新型コロナウイルス感染症の影響で、企業の売上高の減少による経営悪化が深刻な問題となり、「コロナ破綻」として経営破綻に追い込まれた企業もある。今回は、「経営破綻」の6つの定義や、経営破綻にならないための防止法にどういったものがあるかなどを解説する。
経営破綻とは?
経営破綻とは、債務の返済ができずに経営を続けられなくなることを指し、一般的には「倒産」と同義で扱われることが多い。例えば、新型コロナウイルス関連で「コロナ破綻」という言葉が用いられていたが、その件数は、倒産の統計に基づいている。
倒産の統計は、東京商工リサーチという民間の信用調査会社のデータが活用されている。
経営破綻に定義はない?
「経営破綻」という言葉についての法律上の定義はない。類似した言葉である「倒産」については、2003年の中小企業白書において「倒産の定義」の説明があり、東京商工リサーチの見解をもとに以下の7つの形態にあてはまる状態とされている。
・銀行取引停止処分
・会社更生
・商法による会社整理
・民事再生
・破産
・特別清算
・私的整理
このうち、「商法による会社整理」は2006年に廃止されていることから、現在は6つの形態となっており、中小企業倒産防止共済法においても、おおむね同様の趣旨で「倒産」の定義を定めている。
よって今回のテーマである「経営破綻」についても、倒産の定義に基づいて、以下のいずれかにあてはまる状態として説明していく。
・銀行取引停止処分
・会社更生
・民事再生
・破産
・特別清算
・私的整理
経営破綻の6つの形態
「倒産」の定義に基づいた6つの経営破綻の形態について、それぞれがどのような状態であるかを説明する。
1.銀行取引停止処分
銀行取引停止処分とは、同一の手形交換所管内において、手形や小切手の不渡りを6ヵ月以内に2回起こした場合に受けるペナルティのことであり、以後2年間、一定の銀行取引ができなくなってしまう。
手形や小切手とは、取引の際、現金の代わりに発行する証書のことである。受取人は、証書を金融機関等に持ち込むことで、一定の金銭が支払われる。手形や小切手の不渡りとは、口座の残高不足などで、その支払いが実行されないことだ。
処分を受けても会社は存続しているが、事実上の倒産とみなされてしまう。
2.会社更生
会社更生とは、裁判所の監督下で会社の債務整理を行い、経営を立て直すための手続きのことである。「会社更生法第72条」によると、株式会社のみが手続き可能であり、更生手続き開始後は管財人が選任され、会社の経営や財産管理を執り行う。経営陣は、原則として退任になり、会社の経営体制は刷新される。
更正手続きを利用すれば、管財人が裁判所に提出した更正計画案について、関係者の可決と裁判所の認可を受けることにより、返済できない債務の免除を受けることができる。よく民事再生と比べられるが、会社更生の方が手続きは厳格である。
手続きにかかるトータルの期間は1年を超えることもあり、コストも高いことから、規模の大きい会社向けの制度とされる。
3.民事再生
民事再生とは、法人や個人のための債務整理手続きである。管財人の選任は必須ではなく、基本的には会社が再生計画案を作成し、債権者の多数の同意と裁判所の認可を受けることができれば、返済できない債務について免除を受けることができる。
手続きにかかるトータルの期間は半年ほどで、申立手数料も1万円ほどであり、中小企業や個人のための手続きとなる。
4.破産
破産法による、債務整理のための手続きである。支払不能となった個人、支払不能や債務超過となった法人が利用できる。会社更生や民事再生が、会社を再建するための手続きであるのに対し、破産は会社を清算するための手続きである。よって、会社の経営を続けることはできない。
破産手続きでは、裁判所が選任した破産管財人が、債務者の財産を金銭に替えて債権者の返済に充てる。
5.特別清算
解散した株式会社が、以下のような状態にあてはまる場合、裁判所の監督下で行われる清算手続きである。
・清算の遂行に著しい支障来すべき事情がある
・債務超過の疑いがある
清算人となった者が、債務者の財産を金銭に替えて債権者の返済に充てる。
6.私的整理
法律上の手続きによらない債務整理のことで、任意整理とも呼ばれる。裁判所の監督下で行う他の整理手続きのようなルールはないが、「私的整理に関するガイドライン」や「事業再生ADR」による手続きが一般に利用されている。
6つの経営破綻の分類
6つの経営破綻を対象者や、会社の立て直しを目指す「再建型」か、廃業する「清算型」で分けると、次のようになる。
・対象者(個人/法人)
個人 | 法人 | ・民事再生 ・破産 ・私的整理 | ・会社更生 ・民事再生 ・破産 ・特別清算 ・私的整理 |
・再建型・清算型
再建型 | 清算型 |
・会社更生 ・民事再生 ・私的整理 | ・破産 ・特別清算 |
経営破綻を防ぐためにはどうすればいい?
経営破綻を防止するために、会社経営者として、日ごろからどのような対策がとれるだろうか。ここでは、緊急度が低い経営破綻対策から順に紹介する。
経営セーフティ共済に加入する
経営セーフティ共済とは、取引先の経営破綻による中小企業の共倒れを防ぐための共済である。加入する企業は、納めた掛け金に応じて最大8,000万円の融資を受けることができる。
掛け金が全額損金に算入できる上、解約すれば一定割合(最大で掛金全額)を返金してもらえることから、経営破綻を防止するだけでなく節税にも利用可能である。
経営相談を利用する
国の機関や商工会などに相談して助言を受けるのも、経営破綻の防止対策として有効である。
経営上の問題点を見つけても、そのための解決策は1つとは限らない。経営破綻を防ぐために、どのような解決方法を選んで実行したら良いかという疑問は、知識と経験がある者に尋ねた方が良い方法を選択できる。
経営相談ができる機関を、いくつか紹介する。
・中小企業のよろず支援拠点
国が都道府県を拠点として整備した、主に中小企業を対象とした経営相談のための機関である。
弁護士、税理士、中小企業診断士といった、経営に関する知識と指導経験のある専門家がさまざまな相談に応じる。
・認定支援機関の経営指導
中小企業経営強化支援法の認定を受けた、弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士などによる支援機関である。
経営指導などの支援を受けることで、一定の補助金や税制の優遇などを受けられるといったメリットがある。
・商工会の経営指導
商工会議所において、地域の専門家と連携しながら、資金繰り、販路拡大、税務や労務の指導などを行う。
商工会の経営指導を一定期間受けて推薦を受けることによって、日本政策金融公庫の「マル系融資」を申し込むことができるようになる。
・民間の経営コンサルタントなど
経営破綻に詳しい民間の経営コンサルタントや、経営塾などを活用するという選択肢もある。定期的にセミナーが開催されており、他の経営者との交流の場などを積極的に設けてくれる。
事業売却を検討する
経営破綻という選択肢が出てきた場合、それでも事業をなんとか継続していきたいという場合には、会社売却 (M&A) という手段が一つの有効な策と言える。会社売却のデメリットを先に紹介したい。
・経営権を失うことが多く、自由が効かなくなる
・通常よりも安値で会社を売らざるを得ない
・買い手を探すのに時間がかかるため、時間との戦いになる
たいていの場合、会社売却を行うことで全ての経営権を買い手に取得され、売り手側の経営者はこれまでのように自由に経営を行うことができなくなる。自分の意思で自由に経営を担ってきた経営者にとっては、仕事のやり方や価値観と合わずに、M&A後に十分な実力を発揮できずジレンマを感じてしまうということが有りうるだろう。
また、経営難の会社は、その収益力や将来性がどうしても低く見積もられてしまい、企業価値としても高値がつくことはほぼ無いと言ってよい。債務超過の状態であれば「1円譲渡」というケースも多く存在する。想定よりも相当低い金額で会社を売却するのかどうか、金額に目をつぶり事業継続を選ぶのかどうかという、会社売却における優先条件を事前に決めておくことが重要だ。
一方で、会社売却を行うことで、次のようなメリットが見込まれるだろう。
・事業を継続できる
・従業員の雇用を守ることができる
・第二のスタートとして、新たな環境で事業成長に向けて取り組める
会社売却を行い買い手側企業の下で事業継続が図れるということは、これまで育ててきた会社や事業の保有する資産やブランドを維持することができるという事である。経営者にとっては、これは大きな魅力であろう。
さらに、経営者の悩みの常である「従業員の雇用を維持することができる」という点も見逃せない。会社売却の際にも従業員の不安をどう解消するかという問題は発生するものの、倒産と比較すれば、雇用を守るという使命を果たせることは、経営者としては大きい。
会社売却後には、買い手側企業と連携し、資産や人材、リソースを上手に活用することで、事業をより大きく成長させていくことが可能だ。自社だけの力では、資金的な問題や人材リソース的な限界から成し遂げることができなかったことに投資が可能となるため、加速度的に事業が伸びてゆくケースも多い。これは、M&Aの醍醐味の一つと言えるだろう。
融資を検討する
資金繰りが立ち行かなくなって経営破綻の可能性がある時は、融資を検討しよう。日本政策金融公庫や民間の金融機関であれば、信用保証付き融資や制度融資が利用しやすい。
・日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、政府金融機関の1つであり、民間の金融機関が融資をしづらい個人や中小企業者などに対する融資を扱っている。
売上が減少するなどして、業況が悪化している事業者を対象とする融資もあるのが特徴である。
・信用保証付き融資
信用保証付き融資とは、信用保証協会による保証付きの融資である。
民間の金融機関から融資を受けたい企業が、信用保証協会に保証を申し込むことによって、通常よりも融資を受けやすくなるというメリットがある。ただし、保証を受けた企業は、信用保証協会に保証料を支払わなければならない。
・制度融資
制度融資とは、民間の金融機関と自治体が連携して行う融資である。
地域課題の解決に繋がる融資について、自治体から金融機関に融資の原資となる金銭を預託して金利の軽減を図ったり、自治体から企業に保証料の一部を支援するなどして、融資の条件を緩和することができる。
融資のリスケジュール依頼
借入金の返済が苦しくなったときは、借入先に、返済額と返済期間のリスケジュールができないか相談しよう。経営改善計画を作成して返済計画を示すことで、金融機関も返済のリスケジュールに応じてくれる可能性がある。
新型コロナウイルスなど有事の際の融資や補助金、給付金
2020年の新型コロナウイルス感染症による経済活動自粛を原因とした経営悪化によって、資金繰りに窮した事業主を対象とした融資が検討されたこともある。
新型コロナウイルスのような有事の際には、中小企業を救済するための融資や給付金等の緊急財政対策が施行されることもある。
新型コロナウイルス感染症による経済活動自粛によって売上が減少した企業を対象として、日本政策金融公庫や信用保証協会などでは、融資制度の新設や、既存の融資の枠や対象者を広げるなどの対応を行い、補助金や給付金なども緊急措置として設けられた。
2020年5月に始まった「持続化給付金」の場合、前年同月比で50%以上の売上高減少となる月があることといった条件を満たせば、法人であれば最大200万円、個人であれば最大100万円の給付(返済不要)を申請することが可能となった。
経営者は、外部要因による急激な経営悪化に伴う経営破綻を防ぐためにも、常に最新の融資や給付金などの情報を入手する意識を持つことも必要である。
経営破綻する前に相談先を見つけよう
今回は、経営破綻とは何か、その6つの形態や防止法について解説した。
新型コロナなどといった外部要因による経営破綻の危機はいつ起こるかわからない。経営者は、事業に影響を及ぼす情報だけでなく、国や地方の経営相談や融資についても正確に把握し、経営破綻という危機に備えていただきたい。(提供:THE OWNER)
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)