かつては「企業の敵」として排斥されがちだった「物言う株主」アクティビストですが、最近は企業価値向上や株主利益還元に軸足をおいた経営がトレンドとなっていることもあり、社会的に存在が認知されるようになってきました。

企業側も、IR担当役員がミーティングの機会を設けるなど、アクティビストとの協調を勧める会社も増えてきました。それでも経営者にとって、アクティビストが怖い存在であることに変わりはありません。

中でも怖れられているのが、今回紹介するショートセラーです。

会計不正を暴き株価下落で稼ぐ「空売り屋」

ショートセラー
(画像=zephyr-p/stock.adobe.com)

ショートセラーとはいわゆる「空売り屋」ですが、単に空売りで稼ぐだけではありません。ショートセラーのビジネスモデルは、「調査」と「投資」が車の両輪です。

ターゲット企業の会計不正やネガティブ情報(業績不振など)を徹底的に調べ上げ、調査結果に基づき空売りを仕込み、タイミングを見計らって公表するのです。

ショートセラーの源流は、2001年にまで遡ります。キニコス・アソシエイツを運営するジム・チャノス氏が、当時絶好調だった新興エネルギー企業エンロンの不正(デリバティブによる収益の水増しなど)を見抜いたのです。俗にいうエンロン事件で、同社は破綻に追い込まれました。

「中国のスタバ」を窮地に追い込む

「ラッキンコーヒー」と聞いてピンと来るなら、なかなかの中国通といえるでしょう。日本ではほとんどなじみがありませんが、中国の大都市では誰もが知っているコーヒーショップです。

ラッキンコーヒーは、2017年に設立されたスタートアップです。比較的リーズナブルな価格、店舗デザインやコーヒーのおいしさ、電話注文OKな小回りの良さなどが受けてここ数年で急成長、店舗もスタバを超える4500店までに拡大します。さらに株式市場でも1年半の短期間でナスダック上場を果たし、破竹の拡大を続けていました。

ところが、武漢に始まる一連の経済封鎖で風向きは180度変わります。さらにこのタイミングを狙い撃ちしたかのように、偽装取引(330億円)が監査判明したと公表されます。

事件は株価を直撃、報道と同時に株価は8割も下落し多くの投資家が損失を被りました。引き金となったのが、マディ・ウォーターズ社が2月上旬に発行されたによるレポートです。

マディ社の調査は、ラッキンコーヒーが店舗を構える50以上の都市に調査員を派遣、録画を通じてラッキンの偽装取引を暴く徹底ぶりです。致命傷となったのはコーヒー販売数の改ざんで、ラッキンは言い逃れできない窮地に追い込まれ公表に至ったわけです。

ラッキンコーヒーだけでなく、ガバナンス面の弱い中国企業の会計不正が最近相次いで発覚しています。同じく4月には、ナスダックにも上場されている百度系動画サイトの愛奇芸が、米ウルフパック社のレポートにより決算書改ざんが露見しました。

ショートセラーのターゲットはUAE、そして日本企業にも

とくにマディ社は、中国企業から「殺し屋」と呼ばれ、「眼をつけられたら一巻の終わり」と怖れられています。

マディ社がターゲットとするのは、売り上げ水増しなどによる株価操縦を常套手段とする企業です。代表のカーソン・ブロック氏は上海でのビジネス経験も長く、中国の企業風土や体質、経営者のやり口を熟知しています。

過去マディ社にねらわれた中国・香港系企業は10社以上におよび、酪農業で中国最大手の輝山乳業など全部で6社が上場廃止などに追い込まれています。

マディ社の標的は、なにも中国企業だけではありません、昨年12月にはUAE(アラブ首長国連邦)に本拠を置くNMCヘルスや金融サービスのフィナブラーがマディ社のレポート公表により株価が急落、7億ドルが蒸発しました。また、日本企業もねらわれており、4年前には大手総合商社、最近ではバイオ医薬品の新興企業がターゲットになりました。

株式公開企業においては、その企業会計、財務状況にますますの透明性が求められるなか、独自の調査によって企業活動に警鐘をならすアクティビスト「ショートセラー」の存在感は、世界的に増しています。今後も、ショートセラーの動きからは目が離せません。(提供:JPRIME


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