温室効果ガス削減のために、再生可能エネルギーへのシフトが進んでいるが、日本では潮力発電が他国に遅れをとっている。海に囲まれている日本だが、潮力発電の実証実験はこれからという所である。今回は、潮力発電の仕組みや、海外や日本における潮力発電の現状について説明する。

英国では世界最大の潮力発電が稼働中

潮力発電
(画像=Woraphon/stock.adobe.com)

潮力発電はその名の通り、海洋における潮の流れを利用して電力を生み出すものだ。地球の表面の約7割は海洋が占めており、波や潮流、海水中の温度差などが発電にも活用できる膨大なエネルギーを発生させている。

潮力発電には、潮の流れ自体を利用する「潮流発電」と、潮の干満差による高低差を利用する「潮汐力発電」がある。特に欧米では潮力発電の開発が活発化しており、そのトップランナーとなっているのが英国である。

その背景には、グレートブリテン島北部のスコットランド周辺海域における潮力や波力が、欧州でもずば抜けて強力なことがあるようだ。世界最大規模の潮力発電プロジェクトである「メイジェン」が進められている、オークニー諸島とスコットランドの間にあるペントランド海峡では、潮流か最速で毎秒5メートルに達する。

英国は、北海油田を通じて海洋における資源開発のノウハウを豊富に有しているため、同プロジェクトは投資案件としても魅力があるようで、大掛かりな出資の話も合意に至っている。

英国政府も後押ししており、スコットランド諸島周辺での発電量は、年間3,850万MWhになるとの推計も出ている。潮力発電は、風力発電や太陽光発電と肩を並べ、再生可能エネルギー発電の中核に位置づけられる可能性があるのだ。

国境を越えた連携の動きも見られ、アイルランドや北アイルランドの政府関連組織も海洋エネルギーの研究開発で協力することに合意し、「海洋パワー・イノベーション・ネットワーク」という組織が結成されている。

再生可能エネルギーへのシフトは、グローバルな課題である。だからこそ、国家間の連携がボーダレスに展開されるのは自然な成り行きと言えるだろう。

潮力発電の仕組みは?

そもそも、潮力発電とはどのような仕組みなのであろうか?潮力発電には、「潮流発電」と「潮汐発電」の2つがあることを紹介したが、それぞれの仕組みについて紹介する。

潮流発電の仕組み

潮流とは、月と太陽の引力がもたらす海水の水平な流れのことであり、潮流は周期的に変動している。海の流れの勢いには地形が多大なる影響を及ぼし、海峡などのように狭まったところでは、潮流の流速はおのずと速くなる。

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がまとめた、「NEDO再生可能エネルギー技術白書第2版」によれば、潮力発電の1つである「潮流発電」は、潮流の運動エネルギーを用いて水車を回転させることで、発電エネルギに変換する方式が一般的とされている。

潮流発電の技術開発自体は1970 年代から進められてきたものの、各国での本格導入に至るまでは小規模な実験にとどまっていたとされている。

潮汐力発電の仕組み

潮力発電のもう1つのタイプである「潮汐力発電」は、潮の満ち引きに伴う潮位差を利用して発電用のタービンを回す方式である。潮汐力発電は、水力発電の技術を応用した発電方式であり、古くから実用化されている。潮位差が比較的大きくなりやすい湾や河口の入り口などにダムと水門を建設し、水位差の発生を利用して発電を行っている。

大潮と小潮では潮位差が異なってくるが、その周期や時刻をある程度予測できるので、発電計画を立てやすいというメリットがある。ただし、水力発電と同じく、ダムの建設が周辺海域などの自然環境に影響を及ぼすことが懸念される。

「潮汐力発電」のプラントとして世界的に最も著名なのは、フランスの「ランス潮汐力発電所」であり、1967 年から発電を開始し、年間の発電量は約 60万MWhに達する。

潮力発電のメリットと難点とは?

潮力発電は、同じく自然界のエネルギーを発電に結びつける太陽光発電や風力発電と比べて、天候などの影響を受けにくいという特徴がある。このため、電力の安定供給を期待できるのがメリットだ。

また、潮流や潮汐力は規則的な動きをしやすく、潮流のスピードと水量によって発電量も予測できる。潮力発電に用いるタービンなどの設備を海底に設置すれば、景観にも影響を及ぼさず、原子力発電や火力発電と比べて環境汚染のリスクも低い。

潮力発電のインフラ建設には相応の資金を要するものの、海で発生する自然の力を利用するので運用コストは非常に低い。

潮力発電はメリットばかりのように見えるが、いくつかの難点を抱えていることも確かだ。海水には塩分が含まれているため、タービンをはじめとする発電用機材の劣化が進みやすく、メンテナンスのコストがかかることがその1つである。

また、「潮汐力発電」に必要な装置の設置場所は、満潮時と干潮時の潮位に一定以上の差が生じるエリアに限定されてしまう。日本に関して言えば、四方を海に囲まれているとはいえ、「潮汐力発電」に適したエリアが豊富とは言えないのが現実である。

潮力発電への主要国の取り組み

冒頭では英国の潮力発電への取り組みを紹介したが、米国でも2006年頃から潮力発電をはじめとする海洋系の再生エネルギー開発が活発化している。2012年には、「Verdant Power社」が米国発となる潮力発電の商用利用を開始した。

隣国の韓国においても、電力事情が悪化したことも背景となって、2011年に「始華湖潮汐発電所」が潮力発電を開始した。発電設備容量は254MW(10基合計)となり、先述したフランスの「ランス潮汐発電所」を上回る規模となった。

韓国では他にも4カ所で世界最大級の潮汐発電所の建設が推進されている。設置は同国の西海岸に集中しており、潮の干満差が非常に大きいことがその理由とされている。

日本における潮力発電導入の取り組みと課題

日本においては、残念ながら2020年時点でも潮力発電はまだ実用化には至っていない。潮力発電のインフラ整備のコストに見合った発電量を見込めないことがネックとなり、あまり積極的な取り組みが行われてこなかったようだ。

とはいえ、2015年頃から大掛かりな潮力発電の開発の試みも実施されている。2016年には、九州電力の子会社で再生可能エネルギー事業を手掛ける「九電みらいエナジー」が、長崎県・五島列島沖で潮流を利用した発電の実証実験を開始することを発表した。

新日鉄住金エンジニアリングなどと共同での取り組みで、潮流発電として国内で最大規模となり、2019年5月から2年間にわたって実験を続ける予定だ。日本政府も熱い期待を寄せており、環境省の委託事業に選定されている。

長崎県五島列島沖における潮力発電実験の正式なプロジェクト名は、「長崎県五島市沖における潮流発電技術を実用化するための実証事業」であり、環境省の「平成31年度大規模潜在エネルギー源を活用した低炭素技術実用化推進事業のうち潮流発電技術実用化推進事業」として採択されている。

日本海域への適用の可能性が高く、環境への影響の小さい潮流発電の開発・実証について、民間企業や公的研究機関、大学などから提案を公募し、その中から「九電みらいエナジー」のプロジェクトが選ばれた。

実験では、五島列島にある奈留島と久賀島間の水深約45メートルの海底に、フランスやカナダで採用実績のあるアイルランド製の潮力発電用の発電機を設置し、発電能力や海洋生物の装置への付着状況などを調査する。実験結果次第では、日本においても潮力発電の実用化が大きく前進するであろう。

海洋エネルギーの活用ポテンシャルが高い日本

日本の国土は傾斜が急で平野が乏しく、火山や丘陵などを含めた山地の割合は約75%ほどであり、陸上において発電設備を設置できるスペースは限定されている。一方、島国で四方を海に囲まれているからこそ、海との接点は多い。

このような事情もあって、再生可能エネルギーにおいても、海洋エネルギーの活用に熱い視線が注がれている。

太陽光発電のように比較的容易に設置できるタイプの発電方式から普及が始まっているため、インフラ整備コストがかさむ海洋上の再生可能エネルギープロジェクトは後手に回ったが、そろそろ本格化する気配も漂ってきた。その証左として挙げられるのは、風力発電の海洋展開へのシフトだ。

例えば、中部電力は2020年2月に出資・参画している特別目的会社「秋田洋上封旅曲発電(AOW)」を通じて、丸紅をはじめとする12社と共同で、着床式洋上風力発電所プロジェクトの実施を決定した。洋上風力発電所の設置場所は秋田県の秋田港と能代港を予定しており、商業ベースでの大型洋上風力発電事業では日本国内で初の取り組みだという。

海洋エネルギーを活用した発電において、日本は他の主要国と比べて取り組みが遅れ気味である側面は否定できないものの、これから潮力発電の研究・開発が推進される可能性は高そうだ。

潮力発電は今後の拡大が見込める分野

潮力発電は、クリーンな自然エネルギーの活用として大いに期待ができそうである。潮力発電などの再生可能エネルギー関連事業と直接的に事業の関連性がない経営者であっても、こうした世の中のパラダイムシフトはしっかりと把握しておくべきだろう。

潮力発電は、日本においてはまだこれからの発電方式であるが、サイドビジネスとして有望な投資先を選ぶ際にも、潮力発電はヒントをもたらすキーワードの1つとなってくるかもしれない。(提供:THE OWNER

文・大西洋平(ジャーナリスト)