9月短観予測:景況感は底打ちするも回復鈍く、設備投資計画は下方修正へ

●経済活動再開により景況感は底打ち

10月1日に公表される日銀短観9月調査では、内外での経済活動再開を受けて、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が▲26と前回6月調査から8ポイント上昇し、景況感の底入れが確認されると予想する。景況感の改善は11四半期ぶりとなる。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も▲12と前回調査から5ポイント上昇すると見込んでいる(図表1)。ただし、それぞれのD.I.の水準は依然として新型コロナ拡大前を大幅に下回ることから、回復の鈍さが目立つ結果にもなるだろう。

前回6月調査では、新型コロナ拡大に伴う緊急事態宣言発令によって5月にかけて景気が急激に落ち込んだことを受けて、企業規模や製造業・非製造業を問わず、景況感の大幅な悪化が確認されていた(図表2)。

5月下旬に緊急事態宣言が解除され、以降経済活動が段階的に再開されたことで、前回調査以降、企業の経営環境は改善に転じている。また、世界に先駆けた中国経済の回復に加え、特別定額給付金の支給や「Go To トラベル キャンペーン」の開始といった政府の経済対策も一定の追い風になったとみられる。

しかしながら、7月から8月にかけて新型コロナの国内新規感染者数が再び増加に転じたことで人々の外出自粛ムードが継続し、サービス消費の回復が抑制された。また、中国を除く海外経済の回復の遅れによって輸出環境には厳しさが残るほか、入国規制による訪日客の途絶が続いていることもあり、景気の回復ペースは全体として緩やかなものに留まっている。

実際、現在出揃っている7月分の主要経済指標を見ると、輸出・消費・生産ともに既に最悪期を脱しているものの、未だ新型コロナ拡大前の水準からは程遠い状況にある(図表3)。

さらに、8月分が公表されている景気ウォッチャー調査(いわゆる街角景気)では、現状判断(水準)DI(1) が7月からほぼ横ばいに留まっている。領域別に見た場合には、4月にかけて大きく落ち込んだ飲食関連のD.I.が特に低位に留まっている(図表4)。

65454_ext_15_2.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)
65454_ext_15_3.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今回、大企業製造業では、中国をはじめとする海外経済の回復に伴う輸出の持ち直しや、国内での経済活動再開等に伴う製品需要の回復を受けて景況感が底入れすると予想される(表紙図表1)。特に内外で需要が回復している自動車の景況感回復が見込まれるが、同産業は裾野が広いだけに、幅広い業種に好影響が波及するだろう。ただし、依然として鉱工業生産の水準はコロナ前を大きく下回っていることから、景況感のV字回復は見込めない。

非製造業も、国内経済の再開に加え、特別定額給付金の支給などの経済対策の効果も一定程度あって景況感が持ち直しに転じると見込まれる。ただし、訪日客の途絶が続いているうえ、新型コロナの感染再拡大がサービス消費回復に対する逆風となったことで、景況感の改善幅は製造業を下回ると見ている。

中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から5ポイント上昇の▲40、非製造業が3ポイント上昇の▲23と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が回復に転じるものの、中小企業では危機後の回復が大企業より遅れる傾向があるため、今回の上昇幅は大企業を下回ると見ている。

なお、先行きの景況感については、総じて持ち直しが示されると予想。新型コロナの早期根絶は困難だが、政府が経済活動と感染抑制の両立を図っていることから、今後もイベント等の制限緩和や経済対策による景気の回復が見込まれるためだ。また、海外経済も経済活動再開の動きが継続することで回復が期待される。ただし、今後も内外での感染拡大に対する警戒が続くうえ、訪日客の回復も目途が立っていない。また、米中の対立激化や米国での追加経済対策の遅れといった海外経済を巡る下振れリスクも燻っていることから、先行きの景況感改善は限定的に留まるだろう。

とりわけ、中小企業はもともと先行きを慎重に見る傾向が強いだけに、製造業では大企業よりも景況感の改善幅が小幅となり、非製造業では悪化が示されると予想している。

----------------------
(1) 景気ウォッチャー調査におけるDIは通常3カ月前と比べた景気の方向感を示す指数を指すが、ここでは参考値として公表されている水準指数を使用している。

●設備投資計画は異例の下方修正へ

2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.5%減(前回調査時点では同0.8%減)に下方修正されると予想している(図表7・8)。

例年、9月調査では、中小企業において計画が具体化してくることによって上方修正される傾向が強い。しかしながら、現在は新型コロナの感染拡大に伴って収益が大幅に悪化したことでキャッシュフローが減少しているうえ、事業環境の先行き不透明感も強い。このことから、企業の間で設備投資の撤回や見合わせ・先送りの動きが広がり、前回調査に続いて異例の下方修正になると予想している。

65454_ext_15_5.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)
65454_ext_15_6.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●注目ポイント:経済活動再開の影響、設備投資への下押し圧力

今回の短観は、内外で経済活動の再開が進んだことによって、企業の景況感がどの程度回復したかを計る材料に位置付けられる。業況判断D.I.は全体的に底打ちが見込まれるが、足元ならびに先行きにかけての回復ペースが注目される。

また、実体経済への影響という面では今年度の設備投資計画が重要になる。前回調査時点では前年比でわずかな減少に留まっていたが、収益・キャッシュフローが大幅に悪化し、先行きのV字回復も見込みづらいなかで、どこまで設備投資意欲が維持されているのかが日本経済の今後の回復ペースを占ううえでの注目ポイントになる。

●日銀金融政策への影響

今回の短観では、既述の通り、企業の景況感が底打ちする一方で設備投資計画が下方修正されると見込まれるが、こうした点が当面の日銀金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。景気は既に最悪期を脱しているうえ、日銀は今回のコロナ禍において金融市場の安定と企業の資金繰り対応を優先課題としているためだ。

従って、当面の金融政策に関連して注目されるのはむしろ資金繰り判断D.I.となる。前回調査では、水準こそリーマンショック後の最悪期と比べて高いものの、新型コロナ拡大に伴う売上の急減や休業等を受けて、企業の資金繰りの大幅な悪化が示されていた(図表9)。政府・日銀の融資促進策の効果も一定程度あったとみられ、資金供給サイドである銀行貸出は前回調査以降も高い伸びを示しているが、資金需要サイドである企業が資金繰りについてどう感じているのかが注目される。仮に想定を超える悪化が示された場合には、日銀が早期に資金繰り対応策の強化・拡充に向かう材料になり得る。

また、企業の物価見通しも注目される。従来、企業のインフレ期待はじわじわと低下してきたが、前回調査では、新型コロナの拡大を受けてさらに低下し、中期(5年後)でも1%を割り込んだ(図表10)。今後インフレ期待がさらに低下すると、現実の物価上昇率の抑制要因となり、デフレ再発のリスクが高まりかねない。日銀の追加緩和余地は既に乏しいものの、インフレ期待の低下に歯止めがかからない場合には、日銀がフォワードガイダンスの強化といった追加対応に踏み切る可能性が高まるだろう。

65454_ext_15_8.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
日銀短観(6月調査)~企業の景況感はリーマンショック級の落ち込み幅に、設備投資計画も異例の下方修正
日銀短観(3月調査)~企業の景況感は大幅に悪化したが、新型コロナ情勢悪化の織り込みは不十分
日銀短観(12月調査)~大企業製造業の景況感は4期連続の悪化、非製造業の景況感、設備投資計画には底堅さも
日銀短観(9月調査)~大企業製造業の景況感は3期連続の悪化、先行きは消費増税への懸念強い、設備投資計画も慎重化
日銀短観(6月調査)を深掘り~設備投資計画は安心材料か?