豪州の景気拡大は森林火災でくじかれ、コロナがダメ押し
(豪州統計局「実質GDP成長率」)
第一生命経済研究所 主席エコノミスト / 西濵 徹
週刊金融財政事情 2020年8月24日号
昨秋にオーストラリア南東部のニューサウスウェールズ州で発生した森林火災は、隣のヴィクトリア州にも及び、延焼面積は19万平方キロメートル弱と日本の本州の8割を上回る広さに及ぶなど、同国の歴史上で最も深刻な被害をもたらした。近年、同国ではほぼ毎年のように森林火災が発生しているが、昨年は平均降水量が観測史上最も少なく乾燥状態にあったほか、記録的な熱波を背景に平均気温も過去最高を更新して自然火災が発生・拡大しやすい環境にあり、過去最悪の事態となった。
オーストラリアは1991年半ばから、2四半期連続のマイナス成長となる「テクニカル・リセッション」のない景気拡大局面を謳歌し、その期間は昨年末まで114四半期連続の世界最長記録を更新してきた(図表)。2000年代以降は、中国経済の高成長を追い風に中国向けの鉱物資源輸出が拡大したほか、中国からの資金流入を背景とする不動産投資の活発化が市況の上昇を通じて家計消費を押し上げるなど、内・外需双方で景気拡大が促されてきた。しかし、一昨年以降は米中摩擦の激化を背景とする中国の景気減退を受けて、徐々に景気は頭打ちの様相を強めてきた。
そうしたなか、昨秋の森林火災は最大都市シドニーの周辺に及び、被災地域を中心に住宅投資を手控える動きが強まったため、不動産市況の重しとなった。オーストラリアの銀行セクターは融資の3分の2以上を住宅ローンが占めており、不動産市況の動向が貸出態度を左右する傾向が強い。結果、銀行セクターの貸出態度の悪化を受けて企業部門による設備投資意欲が後退したことに加え、史上最悪の火災により多くのインフラ設備が被害を受けたことも重なり、GDP統計上の固定資本投資への下押し圧力が強まる事態を招いた。
さらに、年明け以降は中国での新型コロナウイルスの感染拡大と、その後の感染封じ込めのための都市封鎖措置によりオーストラリアの景気は大きく下押しされ、外需面でも景気の足を引っ張る材料が重なった。その結果、今年1~3月の実質GDP成長率は前期比年率1.22%減と9年ぶりのマイナス成長となった。
今年2月に森林火災が鎮静化したことを受け、オーストラリア政府は向こう2カ年を対象に総額20億豪ドル規模の復興予算を組んだ。しかし、その後は自国内にも新型コロナの感染が拡大したため、外出規制措置が取られるなど幅広い経済活動にブレーキがかかった。一時は経済活動の正常化に向けた動きも見られたが、足元では感染拡大第2波の懸念から再び外出制限措置が取られるなど、景気低迷につながる材料は山積している。世界最長の景気拡大局面は、森林火災によりその勢いがくじかれ、新型コロナがダメ押しとなるかたちで終幕を迎えることになりそうだ。
(提供:きんざいOnlineより)