トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)が、「ウーブン・シティ」と名付けた「コネクティッドシティ」の構想を発表し、話題になっています。企業版スマートシティともいえるウーブン・シティはいったいどのような街になるのでしょうか。日本最大企業トヨタの取組を紹介します。

国土交通省が推進するスマートシティプロジェクトの最新情勢

スマートシティ
(画像=nirutft/stock.adobe.com)

国土交通省は2020年7月31日のプレスリリースで、 2019年度に続き公募していた「スマートシティモデルプロジェクト」の追加事業者の選定を発表しました。今回選定されたのは、「さいたま市スマートシティ推進事業」をはじめとする「先行モデルプロジェクト」が7事業、「ロボットのまち南相馬の復興に寄与するロボットを社会連携インフラとするまちづくり」をはじめとする「重点事業化促進プロジェクト」が5事業です。

これらの12事業はいずれも地方自治体が中心になって進めているプロジェクトです。そのような情勢の中で、トヨタが計画しているウーブン・シティは民間企業が独自に進めるプロジェクトとして、社会的にも大きな注目が集まっています。

では、トヨタが計画しているプロジェクトの具体的内容を見てみましょう。

トヨタが発表した実証都市を開発するコネクティッドシティ

トヨタは、2020年1月7日~10日に米国ネバダ州ラスベガスで行われた、世界最大規模のエレクトロニクス見本市「CES2020」で「コネクティッドシティ」の構想を発表しました。コネクティッドシティとは、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市のことです。

このプロジェクトの舞台になるのは、2020年末で閉鎖される予定のトヨタ自動車東日本株式会社東富士工場跡地(静岡県裾野市)です。開発する面積は175エーカー(約70.8万㎡)という東京ドーム約15個分に相当する広大なスケールです。

トヨタはこの街を、Woven City(ウーブン・シティ)と名付けました。Wovenとは、Weaveの過去分詞形で、「織った、織って作った」という意味があります。同社は道が網の目のように織り込まれ合う街の姿からこの名前を命名しました。この街の住民になるのは、初期段階ではトヨタ従業員、プロジェクト関係者を中心に2,000名程度の予定です。

ロボット、AI、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、スマートホームなど最新技術を用いた土地開発

ウーブン・シティでは、さまざまな最新技術を用いた土地開発が実施されます。街そのものを造る壮大な計画ですので、トヨタがこれまで培ってきた各分野の技術をふんだんに取り入れた内容になりそうです。使われる技術は以下のような内容です。

ロボット

産業用ロボットからヒト型ロボット、お掃除ロボまで日本の社会にロボットは広く浸透してきています。意外に思うかもしれませんが、トヨタはロボット分野でも高い技術力を有しています。ヒト型AIバスケットボールロボットの「CUE4」が、BREAK THE BORDER賞を受賞しました。この賞は、日本のバスケットボールを盛り上げた取り組みなどに対して贈られる賞です。ウーブン・シティでどのようなロボット技術が生かされるのか注目されます。

AI

ウーブン・シティで活用される最新技術の根幹をなすのがAI(人工知能)です。トヨタはAI技術の研究でも最先端を走っています。トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)が、人間を理解し予測できる人工知能ツールを開発・実証するための組織「Machine Assisted Congnition」を米国で設立しました。ウーブン・シティでもAI技術の各分野での活用が期待されています。

自動運転

いまテレビCMでも盛んにPRしているトヨタの自動運転技術は、ウーブン・シティでも実験が重ねられます。ウーブン・シティでは道が縦横無尽に張り巡らされる予定ですので、自動運転の実験には最適な環境になるでしょう。

MaaS

MaaSとは、交通手段をシームレスにつなぐ移動サービスのことです。スマートフォンのアプリなどを使って、交通手段やルートを検索し、予約から運賃の決済までをワンストップで行うことができます。トヨタはすでにさまざまな交通手段を組み合わせたルート検索や、乗り物の予約・支払いまでを完結できるアプリ「マイルート」をリリースしています。トヨタレンタカーやトヨタシェアなどのモビリティサービスを持っているのが強みといえるでしょう。

パーソナルモビリティ

パーソナルモビリティとは、1人乗りのコンパクトな移動機器のこと。人が移動するときの1人当たりのエネルギー消費を抑制することを目的に作られた移動ツールです。立ち乗りの自動歩行器のようなタイプが一般的です。市販車ではエスティーバやセグウェイが知られていますが、トヨタもi-unitをはじめ、自動車タイプの試作車を発表しています。

スマートホーム

スマートホームとは、家の家電をインターネットでつないで、スマートフォンや音声で制御することにより、快適な暮らしを実現する住宅のことを指します。トヨタグループにはトヨタホームという住宅メーカーがありますので、得意分野を生かしたシステムといえるでしょう。

参画企業や最新技術、「ウーブン・シティ」が目指す世界観とは

ウーブン・シティの設計は、デンマークの著名な建築家であるビャルケ・インゲルス氏が担当します。ウーブン・シティは、インゲルス氏の設計に基づき、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、AI、スマートホームなどトヨタの持てる技術をふんだんに取り入れた街になる見込みです。

しかも、単なる実証都市ではなく、そこに実際に住民が生活する街になることで、近未来のモデル都市になり得る可能性を秘めています。

自社Webサイト「トヨタイムズ」の報道によると、豊田章男社長は、「CES2020」の記者会見の中で、ウーブン・シティについて次のように述べています。

「(ほかの業界と同じように)トヨタもまた未来にフォーカスしています。コネクティッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)、すなわちCASEと呼ばれる技術。それに加えて、トヨタは人工知能、ヒューマンモビリティ、ロボット、材料技術、そして持続可能なエネルギーも研究している。もし、これらすべての研究をひとつの場所でできたらどうでしょう。しかもリアルな生活の場で」

ウーブン・シティは、いわばリアリティのある世界観を目指している都市といってもよいでしょう。

さて、スマートシティ事業の参画企業については、すでにトヨタと日本電信電話株式会社(NTT)が資本業務提携を発表しています。両社ではスマートシティを構築するためのプラットフォームを共同で運営する予定です。トヨタが2021年に着工するウーブン・シティと、NTTグループ企業が集中しているJR品川駅前でそれぞれプラットフォームの実装に向けて動き出します。

ウーブン・シティの開発に関わる、トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)のジェームス・カフナーCEOは、Googleが参加してくれることを期待している旨の発言をしています。Googleからトヨタに移籍したカフナーCEOの言動だけにリアリティがあります。

Googleの兄弟会社がカナダで進めているスマートシティ事業が住民の反対運動に遭っていることからも、ウーブン・シティへの参加はあながちあり得ない話ではなさそうです。

これから参画企業が決定するウーブン・シティですが、世界的大企業も含め、どのような布陣で未来都市を造り上げていくのか、その行方が注目されます。(提供:Renergy Online