IMF(国際通貨基金)が2020年4月に公表した定例の「WEO(世界経済見通し)」では、2020年の成長率予測が、前回1月の見通しから大幅に下方修正された。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、1930年代の世界恐慌以来、最悪の景気後退を予想している。

未曾有の危機を受けて、今後世界経済はどのように変わっていくのだろうか。また、日本政府はどのように経済活動を回復させるつもりなのだろうか。2020年5月末時点の情報を交えながら、景気後退予想や政策対応を解説する。

2020年の世界経済の成長率はマイナス3%まで落ち込む

世界経済
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今回のIMFのWEOでは、2020年の世界全体の経済成長率を、1月時点の予測+3.3%から6.3%引き下げ、-3.0%まで落ち込むと予想した。

今回の事態は「過去に発生した景気後退と比べても、著しく性質が異なったもの」であるとし、各国で実施されているロックダウン(都市封鎖)などによる経済活動の停滞によって、「貿易や供給網を通して、混乱が全世界に波及している」と分析している。

1930年代の世界恐慌では世界のGDPが約10%縮小したと言われており、2020年からの2年間で世界恐慌時に匹敵する縮小を見せる可能性があるとしている。現在約90兆ドルあるとされているGDPが10%縮小すれば、約9兆ドルが失われることになる。IMFの表現を借りれば、「日本とドイツが丸ごと消えるレベルの規模」である。

2021年の見通しに関しては、各国が実施する政策支援などの影響で2020年後半より徐々に回復傾向に向かうと予測し、世界全体の経済成長率は+5.8%までV字回復するとしている。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の終息時期を見極めることは困難であり、2021年の見通しについては「不確実性が極めて高い」との見解を示した。

従来予想の経済成長を示す「ベースラインシナリオ」では、ほとんどの国で2020年4~6月に最も深刻な状態に陥るものの、2020年後半からは感染防止策を緩やかに解除していくとの予想を立てている。2020年全体では、感染状態が深刻な国で1ヶ月分の経済活動にあたる約8%、それ以外の国では約5%が失われると予測している。

このような前提のもと、IMFは2020年から2021年にかけての成長率の推移を-3.0%→+5.8%としている。リーマンショック時の2009年から2010年が-0.1%→+5.4%であったことに照らし合わせると、今回はリーマンショックを上回る危機が予想されていることになる。

3つの「リスクシナリオ」では回復力も弱い

これまで世界が経験したことのない未曾有の事態であることから、今回の見通しではベースラインに加え、以下に挙げる3つの「リスクシナリオ」が提示されている。

  1. 2020年の感染抑制に要する時間が、ベースラインに対して約50%長引く
  2. 2021年に感染拡大の第2波(ベースラインに対し約2/3の強度)が到来し、金融環境も約2倍悪化する
  3. 1と2の事態がともに発生する

いずれのシナリオに関しても、各国の国債利回りが上昇することで金融環境が引き締まり、政策当局がより一層の対応を迫られることが予想されている。その結果生産性の上昇率が抑えられ、失業率の上昇が懸念されるとの予測が発表された。

IMFでは「リスクシナリオ」という表現を用いていないため、これらのシナリオを十分起こりうる事態としてとらえていることがわかる。また、それぞれにおける成長率の推計も、以下のように示されている。

  1. 2020年から2021年にかけての経済成長率は、ベースラインに対しそれぞれ約3%および約2%下振れする
  2. 2020年の成長率はベースラインと同じだが、2021年は約5%下振れする
  3. 2020年から2021年にかけての成長率は、ベースラインに対しそれぞれ約3%および約8%下振れする

これら以外の分析においても、感染の拡大が長引くことで中央銀行の限界が試され、各国政府の債務負担が増す可能性が予想されている。特に、ECB(欧米中央銀行)に対する懸念が示された形だ。

欧米の成長率は大幅な下方修正、中国はプラス圏を維持

世界全体では大幅なマイナス成長が予測された今回の見通しにおいても、国や地域に分けると差があることがわかる。

主要先進国の成長率は、2020年から2021年にかけて-6.1%→+4.5%という厳しい予想。地域別に見ると、アメリカが-5.9%→+4.7%、ユーロ圏が-7.5%→+4.7%、イギリスは-6.5%→+4.0%となっている。ユーロ圏は2020年に極めて大きな景気減速が予想され、アメリカも年間の減少率としては1946年以降で最大だ。

ユーロ圏は感染拡大に歯止めがかかりつつあるものの、特に被害が大きかったイタリア・スペインの下方修正が目立った。もともと景気が減速傾向にあったことや、観光・宿泊の比重が大きいこと、金融システムの弱い国が存在することを理由とし、回復力の伸び悩みも懸念されている。

感染拡大前から経済活動の勢いがあったアメリカは、感染者数が世界最多となり経済の停滞は避けられないとしながらも、2021年まで政策効果が持続するとしている。

主要新興国の成長率は、2020年から2021年にかけて-1.0%→+6.6%と、先進国を上回ることが予想されている。しかし、新興国はもともと経済成長率が高く、前回見通しからの修正幅も-5.4%と大きい。ブラジルやロシアでは感染拡大が遅れて到来したこともあり、2020年の成長率は-2.2%にまで下がるとの厳しい予想が示された。

ウイルスの感染源とされる中国は+1.2%→+9.2%と、前回見通しから下方修正されたものの、プラスを維持している。2ヵ月にわたるロックダウンを解除して経済活動が再開されたことや、政策対応の余力が大きいことなどが好材料として示された。近年経済成長が著しいインドも+1.9%→+7.4%と、プラスを維持している。

日本の成長率もリーマンショック以来の低水準

日本における成長率は、2020年から2021年にかけて-5.2%→+3.0%と、2009年のリーマンショック以来となる低水準が示された。2020年に予定されていた東京オリンピックの開催延期や、2020年4月7日に発令された緊急事態宣言による外出自粛により、経済活動の長期停滞は避けられないと見られている。

なお、日本は2019年の消費増税により、すでに2019年第4四半期に大幅な落ち込みを経験している。その反動として、2020年の下げ幅が抑えられていることも考慮する必要があるだろう。

各国に求められる経済政策

IMFは、今後各国に求められる対策として、それぞれの国において新型コロナウイルスの感染拡大防止と沈静化に全力を尽くすことを第一の目標に掲げている。

加えて、感染拡大への対策と経済回復への対策は一得一失の関係にはなく、できるだけ早い感染拡大の終息が経済の早期回復につながるとした。医療物資の調達や医療関係者の派遣などに関し、先進国と新興国が協調していかなければならないことにも言及している。

経済対策においては、金融・財政・金融システムなど、講じ得るすべての政策を発動すべきとし、特に財政面での政策に関し、国際間で協調する必要性を述べている。新興国については、医療面のみならず金融システムや財政でも脆弱性を抱えているとし、先進国によるできる限りの支援が必要であることを示した。

IMF自身も、加盟国に対する支援として、債務負担の減免などを通じた施策を実施する方針を示している。大規模な経済対策に伴う各国政府の債務増加に対する懸念については、金利環境が重要であることを述べた上で、低金利環境を維持することに対する中銀への期待を示した。

日本政府の対策についても、2020年5月末時点でわかる範囲で触れておこう。4月7日に発令され、4月16日に全都道府県に拡大した緊急事態宣言は、5月31日まで延長された期間を前倒しして、5月25日に全国で解除された。日本にとっての新型コロナウイルス第一波が終息に向かっている状況である。

このことを受け、日本政府は5月25日に新型コロナウイルスへの基本的対処方針を改定し、社会経済活動を段階的に再開するための指針を示している。

観光分野や大規模イベントなど、全国各地で自粛が続いている各分野について、約3週間ごとに感染状況をチェックしながら制限の緩和を進め、8月1日を目途に経済活動の全面的な再開を目指すことを表明した。

全国から大勢の人が集まるイベントについては、7月一杯は開催の自粛を促し、ソーシャルディスタンスを確保した上で8月1日頃から開催するよう求めている。プロスポーツに関しては、6月19日からの開催を目途に、入場者数を段階的に増やすよう要請した。

国内や海外における今後の経済状況を注視しよう

今回の新型コロナ危機では、経済活動の実感と金融市場の動きが乖離している。これは金融危機が大きな原因となった大恐慌・リーマンショック・日本のバブル崩壊と、半ば人為的に経済活動をストップしたコロナ危機とで大きく異なっている点と言えるだろう。

リーマンショックを経て、世界の金融機関は体力をつけてきている。経済指標が示す数値ほど株式市場は悲観的になっておらず、むしろ金融市場関係者のほうが状況を冷静に分析しているとの見方もある。

実体経済と金融市場の動きは、いずれ収斂すると見られているが、どのような形で収まるのかということに関しても、IMFの今後の発表と併せて注視しておく必要があるだろう。(提供:THE OWNER

文・八木真琴(ダリコーポレーション ライター)