるため、必要な支援策も当然異なるとされています。今後は中小企業の多様性を踏まえたきめ細やかな支援が重要だと綴られました。

中小企業が価値を生み出すために

白書では、中小企業がいかにして価値を作り出していくのかついても言及されています。4つの観点から見ていきましょう。

●付加価値の増大

白書では、企業の付加価値を「企業から新たに付け加えた価値(=売上高から外部調達費をひいたもの)」と定義し、いかに付加価値を増大させるかについて記されています。

生み出された付加価値は「人件費」「その他費用」「利益」に分配され、新たな付加価値を作る起点となるのです。日本は今、残業規制や同一労働同一賃金といった「働き方改革」が急速に進められているため、労働分配率(人件費/付加価値額)が高止まりの状態が続いています。

付加価値を上げられなければ、従業員の給与も上げられず、新たな付加価値が作れないというマイナスのスパイラルに陥ってしまうでしょう。白書では、付加価値を増やすために価格を上げ、従業員に投資している事例が紹介されています。

三重県で旅館・ホテルを運営する株式会社モアレリゾートでは、「自社の利益確保」と「宿泊客の満足」が両立するため「適正価格」を意識した経営を進めています。従業員教育や設備投資に特に力を入れている同社は、接客や料理の質を向上させるために、価格改定を行ってきました。今では周辺の宿泊業者よりも3割程度高い給与水準を実現しています。

●新規事業展開で「新たな価値」の創造

白書では付加価値を増大するために有効な手段として、「他社との差別化」と「新たな事業領域への進出」を挙げています。差別化に成功している企業ほど労働生産性が高く、新規の事業領域に進出した企業の4割は「販売数量」「販売単価」共に増加したというのがデータに現れています。

株式会社ハーツは、業界初となる運転手付きのトラックを30分単位でレンタルできる配送サービス「レントラ便」を提供することで売上が毎年10~15%成長しています。おかげで大手物流業者からの下請け業務がほぼなくなり「脱下請け」を実現しました。

また、産業機器メーカーのユアサシステム機器は、主力事業の売上激変を受け、「フレキシブルデバイスの耐久装置」を開発したことで、国内・世界シェア9割を獲得。世の中のニーズをいち早く捉えたことで、主力事業と並ぶ同社の柱となる事業に成長しました。

●オープンイノベーションによる可能性の拡大

社外の技術やノウハウを活用することは、中小企業の可能性を広げ、新しい技術開発やサービス創出のきっかけになります。特に異業種の企業や大学と連携している企業は生産性が大きく向上していることがデータから分かっています。

富山で溶解炉・熱処理炉の設計・製作などを行う工業炉メーカーの北陸テクノは射水市、JAいみず野、富山県立大学と共同で、もみ殻のリサイクル技術開発のプロジェクトを発足しました。

富山県射水市では、もみ殻の処理コストが課題となっており、同社は複数の外部研究者と共同で、有害物質を排出せずに、大量のもみ殻を処理できるもみ殻処理炉の開発に成功しました。この処理炉はリサイクル可能なもみ殻灰も製造でき、鳥取県の製造業者と共に、もみ殻をリサイクルしたゴムマットやコンクリートなどの製品化を目指しています。

●製品・サービスの優位性を価格に反映し、価格競争からの脱却

白書では調査した約半数の企業が、製品やサービスの優位性を「価格に十分に反映されていない」というデータが記されています。つまり、多くの企業が「この製品はもっと高く売れてもいいのに」と思いながら営業しているのです。中小企業が価格競争から脱却し、獲得できる付加価値額を増やしていくためには、優位性を顧客に発信し価格を上げても顧客との関係を良好に保つことが重要だと言えるでしょう。

山梨県でこだわりの野菜や専業を販売するスーパーを営む「ひまわり市場」は、質の高い独自商品を揃えることで他社と差別化を図っています。自社の商品の価値を来店客に効果的に伝えるために、独自のPOP広告や店内放送を用いて、生産者のこだわりやおすすめの調理法などを積極的に発信しています。

その結果、取り組みを始める前に比べて顧客単価・顧客数が増加し、売上高は3割アップしました。決して好立地ではないものの、その取組が話題となり、今では県外からも多くのお客が訪れています。

編集後記

白書の内容を要約するならば、中小企業が付加価値を増やすために「異業種企業、もしくは大学とオープンイノベーションをして新規事業を始め、その価値をしっかり伝える」ことが重要だと言えます。「新規事業」や「価値を伝えること」は多くの企業が取り組んできたと思いますが、一番のボトルネックとなるのはオープンイノベーションではないでしょうか。特に勝手の違う異業種や大学との連携はハードルが高いと感じてしまうのも無理はありません。

しかし、公的な調査書にまとめられるほど、オープンイノベーションはメジャーになってきており、多くの企業が不安を感じながらも第一歩を踏み出しています。近い将来には、自前主義では競争に勝っていくことは難しくなるでしょう。さらなる競争力を手に入れたい方は、ぜひオープンイノベーションを始めてみてはいかがでしょうか。

(eiicon編集部 鈴木光平)