60歳で定年を迎えていた時代とは異なり「60歳で働くことをやめる」といった意見はほとんどなくなっているのが現代の特徴です。働き続ける理由は、「経済的理由」「健康のため」「生きがいのため」など多岐にわたります。しかし昭和時代の高齢者と違い気持ちや体力面でも充実しているシニア世代が労働人口を担う世代として活躍することで社会もおおいに活性化しているともいえるでしょう。
年金をもらう年代になっても働く人が増えたことで在職老齢年金が注目されてきました。本記事では分かりにくい在職老齢年金制度について解説していきます。
「働けるうちはいつまでも」という回答が42%と断トツ
人生100年時代といわれている中で「元気なうちはできるだけ働きたい」と思っているシニア世代も多いのではないでしょうか。内閣府の「令和元年度版 高齢社会白書」によると「あなたは、何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいですか」の問いに対して一番多かったのは「働けるうちはいつまでも」で42%でした。次いで「70歳ぐらいまで」が21.9%、「65歳くらいまで」は13.5%となっています。
このように公的年金が受給できる65歳以降も多くの人が労働で賃金を得たいということが理解できるのではないでしょうか。しかし老後に働く際に気になってくるのが在職老齢年金です。
在職老齢年金制度の背景
在職老齢年金制度は、働いて収入を得ている人に支給される老齢年金として1965年に作られ、その後も制度改正が何度か行われています。老齢年金は働いている間は1円ももらえないのが原則でした。しかし高齢者が働く場合、賃金が低く抑えられるケースが大部分だったため、「働いている間も条件付きで老齢年金を支給する」という名目のもとできた制度なのです。
その後1985年に年金大改正が行われ改正前を「旧法」、改正後「新法」と呼ぶのが習わしとなりました。この時点で「旧法」では老齢年金開始支給時期は60歳でしたが「新法」で65歳となります。「5年延びる」ということは、年金受給者にとって大打撃のため、緩和措置が設定されたのです。国民年金(老齢基礎年金)は、65歳以降に支給、厚生年金部分は生年月日によって支給開始年齢が変わってきます。
例えば 1957年(昭和32年)4月2日生まれの男性の場合は、63歳から厚生年金の報酬比例部分を受け取ることが可能です。この報酬比例部分のことを「特別支給の老齢厚生年金」と呼びます。上記の表で報酬比例部分がある生年月日の人は以下のような支給になるのが特徴です。(2020年4月現在)
「特別支給の老齢厚生年金の基本月額」+「給与・賞与の合計額」が28万円を超えた場合
年金の一部もしくは全額が支給停止します。
「特別支給の老齢厚生年金の基本月額」+「給与・賞与の合計額」が28万円以下の場合
特別支給の老齢厚生年金は全額支給です。
「特別支給の老齢厚生年金の基本月額」+「給与・賞与の合計額」が47万円を超える場合
特別支給の老齢厚生年金は、一部支給停止となります。
在職老齢年金の計算方法は4つのパターンがありますが、ここでは省略します。65歳以降は上記の表の通り基本全員が老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受給することが可能です。しかし厚生年金に加入しながら働き続ける場合で「老齢厚生年金の基本月額と給与・賞与の合計額=総報酬月額相当」が47万円を超えた場合、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。
そのため「老齢厚生年金基本月額+給与・賞与=総報酬月額」が65歳までは28万円と47万円、65歳以降は47万円を超えるかが一つの判断基準となるでしょう。
在職老齢年金の改正ポイント
男性2025年、女性2030年からは老齢基礎年金と老齢厚生年金は65歳以降の支給となります。しかし2020年6月時点でその基準額が28万円から47万円へ引き上げる議論がなされているのです。対象となるのは「特別支給の老齢年金」支給対象者だけですが高齢者雇用安定法により希望者は定年が65歳まで延長されるため、「働きたい層」がかなり増加することが予想されます。
現行の基準額28万円により「働き損になる」という現状を変える意味では、支給停止調整開始額を47万円へ引き上げることは、理にかなった改正といえるでしょう。
シニアの働き方の多様性と在職老齢年金制度
今後はより一層少子高齢化社会が進むことが予想されています。また新型コロナウィルスの感染拡大により「新しい生活様式」がうたわれ始めました。「令和元年度版 高齢社会白書」によると労働力全体に占める65歳の割合が、2008年8.5%、2013年9.9%、2018年12.8%と確実に伸びています。今後もこの流れは止まらないでしょう。
すでに2008年をピークに日本の総人口は減り始め今後労働人口も減少していくことは確実です。日本政府が「一億総活躍社会」を唱える理由は、いかに労働生産性を上げるかを考えた結果といえるでしょう。現役世代とのバランスを上手に取りながら高齢世代の労働力をそぐことなく活用していく社会を作るために在職老齢年金制度の変革は必要です。(提供:YANUSY)
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