令和2年6月26日、消費者委員会は「悪質なお試し商法」に関する意見を公表し、消費者庁に関係ガイドラインの改正等の措置をとるように要請した[1]。

お試し商法
(画像=PIXTA)

お試し商法とは、毎日のテレビCMや新聞でみるように「一か月分無料」であったり、「初回〇〇円」であったりと、無料あるいは低価格での商品の試用を訴求するものである。消費者委員会の意見によれば、このようにうたう事業者の中で、以下のような悪質な商法を行う者がいる。

1.回数縛り型 一回限りのお試し提供と見せつつ、実際は半年分購入が条件であるなど、無料となるために数回にわたる購入を条件としているもの

2.違約金型 初回以降いつでも無条件で解約可能と言いつつ、実際、途中解約をした場合には、遡って初回無料分が正規料金になることを条件としているもの

3.解約困難型 解約方法を電話に限定している一方で、電話がつながらず、解約可能期間を経過してしまい、次回以降の購入を余儀なくされるもの。

消費者委員会の意見で挙げられている3件の行政処分事例を見る[2]と、いずれもウェブサイトでの取引である[3]。それによると二つの問題がある。まず、(1) これは無料お試しとは別の話であるが、申し込みをしたつもりがない段階で申し込みとされてしまうことである。そして、(2) 今回問題視された、初回無料の条件が確認しにくいこと(1.や2.にかかわるケース)である。事例はこれらのいずれか、または両方の組み合わせとなっている。

まず(1) については、たとえば実際は申込確定のボタンであるのに、「申し込み完了画面へ」とボタンに表示することにより、次のページに行ってから申込を確認・確定させるものであると誤認させるものである。これは顧客の意に反して、通信販売に係る売買契約の申込みをさせようとする行為に該当するとされた。具体的には、電子計算機の特定の操作が「電子契約の申込みとなることを、顧客が容易に認識できるように表示していないこと」に該当するとされた(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第1号)。

次に、(2) については、同じく申し込みが確定するホームページ上の一番下に、読みにくい小さな文字で「一か月分無料(低価格)は〇か月申し込んだ場合の取り扱いです」と表示するものである。これも上記同様、顧客の意に反して、通信販売に係る売買契約の申し込みをさせようとするものとされた。具体的には、販売業者が、電子契約の申込みの内容を、「顧客が電子契約に係る電子計算機の操作を行う際に容易に確認できるようにしていない」に該当するとされた(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第2号)。

ちなみに、これらの契約内容の有効性についてだが、電子契約法(電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律)第3条が定めている。これによれば、一定の操作が意味するところにつき十分な表示がされておらず、その結果、消費者が申し込む意思がないのに、申込させられた場合には、錯誤として取り消すことができる(上記(1) の類型)。また、消費者が申し込んだと認識した契約内容と、実際に申し込んだ内容が相違していた場合にも取消が可能である(上記(2) の類型)。したがって、上記(1) (2) は錯誤による取り消しが認められる可能性がある。

このような表示は誇大広告、言い換えると優良誤認や有利誤認とならないのであろうか。誇大広告に該当する場合には、刑事罰が課されることになる(特定商取引法第12条、第72条。本件で問題とされている特定商取引法第14条違反は行政処分のみ)。消費者委員会はこの点は今後の課題としている。

筆者が特に課題と考えるのが、上記3.解約困難型である。申込確定ボタンであることを明確にしないこと、あるいはお試し商法で1.回数縛り型や2.違約金型によるお試し商法は、消費者委員会が意見で要請しているように、これらの表示や注記を見やすいように記載させることで解決が可能である。他方、電話がつながらないのは、表示の仕方の問題では片づけられない。

この点で参考になるのが、EUの一般データ保護規則(GDPR)の同意要件である。GDPRでは個人情報を事業者が取得するにあたって、本人の同意を一つの取得根拠とできるとしている。しかし、この同意が有効であるには、同意の撤回が同意の取得と同レベルの容易さで行えなければならないとしている。このことを参考として、ウェブ上で申し込みの意思表示を受ける場合には、ウェブ上で申し込み時と同様の容易さで解約できることを同意の効果発生の要件とすべきこととする規制の導入も考えられよう。

ただより高いものはないということわざがある。いずれにせよ、お試し無料は条件があるものだと認識したうえで、十分に注意して利用することが大事である。

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[1]https://www.cao.go.jp/consumer/content/20200626_iken.pdf 参照。
[2]https://www.caa.go.jp/notice/entry/018420/  https://www.caa.go.jp/notice/entry/018419/  https://www.caa.go.jp/notice/entry/018692/
[3]テレビCMを出している業者は電話で申し込みを受けているので、無料となる条件をオペレーターが口頭で説明しているものと思われる。

松澤登 (まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

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