不動産投資をするために法人を設立することはよくあります。株式会社として不動産経営を行うことにはメリットも多いのですが事務処理にかかる経費は少なくありません。その中でも決算公告は官報に掲載する場合、年間7万円強を負担することになります。しかし電子公告の仕組みを使えば年間数千円に抑えることも可能です。
本記事では会社の決算公告をできるかぎり費用をかけずに行う方法を解説します。
決算公告が義務づけられている法人
決算公告とは、法人の財務内容を公開することです。会社法第440条1項により株式会社に義務づけられています。決算の他にも合併や資本減少など法人の大きな組織変更の際には公告が必要です。一般社団法人にも決算公告の義務はありますが不動産投資で用いるケースは少ないでしょう。合同会社や個人の不動産賃貸業には義務づけられていません。
公告の方法は「官報に掲載する」「日刊新聞に掲載する」「インターネットサイトに掲載する」といった3種類です。インターネットに掲載する方法を「電子公告」と呼びます。定款に公告の方法を記載するのが一般的です。定款への記載は任意ですが記載しない場合は「官報に掲載する」を選択したことになります。
法人設立時に行政書士や税理士からたいした説明もなく官報による方法になっているケースも少なくありません。公告の義務を果たさないと最大100万円の過料(罰金のようなもの)が科せられることがあります。
電子公告で年間数万円の費用削減が可能
官報は政府が発行する新聞のようなものです。全国の官報販売所で申し込むことができ料金体系は一律になります。ただし大きな会社ほど記載する内容が多くなるため、料金もかかります。不動産賃貸業であれば最小枠(2枠)の7万4,331円(税込み)に収まるでしょう。この費用が決算ごとに発生するため毎年7万円以上の出費になるわけです。
新聞による方法はさらに費用がかかります。広告枠の最低料金は日刊工業新聞が約9万9,330円(税込み)、日本経済新聞の場合は約35万8,600円(税込み)です。これはあくまでも最小枠を利用したときの料金になるため実際はさらに高額になるかもしれません。しかし電子公告を用いると負担はぐっと減ります。
もし自分でホームページを持っており更新も自力でできるのであれば費用はかかりません。代行業者を利用する場合の決算公告は年間5,000~1万円前後が相場です。ただしこれは決算公告の場合です。合併や資本減少など決算以外の電子公告は、調査機関による調査を受ける必要があるため官報公告よりもかえって費用がかさんでしまいます。
最も費用を抑えられる公告の方法は、決算のみを電子公告にすることです。こうすると年間約6万~7万円の費用削減になります。
電子公告をするために必要な手続き
決算公告を電子公告にする際に必要な手続きは、登記の変更です。公告を掲載するホームページのURLの記載が必要になり変更登記には3万円の登録免許税が発生します。すべての公告方法を官報公告から電子公告に切り替える場合、定款を変更しなければなりません。定款の変更は株主総会の決議を経ることが必要です。
つまり株主総会を行ったあと議事録を作り添付して変更登記申請することになります。ただし決算公告のみを電子公告とする場合には、定款の変更は必要ありません。登記変更手続きの際に添付する書類は委任状のみです。司法書士に代行を依頼せず、自分でやる場合は申請書類のみ提出で問題ありません。
「自分で登記申請をするのはハードルが高い」と感じるかもしれません。しかし書類を1枚作って法務局に持って行き収入印紙を買って提出するだけなので思っているよりも難しくはないでしょう。法務局には相談窓口もあるので平日に時間がある人は十分対応可能です。申請用紙は法務局のホームページでダウンロードできます。郵送でも受け付けており収入印紙は郵便局で買えます。
変更の内容(登記すべき事項)はオンラインまたはCD-Rに焼いて添付するのが原則ですが、たった3~4行なので申請用紙に直接記載して構いません。内容(「貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項」の文言)とURL、日付を書くだけです。詳細な申請内容は法務省のホームページを参照してください。
電子公告のデメリット
電子による決算公告におけるデメリットの一つは、不特定多数の人に決算書が見られる可能性があることです。しかし掲載先のサイトをGoogleなどの検索に引っかからないようにすることはできます。一方、登記事項はお金を払えば誰でも閲覧可能です。電子公告の場合、5年間は掲載しなければならないため、過去5年分の台所事情があらわになります。
しかし現実問題、わざわざ登記簿を確認して不動産管理法人の決算書を調べようとする人はあまりいないため、あまり気にする必要はないかもしれません。
電子公告に記載すること
電子による決算公告の様式は、官報公告の場合と異なります。官報は「貸借対照表の要旨」だけでよいのですが電子公告は「貸借対照表の全文」を載せなければなりません。さらにどちらの場合でも当期純損益の記載が必要です。例えば官報公告では「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」のようにざっくりとした分け方で問題ありません。(株主資本については少し細分化します)
一方、電子公告は固定資産を「建物」「建物付属設備」「構築物」など勘定科目ごとに記載する必要があります。そのため「現金預金額までが誰にでも見られる状態なのは、落ち着かない」という人もいるかもしれません。
決算時の作業
通常、決算では税理士が公告まで一貫して代行していることがおおいでしょう。もし何らかの事情があって自分でやらなければならないとしても電子公告は難しくありません。掲載代行業者に依頼している場合は、貸借対照表をPDFなどの画像データにして送れば後は業者が作業をしてくれるでしょう。
自分が保有するホームページを利用する場合は、貸借対照表と当期純損益を画像データにして掲載します。決算期によってページを分けると管理しやすいでしょう。例えば決算公告用のトップページがあり、その下に前期のページ、前々期のページとリンクを貼ります。登記しておくURLはトップページのみで構いません。
普段からホームページの操作をしている人であれば10分で終わる作業です。
大幅な経費節減になる電子公告
株式会社には決算のたびに貸借対照表を公表する義務があります。費用は官報公告が7万4,331円、電子公告が無料~1万円と大きな差があることが特徴です。また官報から電子へ切り替えるには変更登記が必要で司法書士報酬を除いて登録免許税が3万円かかります。電子公告は貸借対照表の全文を5年間ホームページに掲載しなければなりません。
人によってはデメリットと感じるでしょう。無理のない範囲で経費を節減し不動産投資の成功に役立ててください。(提供:YANUSY)
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