要旨
●緊急事態宣言解除後の6月の消費について、品目別にその動向を確認した。特徴としては、①外食・旅行・イベント関連などの支出は依然平時を大きく下回る、②食材や酒などへの支出は引き続き平時より多い。コロナの影響は解除後も継続。③衣料品・家具・家電などで平時なみないしは平時を上回る消費増。いわゆるリベンジ消費が発生した模様。
●消費が戻っていることはポジティブなニュースであるが、家計向け給付金が最も影響が深刻な対人サービス業ではないところを中心に回っている、という別の課題も見えてくる。目下、再度の感染拡大に伴って各地方自治体が外出抑制を再強化する動きがみられる。外食、イベント、観光といったコロナ打撃が深刻な業態にとって、厳しい状態が続くこととなろう。
緊急事態宣言解除、消費への影響は?
総務省から6月の家計調査が公表された。これを用いて、緊急事態宣言解除後の消費動向をその動向に応じて品目毎に分類してみた。これによって、緊急事態宣言後も新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻な消費品目や、いわゆる「リベンジ消費」の発生した消費品目の抽出を試みた。
具体的に行ったことは①緊急事態宣言下の4・5月に大きく減少した品目を抽出、②6月に平時よりも大きく増加した品目・平時並みに戻った品目・平時よりも低迷した状態が続いた品目、の3つに分類した。①については、2000年~2019年の月次値を用いて各品目毎に算出した前年比伸び率の平均(μ)と標準偏差(σ)を使い、4月・5月の値がともにμ-2σを下回ったものを抽出した。これは、以前筆者の執筆したレポート(※1)の分類手法と同様だ。これによって、緊急事態宣言下で平時とは異なる減り方をした80品目が抽出された。この80品目を6月の値に応じて、「μ+1σを上回る」(リベンジ消費)、「μ±1σの範囲内」(平時回復)、「μ―1σを下回る」(低迷継続)の3グループに分類した。イメージは資料1、結果は資料2の通りだ。 最も多かったのは、「低迷継続」のグループであり、55品目が抽出された。中身をみると、外食やスポーツ観戦などのイベント、有料道路代、バス代といった品目が並んでいる。緊急事態宣言解除後においても、外出を伴うサービスへの支出が引き続き落ち込んでいることが確認できる。一方、平時レベルまで回復した品目は、衣料品や医科診療代、人間ドック受診料など。衣料品関連は平時よりも大きく増えた品目にも抽出されている。その他には定期代などが抽出された。
次に、同様の手法で緊急事態宣言下で平時より増えた品目(52品目)の動向をみてみた。イメージは資料3、結果は資料4である。マスクを含む保健用消耗品のほか、食材や酒類、ゲームソフトが並ぶ。緊急事態宣言のもとで好調だった消費品目の多くは6月以降も好調を続けていることがわかる。
最後に、上のいずれにも当てはまらない(4月・5月ともに大きな変動があった品目ではない)品目のうち、6月の変動が大きなもの(μ±2σ)の品目を抽出した。家電製品や家具類が抽出されている。
対人サービス業の苦境は続くこととなろう
緊急事態宣言の解除に伴い、多くの品目で消費は回復しているが、それでも外食やイベント関連など外出を伴うサービス支出は平時を下回った状態にある点がわかる。食材関連の支出もなお平時を上回るレベルにあり、宣言解除後も新型コロナの影響による消費の構造変化は根強く続いていることがみえてくる。一方で、平時なみ、あるいはそれ以上のレベルにまで回復した品目が家電や家具、衣料品などである。いわゆる「リベンジ消費」がこうした品目を中心に発生しているといえよう。宣言解除に伴い、客足が戻ったことや一人あたり10万円を給付した特別定額給付金の効果もあったとみられる。これらの品目で消費が戻っていることはポジティブなニュースであるが、家計向け給付金が最も影響が深刻な対人サービス業ではないところに回っている、という別の課題も見えてくる。
目下、再度の感染拡大に伴って各地方自治体が外出抑制を再強化する動きがみられる。外食、イベント、観光といったコロナ打撃が深刻な業態にとって、厳しい状態が続くこととなろう。(提供:第一生命経済研究所)
(※1) Economic Trends 「新型コロナで激変する消費構造」(2020年5月8日)、Economic Trends「新型コロナでさらに激変する消費構造」(2020年6月5日)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 副主任エコノミスト 星野 卓也