不動産オーナーに課せられる税金は、所有者が個人か会社のいずれであるか、また、譲渡と相続のいずれかによる取得かによっても変わってくる。今回は、不動産の中でも、土地の売却や相続について、個人所有と会社所有で税金の負担がどのように違うのかを説明する。
会社が土地を売却するときにかかる税金は?
個人が土地を売却した場合は、譲渡所得税等が課されるのに対して、会社が土地を売却した場合は、法人税等が課される。ここでは、土地の売却によって、個人や会社にかかるこれらの税金が、どのように計算されるのかを説明する。
個人が土地を売却したときの税金は何か?
個人が土地を売却した時には譲渡所得が生じ、他の所得と分離した上で所得税や住民税が課税される。いわゆる分離課税という計算であり、累進税率である総合課税からは分離されることとなるため、高額所得者が給与所得や事業所得を高めに申告していたとしても、土地の譲渡所得は合算されないことから、税負担が重くなることはない。
土地の売却に適用する税率については、所有期間が5年超の「長期譲渡所得」と、所有期間が5年以下の「短期譲渡所得」の二通りに分けられる。
それぞれの税率は、短期譲渡所得に対しては39.63%(所得税30.63%+住民税 9%)、長期譲渡所得に対しては20.315%(所得税15.315%+住民税 5%)である。また、居住用のマイホームを譲渡した場合には軽減税率の特例があり、譲渡所得から3,000万円の
特別控除を受けることができる。
会社が土地を売却したときに課される法人税とは?
会社が土地を売却すれば利益が発生するため、他の利益と合算した総額に対して法人税等が課税される。法人税の計算では、個人が土地を売却した場合の譲渡所得と違って、分離課税は行われない。
また、法人税は個人の所得税のような累進税率ではないため、優良企業が大きな利益を計上していたとしても、税率が上がって税負担が重くなることはない。
近年、法人税と地方税の両方を合わせた税負担率である「実効税率」は低下傾向にある。税制改革の実施によって2019年10月から、資本金1億円以下(外形標準課税不適用、東京都、標準税率)の会社の法定実効税率は33.58%(年800万円超)である。
つまり、会社が土地を売却すれば、売却益に対して法定実効税率約33%の税金が課されるということだ。個人のように最高税率55%まで税率が上昇することはないため、税負担は個人が土地を売却するよりも軽くなっている。
会社の税金の計算方法は?
会社の税金の課税標準である各事業年度の所得金額は、事業年度の益金額から損金額を控除した金額である。原則として、法人の利益は、公正妥当と認められる一般的な会計処理の基準によって決算が行われていれば、法人税法上も認められるものとなっている。
しかし、会計上の利益の金額がそのまま所得額となることは稀であるため、法人税法上は「別段の定め」を規定しており、利益額と所得額の差異を調整することとしている。つまり、利益の額に対して加算・減算調整するものが、それぞれ規定されているのである。
法人税申告書において、所得計算は「別表四 所得の金額の計算に関する明細書」で行う。これは、会計上の利益から所得金額を導き出して計算するためのものである。
会社の利益と所得金額が一致しないと、会計上の利益剰余金と税務上の利益積立金額に差異が発生する。そこで、会社の税務上の利益積立金や資本金などの金額と移動状況を示すものとして、法人税申告書の「別表五(一)利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」の作成が必要となる。
会社が土地を売却するときの消費税とは
消費税は、消費に対して広く公平に負担を求める間接税である。消費税は以下を対象に課税される。
・国内で事業者が事業によって対価を得ながら実施する資産の譲渡など
・外国貨物を引取った場合
2020年4月現在、消費税率は7.8%となっており、地方消費税率が2.2%課されることから、これらを合わせて、消費税の標準税率は10%である。
基本的には、土地の売却には消費税は課されない。土地には、借地権などの土地の上に存する権利を含むが、この譲渡や貸付けは消費税の非課税取引となる。 ただし、1ヵ月未満の土地の貸付けや、駐車場などの施設の利用が伴う土地の貸付けを行う場合には消費税が課されることには留意が必要である。
資産管理会社へ土地を売却することによる税金対策
税金対策にはさまざまな手法があるが、個人で所有する土地建物を会社に売却することによって、所得税や相続税などの将来の税負担を減らすことができる。ここでは、土地売却による減税の仕組みと手法を説明する。
なぜ会社に不動産を所有させると所得税が軽くなるのか?
不動産オーナーの賃貸経営の主体を、個人から会社に切り替えることで、税負担を軽くできる。個人経営と異なり、会社経営を行うことになれば、不動産オーナー個人は、不動産所得を得られなくなる代わりに会社から給与をもらうことができる。
給与所得へと変更されることで、給与所得控除や所得分散効果などの税務上の特典が適用されることとなり、個人経営よりも会社経営の方が所得税等の負担が軽くなる。会社を経由させて家賃を受け取るだけで、所得税等に対する税金対策ができるのである。
なぜ会社に不動産を所有させると相続税が軽くなるのか?
相続税は、不動産オーナー個人が亡くなったときに、所有している財産に課される税金である。個人経営をしている場合の相続財産は、土地や建物、これまで事業を行うことで稼いだ現金や預金であろう。
会社経営であれば、不動産の所有者を変更することで、相続税負担を軽減させることができる。不動産オーナー個人が土地や建物や現金預金を直接所有するよりも、、会社の株式(出資持分)を通じて間接所有するほうが、相続税評価を小さくすることができるからである。
これは、不動産オーナー個人の相続財産が、「非上場株式」(合同会社の場合は「出資持分」)に転換され、その相続税評価が引下げられるからである。
もちろん不動産の賃貸経営を行っているという実態は、個人経営であっても会社経営であっても変わらない。しかし、土地や建物を個別に評価するよりも、それらを所有する会社の株式を評価するほうが、相続税額の算出額が小さくなるのである。
会社への売却によって税負担を軽減できるか?
土地や建物を会社が所有することで、所得税と相続税のいずれも税負担の軽減効果があることがわかった。それでは、個人が所有する土地建物をどのように会社へ移転すればよいのだろうか?
その方法が、個人の所得を会社へ移す「不動産の法人化」である。
不動産の法人化を実行するとしても、不動産取得税や登録免許税などの移転コストの負担や、個人の譲渡所得税に関しては無視することはできないが、土地と建物の両方を会社へ移転させればよいわけではない。税負担の軽減額とコストの増加額を比較衡量した結果、コスト負担が大きすぎて、会社への売却を断念すべきケースもあるのだ。
土地建物を会社へ移転させるべきか?
不動産オーナーが所有する土地については、先代の経営者である親からの相続で取得しているケースもある。この場合、不動産オーナーが所有している土地は、自ら購入したものではなく親から無償で相続したものであるため、土地の売却に伴う譲渡所得を計算しようとしても、土地の取得費が判らないこともある。
相続している土地の不動産売買契約書が見つからない場合は、概算取得費5%を適用して譲渡所得税を算出しなければならない。その結果、土地の売却によって多額の譲渡所得が発生し、所得税負担が想像以上に重くなることもあり得るため、不動産の法人化を実行する場合、会社への土地の売却を断念してしまうことになる。
一方、建物であれば、会社へ売却しても大きな譲渡所得が発生するケースは少ない。
例えば、収益性の高い賃貸物件が最適なものとなるだろう。木造の中古物件など、建築後に相当年数が経っており、減価償却費が小さい物件が適している。このような物件であれば、建物の簿価や固定資産税評価額が低いため、可能な限り多くの所得を個人から会社へ付け替え可能であり、移転コストの負担も軽くなるはずだ。
よって、不動産の法人化を実行するならば、建物だけを会社へ売却することを、まず検討した方がよいだろう。
不動産を会社に売却するときの価額は?
個人が会社へ土地建物を売却する場合、それらの譲渡価額は「時価」としなければならない。財産評価基本通達によれば、「時価」は以下のように定義されている。
課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額
土地の売却によって生じる個人の譲渡収入と取得費等の差額は譲渡所得となるため、所得が発生すれば所得税等が課される。
建物のような市場取引が存在しない資産については、その時価が不明であることから、所得税法上の帳簿価額(減価償却後の未償却残高)が時価とみなされ、譲渡所得が発生しないため、所得税が課されることはほとんどない。
土地については、近隣で行われた売買の事例から実勢価格を推測したり、不動産鑑定士に土地の鑑定を依頼して、不動産評価額を調べることができる。こういった、市場価格や鑑定評価額を所得税法上の時価とするため、土地の売却においては譲渡所得が発生し、所得税が課されることが多いのだ。
不動産の税金については専門家に相談を
今回は、不動産法人化を目的に、個人から会社へ不動産を売却するケースを中心に説明した。建物と異なり、土地を個人から会社に売却すると、税金の負担が想像以上に多額になる場合がある。それ故、不動産法人化を実行する際には、土地を売却するのではなく、建物だけ移転すべきだと考えていただきたい。
個人が土地を所有し、会社が建物を所有することが、不動産オーナーの基本形となるだろう。(提供:THE OWNER)
文・古尾谷 裕昭(税理士)