1棟マンション
(画像=Takashi Images/Shutterstock.com)

これまで首都圏のマンション価格は新築、中古とも7年連続で上昇を続けてきた。不動産経済研究所によれば、2019年の新築マンションの平均価格は5,980万円と7年前(2012年)の約1.3倍となった。また、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると、2019年の中古マンションの平均価格は3,442万円と7年前の約1.4倍となった[図表1]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

新築マンション市場では、売り主が強い価格決定権を持ち、売り出す戸数を価格競争が生じない程度に調整して需給バランスをとることで価格を維持している。新築マンションの価格と発売戸数の推移を見てみると、両者は反比例している[図表2]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

ただし、経済が明らかに低迷しはじめても、マンション価格はすぐに下落するわけではない。過去の市場崩壊の後もマンション価格がある程度維持されていた。平成バブル(1988~1989と定義)の崩壊の後には不動産価格は上昇し、価格が下がるまでに数年を要した。またリーマン・ショック(2008年9月)の後にはショック前から1割弱程度の下落である4,500万円の水準を維持しながら2013年には上昇に転じ、2019年には平成バブルと同水準にまで到達している。

その理由には、新築マンションの価格は簡単に下げることができないことがある。土地の仕入れ費用、建物の建設費、人件費などの費用は建物完成までに先行して投資する必要があり、計画の最終段階である販売により初めて費用が回収され、利益が計上されるからである。

また、現在の新築マンションの売り主は大手不動産会社が中心で、良好な資金調達環境にあることから、リーマン・ショック後のような投売りが起こりにくい。

しかしながら、コロナショックとは関係なく、2019年以降、発売戸数は明らかに減速している。月別前年比で発売戸数が前年よりプラスとなった月は、2019年以降は8月(+21.1%)の1か月のみ、2020年1月は▲34.5%,2月は▲35.7%の大幅減となっていた[図表3]。これにコロナショックの影響が加われば、2020年もさらに発売戸数が落ち込むことが予想される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、中古マンションの価格は図表4のとおり成約戸数と正比例している。

中古マンションの価格は、金融機関がローン残高が残る状態では抵当権を外さないため、ローン残高の水準を底に維持されやすい。リーマン・ショック後の価格にもほとんど変化が見られなかった。

しかし、リーマン・ショック後は取引件数が増加していることから、コロナショック後の経済の低迷によって取引件数の増加が見込まれ、良い物件に巡り合える可能性が上がるのではないだろうか。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

過去の推移や今の新築マンションの売り主の顔ぶれを見るに、高値水準でコロナショックが起こったからといって、マンションの価格がすぐに下落することはなさそうだ。

しかし、マンションの売れ行きの落ち込みが続けば、売り主はキャッシュバックや割引を検討せざるをえないだろう。

また、近年は取得競争により高値となった土地への投資費用を反映してマンション価格が高騰してきた側面があるが、マンションの売り主が土地を割安に取得できる環境になれば、2、3年後に竣工する新築マンションは今よりお買い得になっているかもしれない。

これからマンションの購入を考える人にとっては、より良い環境になってくるのではないだろうか。

渡邊布味子 (わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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