要旨
- 新型コロナの拡大に伴って立て続けに大型補正予算が編成された結果、今年度の新規国債発行予定額は過去最大の90.2兆円に達している。本来、需給の緩みへの警戒感から利回りが反発してもおかしくないが、長期金利はコロナ前と大差ない水準に留まっている。その主因は、言うまでもなく日銀による国債買入れ増額だ。少なくとも短期的には「国債が増発されたとしても、需給が緩まないように日銀が吸収する」との安心感が市場に浸透しており、長期金利の上昇圧力を吸収する形となっている。
- 今後も国債需給の緩みを背景とする潜在的な金利上昇圧力は続く可能性が高い。それに対して日銀が「どこまで金利上昇を許容するか」が長期金利の動向を占う最大のカギになる。この点に関する日銀からの説明はないものの、日銀が許容できる長期金利の上昇余地は殆どないとみられる。その理由は実質金利の上昇だ。予想物価上昇率の低下によって実質金利は既に大きく上昇している。今後も予想物価上昇率の低迷が見込まれる中で(名目)金利の上昇を認めれば、実質金利が一段と上昇して景気回復の逆風となるうえ、物価下落に拍車をかけかねない。また、長期金利の上昇許容が「金融緩和姿勢の後退」と受け止められて円高が進むリスクもある。従って、日銀は少なくとも年内は明確な金利上昇を許容せず、金利が現状と大差ない水準に留まるようにコントロールするだろう。年末にかけて、長期金利は0.0%~0.0%台半ば付近で推移すると予想している。
- 一方、超長期金利についてはある程度上昇余地があると考えられる。日銀は「超長期金利の過度の低下は望ましくない」とのスタンスを維持しているためだ。10年以下の金利に対する明確な上昇圧力にならない限り、超長期金利の上昇を許容するスタンスとみられる。20年国債利回りと長期金利の近年の利回り差を考慮した場合、既述の通り当面の長期金利に上昇余地がほぼ無いとすれば、20年国債利回りの上昇余地としては0.6%弱が目安になる。
- いずれにせよ、最近では政府による国債の大幅増発による金利上昇圧力を日銀が国債買入れ増額で強力に抑え込んでいる形になっており、もともと強かった国債市場における日銀の影響力はさらに強まっている。日銀のさじ加減一つで金利が大きく左右されることになるため、市場との対話の重要性もこれまでになく高まっている。