勘定科目とは、会計処理をする際の集計項目である。一見、経理担当にだけ関係するようであるが、経営管理上重要な側面もある。ここでは、よく使う勘定科目の一覧や定義の例を紹介していく。会計処理のための勘定科目ルールづくりの参考にしていただきたい。
勘定科目は大きく分けて5種類
勘定科目は、お金の流れを把握し、会社の財政状況を読み取る貸借対照表や損益計算書を作成するために必要である。
会計の基礎「資産」「負債」「純資産」「費用」「収益」の5つに区分
勘定科目は大きく5つの区分に分けられる。決算書のうち、貸借対照表には「資産」「負債」「純資産」が、損益計算書には「費用」「収益」が用いられる。会計処理や決算書はすべて、この5つの区分で網羅的に把握することができる。
たとえば、商品を現金で販売した場合は、現金という資産が増え、販売という行為により収益が増える。金庫にある現金を銀行口座に預け入れた場合は、現金という資産が減り、預金という資産が増えることになる。このように、5つの区分のうち1つ又は2つをセットとして、取引を把握していく。
勘定科目は自由に設定してよい
勘定科目とは、取引を集約し、決算書を表示するために用いる項目のことである。勘定科目の設定はかなり自由度が高いものと考えてよい。
一般的な会計ソフトには、もともと標準的な勘定科目が設定されている。「売掛金」「預り金」「旅費交通費」「通信費」「支払手数料」などの勘定科目を、取引内容に合わせて利用すればよい。このとき、ある取引を処理する際にどの勘定科目を用いるかは、資産や収益といった5つの区分を誤らなければ任意に決めてよいものとされている。
ただし、同じ取引は常に同じ勘定科目を使用した方がよい。そうすることではじめて、会計データを用いて費用管理ができる。たとえば、消耗品の購入が「消耗品費」と「雑費」に混在して計上されている場合、当年の消耗品購入額の正しい金額も分からず、昨年と比べてどうだったか、予算と比べてどうか、などの比較や分析も難しくなるであろう。
わかりやすい名称に設定しよう
勘定科目は、自社で管理しやすいように自由に名称を設定してよい。試作品を毎年多品種制作して費用が嵩む場合は「試作品費」、商品を保管する倉庫費用が多額になる場合は「倉庫保管費」など、特にコスト管理を厳密にしたい理由があれば、分かりやすい名称の勘定科目を新たに作成して処理すればよい。ただし、使用する勘定科目の数が多くなると管理コストがかかるので、細かくしすぎないことをお勧めする。
参考までに紹介するが、金融庁が「勘定科目リスト」を公表している。これは金融商品取引法上で求められる開示文書を作成する上場企業等を対象としているものであるが、勘定科目一覧や英語での表現を見ることができるので、株式上場を考えている場合や英語で決算書を作成する可能性がある場合は確認していただきたい。
損益計算書と貸借対照表に必要な勘定科目
貸借対照表はいわゆる「ストック」情報であり、ある「時点」での企業の資産と負債と純資産の状態を表す。資産とは、たとえば現預金や債権、在庫、設備等であり、負債や純資産で調達した資金をどのように運用し、どのような経済的資源等を保有しているのかを示すことになる。一方で負債は、たとえば未払金や前受金、借入金などであり、どのような義務を負っているのかを示している。
資産と負債の差額を純資産と呼ぶ。以前は「資本」と呼ばれていた部分である。おもに資本金や過去から積み上げてきた利益から成る。
これら資産と負債と純資産のバランスや、その内訳から、その企業の財政状態を評価することができる。借金などの負債と比べて現預金を多く保有していれば安全性が高いと考えられる。資産に占める在庫が多ければ、販売力や仕入のタイミング、あるいは物流に問題がある可能性が考えられる。設備と借入の割合がともに大きければ、資金を外部に依存しており、多額の設備投資によって収益を獲得し、長期で資金を回収していく資本集約的なビジネスであると推測できる。
損益計算書はいわゆる「フロー」情報であり、ある「期間」での企業の経営成績を表す。収益とは、本業からの売上や、利息や配当金、雑収入といった本業以外の活動による収入を指す。企業を運営するためにかかる人件費や家賃等が費用である。収益から費用を引いたものが利益であるが、利益という勘定科目はなく、差額で計算される概念だ。
次に、「財務諸表等の用語、様式および作成方法に関する規則」(「財務諸表等規則」という。)を参考に、勘定科目の一覧をみていこう。以下に紹介するのは例であり、そのほかにも勘定科目は存在しうることにご留意いただきたい。また、必要に応じて説明を加えているが、一つの見方であり、企業ごとに定義を整理することを推奨する。
資産として区分される勘定科目一覧
資産とは主に、現預金そのものや、将来現預金を獲得できるような権利、将来の現金流出を回避できるような権利を指す。大きくは流動資産と固定資産に分かれる。
流動資産
流動資産はたとえば以下である。
- 現金及び預金 現金や預金・貯金のこと
- 受取手形 売上代金の回収として受け取った約束手形などの手形
- 売掛金 売上代金を回収できる権利のこと
- 有価証券 売却したり満期まで保有したりすることで現金化できると見込める債券
- 棚卸資産 販売によって現金や債権となる、商品や仕掛品や原材料といった在庫のこと
- 前渡金 商品やサービスを受け取る前に代金の一部又は全部を支払ったもの
- 前払費用 費用の代金を先に支払っておく代わりに、資金流出がなく役務等を受けられるような権利のこと
など
固定資産
固定資産は以下である。
- 建物及び建物付属設備 建物や内装工事、電気設備など
- 構築物 門扉など、土着のもので建物及び建物付属設備以外のもの
- 機械及び装置 生産や工事等に用いる設備
- 車両運搬具 乗用車やバスなど
- 工具、器具及び備品 パソコンや応接セットなど
- 土地
- 建設仮勘定 有形固定資産の取得前に支払いや費用が発生したもの
- のれん 主に、企業を合併や買収した際に、時価に上乗せして支払った部分
- 特許権
- 商標権
- ソフトウエア
- 投資有価証券 短期で売買をする目的を除く、提携や資産運用等を目的とした株式など
- 出資金 何らかの目的をもって支出した金銭等によって保有している権利
- 長期前払費用 前払費用のうち費用化するのが一年を超えているもの
など
負債として区分される勘定科目一覧
負債とは、いずれ現預金が社外に出ていくことになるものである。大きくは流動負債と固定負債に分かれる。
流動負債
流動負債は以下である。
- 支払手形 仕入代金の支払いとして振り出した約束手形などの手形
- 買掛金 仕入に係る未払の債務のこと
- 短期借入金 決算日から一年以内に返済する借入金
- 未払金 買掛金以外の、その他経費や税金等の債務のこと
- 未払費用 継続的に受けている役務のうち、未払になっている部分
- 未払法人税等
- 前受金 商品や役務の提供前に受け取った代金
- 預り金 第三者に帰属する金銭のうち当社が預かっている部分。従業員の所得税や社会保険料の預り分など
- 前受収益 継続的に提供する役務に対する代金のうち、すでに受け取っているが未提供の役務に対応するもの
- 引当金 将来発生しうるコストのうち、その発生原因はすでに発生しており、現在合理的に計算ができる見積もり部分(賞与引当金など)で、一年以内に発生しうる費用に対するもの
など
固定負債
固定負債は以下である。
- 社債 自社が金銭を集める目的で発行した債券のうち未償還のもの
- 長期借入金 決算日から一年を超えた時期に返済する借入金
- 引当金 流動負債の引当金と同様だが、一年を超えた時期に発生しうる費用に対するもの
など
純資産として区分される勘定科目一覧
資産から負債を引いたものが純資産であり、資本金や過去に稼いだ利益などで構成されている。
- 資本金 株式会社設立時に出資した際や、増資や減資をする際に使用する科目
- 資本剰余金 出資された金銭のうち、資本金という勘定科目を使用しなかったもの
- 利益剰余金 過去に獲得した当期純利益の積み上げのうち、配当等の処分をしていないもの
など
費用として区分される勘定科目一覧
費用とは、会社の資産を減らすものである。売上原価のほか、販売費や一般管理費などが挙げられる。
使用頻度の高い勘定科目の例
よく使用される勘定科目を以下に例示する。
- 役員報酬 取締役や監査役の報酬
- 給料手当 社員の給料
- 賞与 社員の賞与
- 法定福利費 社会保険料や雇用保険料
- 福利厚生費 役職員の慰労等の目的で支出される費用
- 通信費 電話やインターネットの費用
- 旅費交通費 公共交通機関やタクシー、出張費等、移動にかかる費用
- 接待交際費 得意先や仕入先等に対する接待や贈答の費用
- 広告宣伝費 企業や商品を広く知らしめるための費用
- 研究開発費 新しい商品やサービスを生み出すための費用
- 減価償却費 固定資産を使用可能年数にわたって費用化したもの
- 雑費 他の勘定科目に該当しない費用又は重要性が低い雑多な費用
など
収益として区分される勘定科目一覧
収益とは、会社の資産を増やすものであり、売上高や営業外収益が主なものである。よく使用される勘定科目を以下に例示する。
- 売上高 会社の本業から得られる収益であり、販売した商品や提供したサービスの対価
- 受取利息 預金や貸付金等から得られる利息
- 受取配当金 株式や出資金から得られる利益等の分配金
- 雑収入 本業以外の活動から得られた、他の勘定科目に該当しない営業外収益
など
自社に合った勘定科目を設定
財務諸表等規則を参考に、勘定科目一覧をみてきた。繰り返すが、勘定科目の設定は各社の自由であり、名称や定義、範囲は自由に考えてよい。経理情報を経営管理に用いる場合、どのような時にどの勘定科目を用いるかというのは重要になってくるので、場当たり的に決めず、会社を俯瞰して各社ごとにルールを決めて運用していただきたい。(提供:THE OWNER)
文・新井良平(バックオフィスLABO代表)