中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

中小企業の事業の効率化やテレワーク導入にはIT化は欠かせず、IT導入を支援する「IT導入補助金」のような補助金や助成金の給付金もある。今回は、中小企業がIT導入に際して活用できる補助金や助成金の種類や、IT導入に係る補助金や助成金の申請方法について説明する。

IT関連の補助金や助成金を行う意味

テレワーク
(画像=Andrey Popov/stock.adobe.com)

IT機器やソフトウェアを、補助金や助成金などの給付金を活用して導入することにはどういう意味があるのだろうか。

一般的には、IT機器導入に係る費用の一部を国や地方自治体などに負担してもらうことによって、負担を軽減することが挙げられるだろう。

しかし、IT導入に関係する補助金・助成金の中には導入に際してコンサルタントなどから提案を受けて導入する必要があるものもあり、自社の事業の効率化について専門家に問題点を見つけてもらって、事業の効率化を図れるという利点もあると考えられる。

IT関連の助成金・補助金の事例:IT導入補助金

中小企業がIT関連のソフトウェア等を導入する際に活用する補助金として、IT導入補助金がある。ここでは、IT導入補助金の制度内容や、どうやって申請・助成を受けるかについて説明する。

IT導入補助金とは

IT導入補助金は、中小企業が働き方改革などの制度変更などへの対応を目的として、生産性の向上に役立つソフトウェアやサービスの導入を行うための事業費を、最大で半額まで補助するものである。

IT導入補助金の補助対象

IT導入補助金は、以下のような要件でITツールを導入したときの費用を助成するものである。

  1. 中小企業・小規模事業者が
  2. 業務改善と効率化のためのITツールを
  3. IT導入支援事業者から
  4. 決まった金額以上を支出して導入する

では、これらの条件を満たす具体的な要件はどのようなものであろうか。順に説明する。

まず、「①中小企業・小規模事業者」について説明する。これは従業員数(常時使用する従業員。解雇するのに予告が必要な者)と、法人の場合は資本金の額(や出資の総額)によって決まる。中小企業の要件は業種によって異なり、その範囲の例は以下の通りであり、法人の場合は、片方でも満たしていれば適用となる。

業種従業員数資本金額(会社のみ)
製造業、建設業、運輸業300人以下3億円以下
小売業50人以下5,000万円以下
卸売業100人以下1億円以下
サービス業100人以下5,000万円以下

また、この条件を満たす企業であっても、大企業の子会社などは対象外となる。さらに、風俗営業や宗教法人など、対象とならない業種もある。

IT導入補助金における「②ITツール」は、労働生産性の向上に帰するソフトウェアやサービスでなければならない。なお、本制度ではパソコン本体やタブレットなどのハードウェアは対象外となっている。

導入するITツールについては、具体的に以下のように定められている。

Ⅰ:業務プロセスや業務環境を担うソフトウェア。業務プロセスについては6つに分けられている。
Ⅱ:オプションとなるソフトウェア。例として自動化などが挙げられる。
Ⅲ:付帯サービス。導入コンサルティングなどがある。

導入に際しては業務プロセスのうち、少なくとも1つに当てはまる必要がある。

IT導入補助金を申請する中小企業は、ITツールの導入を事業者自身が行うのではなく、ITツールなどを販売する「③IT導入支援事業者」と一緒に行っていくこととなる。IT導入支援業者は、IT導入補助金を申請する中小企業が求めるITツールの販売や導入のみならず、本補助金の申請の一部も行う。

最後に「④決まった金額以上の支出」について、どのようなITツールを導入するかによって異なるが、最低でも60万円以上のITツールの導入を行った上で、導入にかかった費用の2分の1以下かつ少なくとも30万円以上の助成額の申請を行うこととなる。

IT導入補助金の特別枠

2020年は、新型コロナウイルス対応でテレワークの導入を検討している中小企業に対して、ITツールのみならずハードウェアについても補助金が支給されている。

補助金の受給対象企業や、申請に際してIT導入支援事業者の助力が必要である点は同じであるが、通常申請とは異なる点もある。

・対象となるITツール

以下の目的を含めた、自社事業の生産性向上を行うハードウェアを含めたITツールについて補助対象となる。

甲:サプライチェーンの毀損への対応
乙:非対面型ビジネスモデルへの転換
丙:テレワーク環境の整備

なお、上記以外にも、通常枠と同じ6つの業務プロセスのうちのいずれか1つ以上に合致したものである必要がある。

・助成率がアップ

先に述べたITツールのうち、乙・丙を導入する場合は最大で4分の3、甲を導入する場合は最大で2分の1の助成率となっており、上限額は450万円に拡充されている。

IT導入補助金の申請から受領までの流れ

IT導入補助金の申請は、補助金の申請を行う中小企業等に、ソフトウェアやサービスの提供と導入の手伝いを行う「IT導入支援事業者」と一緒に行う事となる。

具体的な申請の流れは以下の通りである。

IT導入を決めた企業や個人事業主は、まずIT導入支援事業者に連絡を取り、導入するソフトウェアやツールなどの選定を行う。

導入するソフトウェアやツールが決まったら申請を行う。書類作成の大半はIT導入支援業者が行うが、履歴事項全部証明書や納税証明書などの一部の書類については中小企業自身で準備する。

申請が終わって、補助金の交付決定が出た後に、IT導入支援業者にソフトウェアやツールを発注し、契約を結んだ上で導入を行う。その後、補助金申請を行った中小企業の側で、導入を行ったことについて報告を行う。

導入報告を行った後に補助金の金額が決定され、振り込まれる。導入・振込の後に導入成果の報告を行えば、IT導入補助金申請の一連の手続きが終了する。

IT関連の助成金の事例:働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)

IT関連の補助金・助成金はIT導入補助金が有名であるが、その他にもIT関連のものがいくつかある。また、2020年は、新型コロナウイルスによるテレワーク導入普及に関連する補助金や助成金が拡充している。

「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」は、厚生労働省が支給する助成金であり、基本的に在宅やサテライトオフィスでテレワークを行う中小企業に対して、その導入費用の一部の助成を行うものである。

働き方改革推進支援助成金:助成対象

助成金の支給対象となる事業主は、テレワークを新規で導入するか対象人員を倍に増やして実施する(過去に実施した場合、2回まで)、 労災保険に加入している事業主で、以下の企業規模の要件に該当すること。

業種従業員数資本金額(会社のみ)
小売業(飲食店を含む)50人以下5,000万円以下
サービス業100人以下5,000万円以下
卸売業100人以下1億円以下
その他300人以下3億円以下

また、以下のうちいずれか一つでも導入する必要がある。

○テレワーク用通信機器の導入・運用
○就業規則・労使協定等の作成・変更
○労務管理担当者に対する研修
○労働者に対する研修、周知・啓発
○外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング

テレワーク用通信機器については、例えば、テレワークを行う上で必要最低限の機能を有したパソコン、クラウドサービス、遠隔操作のソフトウェアがある。

また、評価期間(支給決定の日から2021年2月15日までの1から6ヵ月間)について、以下の成果目標を設定することが求められる。

  1. 評価期間に1回以上、対象労働者全員に、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワークを実施させる。
  2. 評価期間において、対象労働者が在宅又はサテライトオフィスにおいてテレワークを実施した回数の週間平均を、1回以上とする。

働き方改革推進支援助成金:補助率、補助額

設定した成果目標が達成されたか否かによって、助成金の支給率、支給額が異なる。

目標達成目標未達成
補助率3/41/2
1人あたり補助額40万円まで20万円まで
1社あたり補助額300万円まで200万円まで

働き方改革推進支援助成金:申請方法

IT導入補助金とは異なり、自分で申請とITツールの導入を行うこととなる。

まず、導入に関する申請書である「働き方改革推進支援助成金交付申請書」を提出して交付の決定を待つ。交付後、提出した計画に沿ってテレワークの導入を実施し、計画終了後に助成金支給の申請を行う。

IT関連の補助金の事例:はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)

IT関連の助成金・補助金の中には、都道府県が独自に行っているものもある。

「はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)」は、テレワーク導入に向けたコンサルティングを受けた東京都内の企業に対して、テレワークをトライアルするための環境構築の経費、制度整備のための費用を助成するものであり、東京しごと財団が実施している

はじめてテレワーク:補助対象

「はじめてテレワーク」の補助対象となる事業者の主な要件としては、以下のものが挙げられる。

①都内勤務の常時雇用する労働者が2人以上999人以下、かつ6ヵ月以上継続雇用している
②東京都実施のテレワーク導入コンサルティングを受けている
③就業規則にテレワークに関する規定がない
④「2020TDM推進プロジェクト」に参加している

補助対象となる費用は以下の2つである。

①テレワーク環境構築に関する費用(必要な機器や関連ソフトは予め決められている)
②就業規則にテレワーク制度整備に関する定めをするための費用

はじめてテレワーク:補助率、補助額

補助率は100%であり、補助額の上限は従業員数によって決まり、100人未満の場合は40万円となる。

はじめてテレワーク:申請方法

まず、テレワーク導入について、東京都が実施するコンサルティングを受け、「テレワーク導入パッケージ提案書」を受領する必要がある。これによって、テレワーク導入に必要なツールなどが決まる。

次に、この提案を元にテレワークを導入するための機器類を選定し、選定した機器類を記した「導入予定機器等一覧表」を作成する。

最後に、「テレワーク導入パッケージ提案書」や「導入予定機器等一覧表」と一緒に申請書類を作成して、東京仕事財団に提出する。

IT化の波に遅れるな

今回は、IT導入の際に活用できる補助金・助成金について、その種類や申請方法を説明した。新型コロナウイルスの影響もあり、中小企業でもテレワーク導入が必要しされており、IT導入関連の補助金・助成金についても需要が高まっている。

自社のITシステム導入に際して、補助金や助成金を用いて事業の効率化に役立てたら幸いである。(提供:THE OWNER

文・中川崇(公認会計士・税理士)