日本初のコンビニエンスストア・チェーン「セブン-イレブン」を立ち上げ、「小売の神様」と呼ばれたカリスマ経営者・鈴木敏文 氏が、経営に際し掲げ続けた二大スローガン「変化への対応と基本の徹底」。43年間、それを実践するため、繰り返し繰り返し幹部・社員に語った肉声の言葉から、222項を厳選し、簡潔かつ明快な解説を加えた言行録3冊セット『鈴木敏文の経営言行録』(税込14,850円、日本経営合理化協会出版局)は、多くの経営者に“気づき”と“感動”を与えています。
本記事は、同書2巻「マネジメント」のP68-77から、一部を抜粋・編集して掲載しています。
目次
所得に応じて二極化に分けたマーケティング戦略をとれと言う専門家は論語読みの論語知らず。
所得格差拡大をめぐる議論が何かと取り上げられるが、流通の現場で接する日本の消費者の姿から浮かび上がるのは、依然、格差の少ない社会だ。家計の可処分所得の格差を示すジニ係数を見ても、日本は先進国の中でも特に格差の大きい国ではない。なのに、なぜ、格差について過敏に反応するのか。
現代社会の課題に鋭く切り込む論説で人気の高い東京大学名誉教授の月尾嘉男さんと対談した際、月尾さんは、「日本でこれまで長らく続いてきた平等で豊かな社会に過剰適応した結果ではないか」と説明された。
日本では誰もが専門店、百貨店、スーパー、コンビニなどを使い分ける。高級輸入家具店で買い物をしたあとに100円ショップにも寄る。先進国の中でも日本特有の現象だ。評論家は二極化に分けたマーケティング戦略をとれと言うが、実態を知らない論語読みの論語知らずだ。
需要を喚起するのは「価格」ではなく「価値」である。
高価格商品と低価格商品、二極に分けたマーケティング戦略をとれなどと評論家が言うのは、「需要を喚起するのは価格だ」という「価格の時代」の発想から抜け出せないからだ。
「価格の時代」から「質の時代」へ、 経済のパラダイムは今やまったく転換している。需要が供給を上回った時代から逆転し、供給が需要を上回る消費の飽和時代には、購買力と消費を結びつけて考える従来の経済学はもはや通用しない。
繰り返し言うが、お客様は何を買いたいかと言えば、価値を買いたい。買うだけの価値がなくて、いらないものはタダでもいらない。
「質の時代」においては、需要を喚起するのは価格ではなく価値であり、売り手は提供する価値によって自己差別化をしていかなければならない。
フェアプライスかどうかが消費を左右する。
価格の安さも価値の一要素だが、2008年のリーマン・ショック前後から、消費者の間で特に強まってきたのが「価格と価値の両にらみ」の傾向だ。