広報戦略は時代とともに姿を変えてきており、今ではネットを活用した広報活動が当たり前になっている。このさき中小企業が生き残るには、最新の広報戦略をとりいれることが重要だ。自信のない中小経営者は、本記事を通して広報戦略の基礎を身につけていこう。

そもそも広報戦略とは?

広報戦略
(画像=VectorMine/stock.adobe.com)

広報戦略とは、自社や事業、商品などをより多くの層に認知してもらうために、必要になる行動・施策を組み立てることを指す。細かく見ると、広報戦略に取り組む目的は企業ごとにさまざまであり、主な目的としては以下のものが挙げられる。

・ステークホルダーと信頼関係を築きたい
・自社や商品のファンを作りたい
・世の中の人に情報を拡散してもらいたい

現代においては、急速に普及したインターネットが広報戦略に多く活用されており、その影響で広報活動の手法は多岐にわたるようになった。たとえば、PRイベントやマスコミ対応などの従来の方法に加えて、近年ではホームページやSNS、ネット広告などを使った広報活動も珍しくない。

いま広報戦略が注目される理由とは?

近年では多くの企業が広報戦略に注目しているが、その主な要因としては以下の点が挙げられる。

・テレビCMなどの従来のメディアが衰退した
・費用対効果の意識が変化した
・テスト段階から始める、スモールスタートが可能になった

インターネットの普及により、テレビや雑誌などのオールドメディアは衰退しつつある。その影響で「費用対効果」に対する意識が変わってきており、かつてはテレビCMに膨大な費用をかけていた企業の中にも、WEBメディアを使った広報活動へと切り替える企業が出てきている。

また、少ない費用でテスト段階から広報活動を始められる、「スモールスタート」が可能になった点も大きな変化だろう。たとえば、テレビCMをはじめとした従来の広報活動では、大きな費用をかけても成功するかどうかが分からなかったが、現代ではSNSやブログを短期間運用してから判断するなど、スモールスタートの形をとれる広報活動の幅が増えてきている。

「広報戦略×デジタルマーケティング」はなぜ注目される?

現代の広報戦略を語るうえで、デジタルマーケティングとの組み合わせは欠かせない。現代社会において、広報戦略とデジタルマーケティングは非常に相性が良く、場合によっては広告メディアだけで消費者の心を大きく動かせる。

このような時代に突入した背景には、「消費者のコミュニティの縮小化」がある。オールドメディアが一世を風靡していた頃に比べると、消費者の関心は自社メディアやSNSなど、より小さなコミュニティに向き始めている。

そのため、デジタルマーケティングによる広報戦略は効果が徐々に高まってきており、オールドメディアを活用した広報活動と比較して、数十倍の効果を得る企業も少なくない。コストを抑えつつ、かつ大きな効果を期待できるのであれば、当然のことながら多くの企業は「広報戦略×デジタルマーケティング」に目を向けるはずだ。

広報戦略に活用できる基本なフレームワーク

広報戦略を立てる際には、便利なフレームワークがいくつかある。その中でも、主にマーケティングの世界で活用されている基本的なフレームワークを、以下で2つ紹介していこう。

1.PEST分析

PEST分析は以下の4つの外的環境から、適したマーケティング手法を分析するためのフレームワークだ。

・Politics(政治)…法規制や外交問題、政権交代など
・Economy(経済)…景気動向や物価変動、経済成長率など
・Society(社会)…流行や世論、人口推移など
・Technology(技術)…イノベーションや特許など

上記の4つの点をマクロな視点で分析すると、その業界の実情を細かく把握できるようになる。効果的な広報戦略を打ち出すには、業界動向の把握は欠かせないポイントとなるので、時間があればぜひ取り組んでおきたい分析手法だろう。

2.4P分析

自社に最適な広報戦略を考えるには、顧客側の視点だけではなく、企業側の視点も意識する必要がある。このようなケースで活用しやすいフレームワークが、以下の4つの点を軸にする「4P分析」だ。

・Product…どんな商品なのか
・Price…どれくらいの価格で提供するのか
・Place…どうやって流通させるのか
・Promotion…どんな方法で販促活動をするのか

上記の4点を明確にするだけでも効果はあるが、4P分析は事象のフレームワークである「4C分析」と組み合わせることで、「マーケットイン・プロダクトアウト」の両方の視点から戦略を立てられるようになる。

広報戦略を考える基本的な流れ

では、実際に広報戦略を考える際には、どのような流れで組み立てれば良いのだろうか。実際の考え方はケースによってやや異なるが、以下では広報戦略の基本的な考え方をまとめた。

【STEP1】状況分析

最初のステップでは、関連するステークホルダーの意見や行動などを調査・分析し、自社が置かれている状況を把握する。現状を把握しなければ、効果的な広報戦略を立てることは難しいため、調査・分析は徹底的に行うことが重要だ。

「自社に今何が起きているのか?」を把握することで、自社にどのような変革が求められているのかが少しずつ見えてくる。

【STEP2】計画立案とプログラムの作成

次は、効果的な広報戦略を考えていく。ここで意識しておきたいのは、【STEP1】で明確にした課題・現状と、企業の将来像をしっかりと比較することだ。

計画する広報戦略は、企業の将来像とのギャップを解消できるものでなくてはならない。また、具体的な施策としては、主に以下の2つを計画する必要がある。

・業界内での名声をいち早く確立し、先進性をアピールする施策
・製品のリコールなど、企業の脅威を排除するための施策

ここで立てた施策を【STEP3】で実施することになるので、計画立案とプログラムの作成にもしっかりと手間・時間をかけることが重要だ。

【STEP3】広報戦略の実施

計画とプログラムの作成が終わったら、広報戦略を実施していく。このステップで重要になるのは、広報戦略において発信する情報と、企業の実態(製品・サービス・ブランドなど)の一貫性を保つことだ。

たとえば、発信した情報と販売する製品のイメージがかけ離れていると、会社の信頼性は大きく下がってしまう。その点を防ぐために、広報戦略に力を入れるだけではなく、経営活動全体をしっかりと管理しなければならない。

【STEP4】評価

広報戦略は、【STEP2】で立てたものを実施して終わりではない。実施した後には冷静に評価し、その反省点を今後に活かしていく必要がある。

つまり、一般的な経営活動と同じように、広報戦略においても「PDCAサイクル」の実践が必要になるので、最終的にブラッシュアップすることを忘れないようにしよう。

広報戦略を立てる2つのポイント

効果的な広報戦略を立て、かつその戦略をうまく活かすには、以下で紹介する2つのポイントを押さえる必要がある。実際に広報戦略を立てる前に、以下のポイントもしっかりと確認しておきたい。

1.戦略策定に必要なスキルを習得する

広報戦略の立案・実施を任される担当者には、いくつかのスキルが求められる。求められるスキルは状況によってやや異なるが、以下で挙げるスキルは多くのケースで必要になるだろう。

・戦略的に考えられる思考力
・クリエイティブな思考力
・プロジェクトのマネジメント能力
・ファクトブックを作成する能力
・プレスリリースを書く能力

広報戦略を立てる際には、アプローチの方法を論理的に見極めなくてはならない。さらに、消費者にインパクトを与える必要があるため、計画の立案時には戦略的な思考力、そしてクリエイティブな思考力の2つが求められる。

また、広報戦略は立案するだけではなく、スムーズに実施することも求められるので、マネジメント能力や報道向け資料を作成する能力なども欠かせないスキルだ。

2.計画の段階で「効果測定の方法」も考えておく

前述の通り、広報戦略を実施した後にはしっかりと評価し、反省点を踏まえてブラッシュアップをすることが重要だ。しかし、実は広報戦略の効果測定はハードルが高く、「施策を適切に評価できない…」と悩まされるケースは非常に多い。

具体的な方法としては、たとえばアンケートで消費者認知度を調査したり、問い合わせの数から売上貢献度を分析したりする方法が挙げられる。実施する広報戦略によって、適した評価の方法は変わってくるため、計画の段階で「効果測定の方法」も慎重に検討しておこう。

広報戦略によって成功を収めた事例

最後に、広報戦略によって実際に成功を収めた2つの事例を紹介していく。以下の成功例を見ながら、今どきの広報戦略のイメージをしっかりとつかんでいこう。

1.SNSを効果的に使ったイメージ戦略/全日本空輸株式会社

大手航空会社の全日空は、FacebookやTwitterなどのSNSを活用し、効果的な広報戦略を実施している。同社はSNSに航空機の写真を掲載するだけではなく、「恋人感」をコンセプトにした情緒あふれる風景を投稿することで、消費者の心をぐっと惹きつけているのだ。

さらに週の初めには、「おはようございます」のメッセージとともに、各地で働くスタッフの笑顔の写真を掲載。この投稿によって、同社は航空会社に欠かせない安心感を演出している。

2.双方向コミュニケーションの実現と活用/岡三オンライン証券株式会社

ネット専業の証券会社である岡三オンライン証券は、「顔の見える証券会社」を目指すために、投資情報部長が毎日動画を投稿している。さらに、リアルタイム動画配信にも取り組むことで、顧客との双方向コミュニケーションを実現した。

この広報戦略の魅力は、消費者との距離を縮められる点と、企業の信頼性向上に効果がある点だ。また、一般層から見ると証券取引にはやや複雑な側面があるが、双方向コミュニケーションをうまく活用することで、投資方法などの理解促進にもつなげている。

時代の変化についていくために、いち早く広報戦略の策定と実施を

インターネットが広く普及した現代において、もはや広報戦略は欠かせないものになっている。効果的な広報戦略を策定し、かつスムーズに実行しなければ、時代の変化についていけなくなる企業も現れてくるだろう。

中小企業や地方企業も例外ではないため、経営者はいち早く最新の広報戦略について学ぶことが重要だ。本記事で紹介した内容は基礎知識としてしっかりと覚えておき、PDCAを繰り返しながら、自社なりの広報戦略をブラッシュアップしていこう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)