「権力や財産を持つ人は社会的な義務を負わなくてはならない」という精神のノブレス・オブリージュが注目されています。ノブレス・オブリージュを企業の経営戦略や人材管理に反映する動きが見られますが、いま学校教育にも取り入れる動きも出てきています。社会貢献を前提とするノブレス・オブリージュの考え方が、高等教育による未来のリーダー育成のための中核的な方針になると見られているのです。

武蔵高等学校中学校、東京都市大学グループがノブレス・オブリージュを取り入れる理由

学校教育
(画像=gorodenkoff/stock.adobe.com)

ノブレス・オブリージュを教育方針に明確に取り入れている学校の事例として代表的な2校を紹介します。

武蔵高等学校中学校:志を持った人物こそ立派なリーダーになる

「御三家」の一角として知られる東京の武蔵高等学校中学校は、グローバルな時代を先導できる人材育成を目指しています。卒業生でもある校長の杉山剛士氏は「社会的地位のある人物でも非常識な行動をして問題になることがある。大切なのは若い時に一生懸命考えていたかどうか。志を持った人物こそ立派なリーダーになる」とノブレス・オブリージュを取り入れる理由について語っています。

また、杉山氏はノブレス・オブリージュの意味を「10代のうちに深く自らに問うことが、後で伸びるために重要」と考えています。

東京都市大学等々力中学校・高等学校:社会に対する奉仕の精神を個々人が発揮しなければならない

東京都市大学グループの東京都市大学等々力中学校・高等学校は、ノブレス・オブリージュを教育理念とのひとつとして掲げています。これは創立者の五島慶太氏の遺志でもあったようです。五島氏は東急グループの創設者としても知られています。東京五輪に向けた大規模再開発プロジェクトにより、「ずっと工事している」というイメージもある東京・渋谷の街ですが、このプロジェクトの中心にいる東急という巨大グループを、一代で築いたのが五島氏なのです。

五島氏は、鉄道沿線に学校を誘致し、経営難に苦しむ学校を支援してきました。事業の枠を越え、社会貢献の思いを持ち、時には無償で誘致することもあったようです。五島氏は「安定した社会の存立のためには社会に対する奉仕の精神を個々人が発揮しなければならない」と話しています。まさに、ノブレス・オブリージュの精神といえるでしょう。

現代に求められるノブレス・オブリージュの精神

大学教育に目を向けると、戦前の旧帝国大などには教育方針として、ノブレス・オブリージュの精神が存在していたものの、現代では失われているといわれています。2019年4月12日の東京大学の学部入学式において、社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子氏がノブレス・オブリージュについての見解を示しています。

階級社会が欧州のように発達していない日本では、ノブレス・オブリージュが根づきにくいといいます。そのため、上野氏の周りの東大生も、たとえ親が官僚、医師、弁護士、大学教員、会社役員などのエリート層であっても、自分を「庶民の家の出」であると認識していることが多いそうです。そのため、東大の受験に成功したことをはじめとした成功体験を、自らの努力によるものと考える人が圧倒的に多いとのこと。

実はこれが、ノブレス・オブリージュの考え方とは反対であると上野氏は指摘しています。ノブレス・オブリージュでは「自分の成功はそれを与えてくれた環境のおかげである」と考えます。だからこそ、自分ではなく、環境に感謝し、尊重するようになり、社会を救いたいと心から思えるようになるわけです。

日本でも終身雇用の崩壊などにより格差ができはじめ、西欧型の階級社会化が進みつつあると言われます。そんな状況の中で、ノブレス・オブリージュを身につけ、社会を第一に考える次世代のリーダーが必要になってくるのです。

アフターコロナで変わる教育の考え方

新型コロナウイルス感染症が、学校教育の考え方を変えるきっかけになると指摘されています。知識詰め込み型とも言われる現在の教育方法では、新型コロナウイルス感染症をはじめとした不測の事態に対応できる人材を育てるのが難しいからです。

想定外の出来事が起きた時に、自分よりも社会を優先し、周囲のために最適な行動をとれるようなリーダーが求められるのは間違いありません。ノブレス・オブリージュはその源泉になると考えられるのです。(提供:JPRIME


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