コアCPI上昇率は2ヵ月連続のマイナス
総務省が6月19日に公表した消費者物価指数によると、20年5月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比▲0.2%(4月:同▲0.2%)となり、上昇率は前月と変わらなかった。事前の市場予想(QUICK集計:▲0.1%、当社予想は▲0.2%)を下回る結果であった。
生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比0.4%(4月:同0.2%)、総合は前年比0.1%(4月:同0.1%)であった。
参考値として公表されている消費税調整済(幼児教育無償化の影響も調整)のコアCPIは前年比▲0.6%(4月:同▲0.6%)であった。
コアCPIの内訳をみると、ガソリン(4月:前年比▲9.6%→5月:同▲16.4%)、灯油(4月:前年比▲9.1%→5月:同▲16.5%)の下落幅が大きく拡大したことから、エネルギー価格の下落率は4月の前年比▲4.7%から同▲6.7%へと拡大した。
一方、新型コロナウィルス感染拡大に伴う観光需要が急速に落ち込む中でも、宿泊料(4月:前年比▲7.7%→5月:同▲4.0%)、外国パック旅行(4月:前年比▲11.7%→5月:同▲6.2%)の下落幅が縮小したことなどから、教養娯楽が4月の前年比0.3%から同1.2%へと伸びを高めたことがコアCPIを押し上げた。
食料(生鮮食品を除く)は前年比1.4%(4月:同1.3%)となり、引き続きコアCPI全体を明確に上回る伸びとなっている。人件費、物流費の上昇に消費税率引き上げの影響が加わり3%台の伸びを続けてきた一般外食が、外出自粛、休業要請の影響で売上が大きく落ち込んだことを反映し、前年比2.8%(4月:同2.9%)と伸びが鈍化したが、内食需要の高まりから、菓子類(4月:前年比2.9%→5月:同3.0%)、調理食品(4月:前年比0.5%→5月:同1.0%)の伸びが高まった。
コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.71%(4月:▲0.54%)、食料(生鮮食品を除く)が0.22%(4月:0.18%)、その他が▲0.04%(4月:▲0.18%)であった(当研究所試算による消費税、教育無償化の影響を除くベース)。
食料品を中心に上昇品目数が増加
消費者物価指数の調査対象523品目(生鮮食品を除く)を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると(消費税率引き上げの影響を除いている)、5月の上昇品目数は279品目(4月は266品目)、下落品目数は187品目(4月は197品目)となり、上昇品目数が前月から増加した。上昇品目数の割合は53.3%(4月は50.9%)、下落品目数の割合は35.8%(4月は37.7%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は17.6%(4月は13.2%)であった。
消費税率引き上げ後、上昇品目数は減少傾向が続いていたが、5月は食料品を中心に上昇に転じる品目が目立った。
コアCPIの下落は長期化する見込み
コアCPI上昇率は2ヵ月連続のマイナスとなったが、基調的な物価動向を示すコアコアCPIの上昇率はプラス圏で踏みとどまっている。自粛要請、緊急事態宣言発令を受けた需要の急激な落ち込みによる物価への影響は現時点では限定的と考えられる。
足もとの物価下落はエネルギー価格の急低下によるところが大きいが、原油価格の持ち直しを受けて6月以降はエネルギー価格の下落幅が縮小することが見込まれる。一方、緊急事態宣言の解除を受けて個人消費は持ち直しているものの、外食、旅行などのサービスを中心としてそのペースは緩やかなものにとどまっている公算が大きい。このため、需給面からの物価押し下げ圧力は当面強い状態が続くだろう。また、企業業績の悪化を受けた賃金の下落は長期にわたりサービス価格の下押し圧力となる可能性が高い。コアCPI上昇率は20年度末までマイナス圏で推移することが予想される。
なお、新型コロナウィルス感染拡大を受けた自粛要請、緊急事態宣言の発令により需要がほぼ消失してしまった分野では、一部の品目で価格データの取得が困難となっている可能性がある。
総務省統計局は5/22に、消費者物価指数に関するQ&Aで、『店舗の臨時休業や商品の在庫不足などにより、価格データが得られなかった場合、月々の価格変動が小さく、市場における出回りが途切れないと考えられる品目などについては、前月の価格を用いて計算します。生鮮食品や一部の衣料品など、季節的な価格変動がある品目などについては、当該価格データを外して、品目の指数を計算します。』と説明している。
足もとの消費者物価指数は、一部の品目で価格データが取得できないことにより、一定の上方バイアスが生じている可能性があることには注意が必要だ。
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任
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