プライベートエクイティファンドは、資金を提供して企業価値を高めた上で売却をサポートしてくれるファンドであり、事業承継にも活用する事ができる。今回は、事業承継で悩む中小企業のオーナーに向けて、プライベートエクイティファンドの種類やメリットについて解説する。

プライベートエクイティファンドとは?

プライベートエクイティファンド
(画像=sb/stock.adobe.com)

プライベートエクイティとは、未公開株式(非上場企業の株式)のことだ。未公開株式に投資することを、プライベートエクイティ投資という。

ファンド(fund)には、「資金・基金」という意味がある。金融業界では、目的を持って集められた資金を指すことが多い。つまり、プライベートエクイティファンドとは、未公開株式に投資するために集められた資金のことを指す。プライベートエクイティファンドは、海外にも日本にも存在している。

プライベートエクイティファンドは、投資家から資金を集めた後、集めた資金を非上場企業などのプライベートエクイティに投資して利益を出し、利益を投資家に再分配する。

プライベートエクイティファンドの事業承継への活用

事業承継においても、プライベートエクイティファンドは注目を集めている。事業承継を考えているオーナーから、プライベートエクイティファンドが会社を買い取った後、企業価値を高めたうえで会社を売却することで、売却益を得るという流れだ。

事業承継でM&Aを選択して会社を売却しようと考えても、限られた時間の中で自社に合った売却先が見つかるとは限らない。しかし、プライベートエクイティファンドに会社を託せば、プライベートエクイティファンドが時間をかけて最適な売却先を探してくれる可能性もあるのだ。

プライベートエクイティファンドの種類と特徴

プライベートエクイティファンドには、さまざまな種類がある。ここでは、プライベートエクイティファンドの種類別に、特徴を解説していく。

ベンチャーキャピタル

ベンチャーキャピタルとは、創業期のベンチャー企業に投資するプライベートエクイティファンドのことだ。

企業の創業期は経営上不安定な時期なので、プライベートエクイティ投資の中では、リスクが高いといえるだろう。一方で、投資家からすると、投資先が順調に成長すれば大きなリターンを狙える可能性があり、ハイリスク・ハイリターンのプライベートエクイティファンドと言えるだろう。

バイアウトファンド

バイアウトファンドとは、成熟期の非上場企業に投資するプライベートエクイティファンドのことだ。ベンチャーキャピタルと比べると、突然の倒産などのリスクは低減するが、ターゲットとなる市場が成熟しているため、期待されるリターンも少なくなる。ローリスク・ローリターン型のプライベートエクイティファンドである。

企業再生ファンド

企業再生ファンドとは、経営難で赤字に陥った非上場企業に投資し、企業価値を高めることで再生を目指すプライベートエクイティファンドのことだ。事業再生ファンドと呼ばれることもある。経営回復ができずに倒産するという大きなリスクを伴う一方で、株式を安く買収できることから、大きなリターンを狙える可能性がある。

事業の方向転換をしながら再生を図ることを得意とするプライベートエクイティファンドは、ターンアラウンドファンドと呼ばれることもある。また、経営破たんした会社の株式を投資対象とするプライベートエクイティファンドは、ディストレスファンドと言われている。

事業承継ファンド

事業承継ファンドとは、事業承継を希望する会社を買収し、企業価値を高めてから売却することで、売却益を得るプライベートエクイティファンドのことだ。

プライベートエクイティファンドにはさまざまな種類があるが、1つのプライベートエクイティファンドが、複数の領域で投資を行っていることも少なくない。あまり種類にこだわり過ぎず、幅広い視野でプライベートエクイティファンドを探すといいだろう。

プライベートエクイティファンドを活用するメリット5つ

中小企業経営者にとって、プライベートエクイティファンドは、単なる投資目的以外の利用方法もある。ここでは、プライベートエクイティファンドを活用するメリットを5つ紹介する。

メリット1.経営力の強化

プライベートエクイティファンドに会社の運営を任せることで、経営力の強化を図ることもできる。

中小企業では、経営におけるオーナーへの依存度が高く、オーナーが退いた途端、一気に顧客離れが起きて事業が衰退してしまうこともある。そうならないためには、社員の自立を促し、オーナーに依存し過ぎないルールや管理体制の構築が必要である。

オーナー依存を脱却した経営基盤を構築することは、プライベートエクイティファンドの得意分野だ。プライベートエクイティファンドが培ってきたノウハウで、経営者が退いたとしても自然な形で組織が持続していけるように、しっかりサポートしてくれる。

経営者自らが会社の売却先を見つけたとしても、組織としての経営活動力が低ければ、結局は従業員が離散して事業が途絶えてしまうかもしれない。しかし、プライベートエクイティファンドという経営力強化のプロに会社を委ねることで、社員に自立の機会を与えることができる。

その後、プライベートエクイティファンドが他社に会社を売却したとしても、オーナーへの依存度が低く、社員自らが持続的な経営を行えるような会社として承継が実現するだろう。

メリット2.資金調達

プライベートエクイティファンドは、「ファンド」という名の通り、資金提供を行ってくれる。豊富な資金があれば、経営の選択肢はぐっと広がる。

資金は借り入れる訳ではなく、自社の株式をプライベートエクイティファンドに売却することで、その対価として受け取るものだ。そのため、金融機関からの借入のように、利子をつけて返済する必要もない。

利子などを気にせずに安心して企業価値向上のために資金を使えることは、プライベートエクイティファンドを活用するメリットといえるだろう。

メリット3.人材紹介

プライベートエクイティファンドは複数の企業に投資しており、さまざまな業界・企業と太いパイプを構築している。そのため、企業価値を高めるために必要となる人材を紹介してくれる可能性もある。

経営上、何か新しい事業を始めようとしても、「それを担ってくれる人材がいない」というのはよくあることだ。プライベートエクイティファンドを活用することで、企業価値向上のコアとなる人材を受け入れられるかもしれない。

メリット4.理念や風土の明文化

会社独自の理念や風土が浸透していても、オーナーが退くことで会社の雰囲気が変わってしまうことは少なくない。理念や風土といった形のないものは、それだけ後世に引き継いでいくことが困難だ。しかし、大切に育て上げた会社だからこそ、理念や風土を含めて後世に引き継ぎたいと考えるオーナーも多いだろう。

プライベートエクイティファンドでは、理念や風土を明文化することで、オーナーが退いたあとも会社にとって望ましい組織体質が継続するよう、サポートしてくれるところもある。プライベートエクイティファンドを上手に活用することで、自分が本当に望む形での事業承継を実現できるかもしれない。

メリット5.最適なM&A戦略

プライベートエクイティファンドにはM&Aに関する専門家も在籍しているため、会社にとって最適なM&Aの手法を選択してくれるだろう。

M&Aの実務は複雑なので、経営者が個人でM&Aを勉強して実行しようとすると、気づかぬうちに致命的なリスクを背負ってしまうことがある。せっかく会社を売却して勇退生活に入ったと思ったら、訴訟を起こされた、なんてことになっては目が当てられない。

プライベートエクイティファンドには豊富なM&Aの事例があるため、過去の事例を踏まえつつ、リスクを最小限に抑えてM&Aを進めてくれるだろう。M&Aの勘所を熟知した専門家に相談しながら、安心してM&Aを進められることが、プライベートエクイティファンドを活用するメリットである。

代表的なプライベートエクイティファンド3つ

日本には複数のプライベートエクイティファンドが存在している。情報収集はもちろんのこと、実際に担当者と会い、相性を確かめてから会社を託すようにしたい。ここでは、プライベートエクイティファンドを3つ紹介する。

ユニゾン・キャピタル

1998年創業の、日本においてパイオニアといえるプライベートエクイティファンド。あらゆる業種を対象とし、戦略・人材・資金のサポートを行う。事業承継を検討している会社も投資対象としている。

東京・ソウル・シンガポールに拠点を持ち、シダックス株式会社、旭テック株式会社、株式会社あきんどスシローなど有名企業の支援実績も豊富だ。

ニューホライゾンキャピタル

2006年創業のプライベートエクイティファンド。投資対象は、事業承継・グロース・再生の3つだ。投資を実行する際には、投資先企業と経営方針について十分協議を行い、合意した上で進める姿勢を大切にしている。

住宅機器を扱う株式会社ハウステック、駅弁や総菜を扱う株式会社万葉軒、グローバル留学支援のiaeホールディングス株式会社など、さまざまな業界・分野の企業への投資実績がある。

日本プライベートエクイティ株式会社

中小企業のM&A支援を行う、株式会社日本M&Aセンターと株式会社日本政策投資銀行が出資し、2000年に設立されたプライベートエクイティファンド。事業承継で悩む中小企業を投資対象としている。

防水用資材の専門商社である株式会社クニ・ケミカル、中古パソコン販売店舗である株式会社じゃんぱら、ギフト専門店の株式会社ギフトプラザなど、さまざまな業界・分野の中小企業への投資実績がある。

プライベートエクイティファンドの活用など事業承継には幅広い選択肢を

商品・サービスを後世に引き継ぎたいという想いがあっても、後継者が見つからなければ、廃業を考える経営者もいるだろう。ただ、親族内承継が難しくても、従業員や役員に承継したり、プライベートエクイティファンドを活用したり、M&Aで事業を売却するなど、事業承継にはさまざまな選択肢がある。

会社を売却して事業を存続させることは、従業員の生活を守ることにもつながる。M&Aヤプライベートエクイティファンドなどの幅広い選択肢に目を向け、自分にとって後悔のない事業承継の形を選択することが大切だ。(提供:THE OWNER

文・木崎涼(フィナンシャルプランナー・M&Aシニアエキスパート)