会社員が楽しみにしているものといえばやはり、会社のボーナスである。企業側としてもなるべく社員の待遇を良くしたいところだが、毎月の資金繰りを考えるとなかなか難しい。特に、大企業と違って内部留保が少なく経営基盤の安定していない中小企業は、ボーナスを削る傾向がある。
今回は、「ボーナスなし」にしてしまうと企業にとって「どんなデメリットがあるのか」「ボーナスはどのようにして決めるべきか」について解説していく。
目次
そもそもボーナスとは何なのか?
ボーナスは賞与ともいい、企業の業績などに応じて従業員に支給されるものだ。通常の給料とは別に支給されるので、その都度支給額を決めなければならない。ボーナスの支払い時期や支払い回数などにも明確な規定がないため、そもそもボーナスを支払わない企業もあれば、年に数回ボーナスを支給するところもある。
一般的には「夏のボーナス」「冬のボーナス」と呼ばれるように「夏期と冬期の合計2回」という企業が多い。
企業にボーナス支給の法律的な義務はない
企業が従業員を雇用して事業を行う際には、労働基準法を遵守しなければならない。しかし、労働基準法には賃金の支払い義務についての規定はあるものの、「ボーナス支給」については定められていない。そのため、ボーナスを支払うかどうかは企業側が決めることになる。
もちろん、ボーナスを支払う旨を雇用契約書などで明言しておきながら実際には支払わない場合は、ただちに契約違反になってしまうので注意が必要だ。
ボーナスの支給形式は業績連動型が増えている
従来のボーナスは、基本給に数ヵ月分を乗じて支払う「給与連動型」がオーソドックスなスタイルであった。しかし近年は、業績や人事評価に応じてボーナスの支給額を決定する、「業績連動型」の企業が増えている。
たしかに「給与連動型」のほうが、単純計算でやりやすい。しかし、一律に給与額のみでボーナス支給額を決めてしまうと、より企業の成長に寄与した社員の活躍を軽視しているのも事実であり、頑張りに応じた報酬が期待できなくなってしまう。
業績や人事評価に応じて配分を決めるほうが手間はかかってしまうものの、より健全な組織づくりを目指すことができるだろう。
・公務員のボーナス支給
ちなみに、公務員にもボーナスはある。民間企業と違い、公務員のボーナスは法律や条例で定められており「期末手当」「勤勉手当」と呼ばれることが多い。
また、年俸制の場合は「年俸とは別にボーナスを支給する」「年俸の中にボーナスを含めて支給する」という2種類のケースがある。年俸制は1年単位で給与総額を合意し毎年更新をしていくというもので月給制とは完全に別物だ。
「年俸」と銘打ってはいるが、基本的にはそれを12等分し毎月の給料を支払うというところが多い。
ボーナスをどのように決めるべきか?
ボーナスには、「賞与原資」「個別賞与額」の2つがある。賞与原資とは、業績によって決められるボーナスの支給総額だ。これに人事評価を加味することによって最終的に支払われる金額である「個別賞与額」が確定する。具体的には「業績→(業績に応じて決定)→賞与原資→(人事評価を加味)→個別賞与額が決定」という流れだ。
まずは賞与原資から見ていく。
賞与原資
先ほど見てきたように、ボーナス支給に関しては「業績に応じて支給額を決める」というやり方が一般的だ。では、その指標となるものは何か?ボーナス支給のための業績指標としてよく使われるのが、「営業利益」と「経常利益」の2つだろう。「営業利益」は以下のようにして求められる。
・「営業利益」=「売上総利益(※)」-「販売費および一般管理費」
※「売上総利益」=「売上高」-「売上原価」
一方「経常利益」は以下のようにして求められる。
・「経常利益」=「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」
ボーナスは利益配分という考え方が根強いため、このような営業利益や経常利益をベースにして支給額を決める企業が多い。よく見られるのが「利益比率に対応する平均支給月数を決めておく」というやり方だ。
つまり、利益比率が高くなるほど平均支給月数は多くなりボーナスの合計額が大きくなる。業績が良くなればボーナスも多くなるので、従業員のモチベーションアップにもつながる。
労働者の「やる気」は、仕事のパフォーマンスにも影響を及ぼし、ひいては業績の多寡にも関わってくる重要な要素だ。経営者の立場としては、なるべく社員たちがモチベーションを高く持ち続けられるように報酬を与えることが望ましい。
「利益比率に対応して平均支給月数を決める」という手法は、業績が悪くなった場合にも有効だ。例えば、バブルやリーマンショックなど経済には好況と不況のサイクルが存在する。景気が悪くなった場合は業績もまた悪くなるのでボーナスの合計額も少なくなる。
この「業績によってボーナスが変動する」というのがミソで、つまり業績悪化の場合はボーナスの金額を抑制し、社員を解雇から守りつつ人件費を抑えられるのだ。この手法は「人件費のコントロールに最適なもの」として大手企業などでよく用いられている。
個別賞与額
上記では、賞与原資について解説をした。次に、個別賞与額の算出について見ていく。
今まで解説してきたように、業績によって賞与原資が決まり、それに人事評価を絡めることによって個別賞与額が決まる。一般的な算出方法は「基準額」×「平均支給月数」×「評価係数」というものだ。基準額は基本給や各種手当の合計額だ。評価係数は企業によってさまざまだが、以下のように決まる。
・評価S→評価係数は1.3
・評価A→評価係数は1.2
例えば上記の評価係数の場合、基準額が30万円、平均支給月数が2ヵ月、評価A(評価係数1.2)だと「30万円×2ヵ月×1.2」=72万円が個別賞与額になるといった具合だ。
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「ボーナスなし」にする場合のデメリット
もちろん従業員にとっては、ボーナスはないよりはあるほうが良い。「基本給が低い上にボーナスなし」ともなれば、従業員は会社に対してマイナスの印象を持つだろう。
特に若者にとっては、ボーナスのない自分の会社に不満を感じてさっさと退職をしてしまうケースも多い。第2新卒の若者は、ひとたび世の中を見わたしてみれば「ボーナスを支給してくれる会社」を簡単に探し出すことが可能だ。
ただ資金繰りの面で、どうしても「ボーナスなし」になってしまうことはあるだろう。そのような点も含めて、ボーナスなしによるデメリットとして考えられるのは、社員のモチベーションの低下だ。
従業員が貢献度を給与に反映されていないことに不満を持つ
ボーナスがないことによるデメリットとして、従業員が自分の業績への貢献度が給与面で反映されていないことに不満を抱き、会社との信頼関係を築きにくくなるという点があげられる。こればかりはどうしても避けることができないデメリットであり、しっかりとその課題に向き合っていく必要性が生じてくる。
ボーナスを支給しない分だけ基本給を上げるのはもちろん、従業員自らの力で給与やボーナスの不足分を補ってもらうために副業を許可したり、社員の能力や成果に見合った給与が支給できるように人事評価制度を「成果給」に見直したりするなど、会社の状況に合わせた対策が必要だ。
ボーナスなしとなっている理由を明確にする
「ボーナスなし」とする場合に大切なのが、「どのような理由でボーナスを支払わないか」ということだ。従業員に対して真摯に理由を説明できないと、社員たちは「どうしてボーナスがないのだ」という不満と同時に「ボーナスが出ないうちの会社の将来は大丈夫なのだろうか」という不安を抱く可能性がある。
ボーナスなしの理由を説明し社員に納得してもらう
ボーナスなしになっているのは、自社が年棒制を取り入れており、賞与額をあらかじめ含めた給与支給制度になっているからかもしれない。また、競合増加による経営圧迫や市場要因、コロナ禍のような外部要因によって業績が悪化しているため、ボーナスを支給する原資がないのかもしれない。
しかし、「社員との信頼関係をつくる」「彼らの不安を和らげてあげる」というためにもしっかりと経営状況や方針を説明することが必要だ。この「真摯さ」がおそらく最後の砦となるだろう。「ボーナスを支払わない」「基本給も低い」でふんぞり返ったような態度を取っていればいずれその経営者についていく社員はいなくなる。
「マネー」で信頼関係をつくるのが難しいのであればまずは「ヒト」と「ヒト」のつながりをしっかりと見直してみるのが重要だ。
「ボーナスなし」にするメリット3つ
それでは逆に、「ボーナスを支払わないメリットはあるのか」という疑問があるかもしれない。結論からいえば「ボーナスなし」にするメリットはいくつか存在する。
1.安定した給与を支給できる
まずは「業績に関係なく安定した給与を従業員に支給できる」という点だ。ボーナスは業績に影響されるため、不況になれば支給額が大幅にダウンしてしまうことがある。その点「ボーナスなし」の会社は、毎月基本給を支払っているため、トータルで見れば大きくマイナスになることはない。なぜならボーナスと比べて基本給の減給は難しいからだ。
先ほど「業績に応じてボーナスが増えることは社員のモチベーションにつながる」と説明したが裏を返せば「業績に応じてボーナスが減ることによって社員のやる気が下がる」ともいえる。
2.事務負担が軽減する
また、「ボーナスに関わる事務」をやらなくていいということも「ボーナスなし」にするメリットの一つだ。先述したように業績や人事評価に応じて個人の支給額を決定するため、作業にはそれ相応の手間がかかる。
初めからボーナスを支給しないというスタンスでやっていれば、そのような支給計算や手続きなどの事務作業をする必要もない。そのため、ボーナスを支給している企業に比べて負担がいくらか軽減されるだろう。
3.経営プランが立てやすい
ボーナスがないことで、「経営のプランを立てやすい」というメリットもある。ボーナスは業績に応じて変動するため、もしも景気が悪化してしまえば、予想外の損害が発生する点はリスクとなる。「ボーナスなし」の場合は、基本給をベースにして社員の年収を考えるので、将来の経営プランがより立てやすくなる。
このように「ボーナスを支給しない」ということは、必ずしもデメリットだけではない。資金繰りの都合で社員にボーナスを支払えないときは、その「ボーナスを支給しない」という立場のメリットをうまく使っていきたい。
ボーナス支給にとらわれ過ぎてもダメ
「ボーナスあり」で経営がうまくいっていない会社もあれば、逆に「ボーナスなしでも絶好調」というところもある。企業の価値は「ボーナスの有無」だけで測ることはできない。ボーナスを支給していようがいまいが、とにかく社員と会社のことをしっかり考えている経営者が勝つ。ボーナスがあれば、たしかに社員にとってはうれしいだろう。
しかし無理にボーナスを支払って資金がショートしてしまっては元も子もない。あまりボーナス支給にとらわれることなく社員のことをしっかりと考える誠実さを持つことが何よりも重要だ。
ボーナスに関するQ&A
Q1.ボーナスなしの企業があるのはなぜ?
ボーナスの支払いは、労働基準法などの労働法で義務付けられているわけではなく、企業それぞれの判断によって支払いの判断が別れているためである。
労働基準法第24条では、会社側に毎月1回以上の賃金の支払いについては義務付けられているが、賞与についての支払い義務についての規定はない。そのため、会社の経営上、ボーナスのための原資が賄えない場合や、外資系企業のように年棒として賞与分をすでに給与支給額に含めている企業では、ボーナスなしになっていることがある。
Q2.ボーナスなしの企業はどれくらいある?
ボーナスなしの企業の割合は、従業員数30人以上の企業では4~10%程度、従業員数5~29人以下の企業では、30%程度である。
『毎月勤労統計調査』の2022年2月分の結果速報によると、2021年の年末ボーナスの支給割合については、従業員数による企業規模別に以下の通りとなっている。
500人以上:96.8%(前年同期比 +0.8%)
100〜499人:93.3%(前年同期比 −0.1%)
30〜99人:90.2%(前年同期比 +1.2%)
5〜29人:67.2%(前年同期比 +0.4%)
『毎月勤労統計調査』の調査対象企業のみの結果ではあるが、従業員数が30人以上の企業では、ボーナスの支給率は90%を超えているが、5~29人以下の企業については、67.2%の支給率にとどまっており、3割ほどの企業ではボーナスなしとなっていることが分かる。
Q3.ボーナスありなしはどちらがいい?
ボーナスありなしのどちらが良いかは、それぞれの会社の経営状態によって異なる。
ボーナス支給による最たるメリットとしては、社員のモチベーションアップがあげられる。外資系企業のように、年棒制が前提の場合や社員の業績への貢献度を給与に反映した成果給制度を導入している企業では、ボーナスなしでも社員の活躍が期待できるだろう。
しかし、社員個々人の業績への寄与度をインセンティブやボーナスなどとして反映しにくい業態の場合は、給与連動型などの一律付与方のボーナスがあった方が、モチベーションアップにつながる可能性が高い。
Q4.ボーナスなしになる理由は?
ボーナスがなしになる主な理由には、そもそも外資系企業などのように年棒制によって給与にボーナス分の報酬を盛り込んでいる場合と、業績悪化によりボーナスに割り当てる原資が準備できない場合などがある。
そもそもボーナスは、会社側には支払う義務がないものであり、支払うためには原資の確保が不可欠である。ボーナスの原資を確保するためには事業収益のアップが不可欠であり、社員の業績への貢献度を向上させる必要がある。
年棒制の場合は、すでに社員の貢献度が給与に織り込まれる形として反映されているため、ボーナスがなくても社員からの不満は出にくい。しかし、業績悪化などによりこれまで支払っていたボーナスがなくなると、社員のモチベーションが低下し、離職や新規採用の際に優秀な人材を確保が困難になる場合がある。
Q5.ボーナスなしのメリットとデメリットは?
ボーナスなしによるメリットとしては、まず、会社の業績の良し悪しにかかわらず、安定して社員に給与を支給できるという点があげられる。また、ボーナス支給に際しての支給額や支給手続きといった事務処理作業の負担が軽減できるのもメリットだ。
ボーナスなしのデメリットとしては、業績向上に寄与する働きをしてもその評価を実感しにくいため、社員のモチベーションが低下したり、人材採用の際に優秀な社員を確保しにくくなったりするといったことがあげられる。
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文・小西拓登(ダリコーポレーション ライター)
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