経済
(画像=PIXTA)

日米とも長期金利はレンジが狭まり、限定的な動きに

SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト / 森田 長太郎
週刊金融財政事情 2020年8月24日号

 米国では7~9月期も経済水準が昨年末を5%以上は下回ると見込まれる。そうした中でS&P500指数は8月半ば、今年2月に付けた史上最高値をほぼ回復した。6月上旬に最高値を更新したナスダック総合指数もまだ上昇を続けており、「不景気の株高」もいよいよ極まった印象である。

 米長期金利を占うには、新型コロナウイルスの感染動向も重要である。6月上旬にかけての株価上昇局面では、新規感染者数が減少し始めた4月半ばを起点に米長期金利は上昇し始めた(図表)。感染収束に伴う景気底入れを織り込む「株高、金利高」が進んだとみることができる。そして、米長期金利が10年国債で1%近くまで急上昇したことをきっかけに、株価はいったん急落した。

 8月の株価上昇も6月上旬ごろの状況と似ている。6月末ごろからの感染第2波により、米国の感染者数は高水準ではあるものの、足元では増加ペースが鈍ってきた。7月の景気は感染第2波で抑制されたが、感染拡大が止まれば、先行きでは景気が再加速していくことが期待される。それを織り込んでの8月の「株高、金利高」とみることができる。

 では、このまま「株高、金利高」の動きが進んでいくと、6月上旬に起きたような「長期金利上昇による株価急落」が再現されるのだろうか。6月に起きた株価急落は、結果的にその後の「長期金利の反落」を促した。一方、再上昇したとはいえ、米国の長期金利水準は当時より低位にとどまっている(8月17日時点で米10年国債金利は0.7%程度)。この違いは、6月後半から7月にかけて実質長期金利が大きく低下したことによるものだ。物価連動債が示す米国の実質長期金利(10年)は、7月末には▲1%を下回り、8月後半の時点でもまだ▲0.9%台という歴史的な低水準にある。

 実質長期金利低下の主因は、米連邦準備制度理事会(FRB)の債券購入が市場需給対比で過大なことによる債券リスクプレミアムの縮小によるものと考えられ、それによって「金利上昇による株価急落」の発生も回避される可能性がある。だとすれば、今回のように金融緩和効果の浸透によって債券リスクプレミアムが抑え込まれている現状では、米長期金利は上昇も抑制される一方で、低下の余地も限定されることになるかもしれない。

 一方、日本国債市場は相変わらず国内要因ではほとんど動きが生じていない。ただ、米長期金利のレンジが狭められてくるのであれば、当面はいっそう動きが限定されてくることになるだろう。これまでとさほど変わりはしないが、10年債で0~0.05%というレンジが市場では定着してくることになりそうだ。

経済
(画像=きんざいOnline)

(提供:きんざいOnlineより)