中小企業によるM&Aは、近年大幅に増加している。最大の目的は事業承継だが、経営者の中には「中小企業はM&Aをどのように活用すればいいのだろう」「M&Aのポイントや成功事例は?」と考えている方も多いのではないだろうか。この記事では、中小企業がM&Aを行う目的、M&Aの流れ、成功させるポイント、仲介会社の選び方、およびM&Aの成功事例を徹底解説していこう。

M&Aとは?

経営
(画像=PIXTA)

M&Aは「Mergers & Acquisitions」を略した言葉で、日本語では「合併と買収」と訳される。合併とは複数の企業が1つの企業に統合されることで、買収とは企業や事業を買い取ることである。

日本で増加するM&A

下の図のとおり、日本においてM&Aは大きく増加している。

【日本のM&A件数の推移】

中小企業でも、M&Aは増加している。中小企業庁の調べによれば、2017年における中小企業のM&A成約件数は、2012年と比較して3倍以上になっている。

【中小企業のM&A成約件数】

中小企業にとっても、M&Aは経営戦略として一般的になっていると言えるだろう。

中小企業がM&Aを行う目的

中小企業がM&Aを行う目的を見てみよう。

1. 後継者がいない場合の事業承継

中小企業がM&Aを行う最大の目的は、後継者がいない場合の事業承継だ。中小企業経営者の年齢が高齢化している近年、事業承継は火急の課題となっている。しかし、自分の子どもや親族、役員・従業員などの中に適当な後継者が見つからず、事業承継に踏み出せない企業も多い。

事業承継ができなければ、中小企業は廃業せざるを得なくなる。廃業すれば、従業員の雇用はもちろん、長年にわたって培われてきた技術やノウハウなどもすべて失われることになる。

そこで、M&Aが注目されているのである。後継者がいなくても、会社を売却することによって事業承継を行うことができる。M&Aは、後継者不足を解決する切り札に成り得るのだ。

2. 事業の将来性についての不安の解消

事業の将来性についての不安の解消も、M&Aの目的の一つだ。近年は、市場の動向や景気が急速に変動し、中小企業や個人事業主が事業を継続することが難しくなっている。

今は良くても、数年先にどうなっているかは見通せない・・・・・・。そこで、M&Aによって大手企業の傘下に入り、会社経営を安定させようとする中小企業は多い。

3. 創業者利益を得る

M&Aで会社を売却すれば、創業者利益を手にすることができる。これも、M&Aの大きな目的の一つだ。

創業者利益を手にすれば、その後の人生を余裕を持って送ることができる。あるいは、創業者利益を元手として、新規事業を立ち上げることもできるだろう。

4. 個人保証を解除する

中小企業経営者や個人事業主にとって、債務の個人保証は重荷だろう。この個人保証を解除することを目的に、M&Aが行われることも多い。

M&Aの流れ

M&Aで会社を売却する際の基本的な流れを見ていこう。

1. M&Aの意思決定

M&Aを行うにあたって最初にしなければならないことは、M&Aの意思決定である。自社の課題を整理し、その課題を解決するための手段として本当にM&Aが最適なのか、M&A以外の手段がないか確認する。詳細についてはM&Aアドバイザーのアドバイスを受けるとしても、まずは自社としての方針を決めることが重要だ。

2. M&Aアドバイザーとの契約

次に、M&Aアドバイザーを選定し、アドバイザリー契約および秘密保持契約を締結する。アドバイザリー契約では、アドバイザーの業務範囲や報酬などについて規定する。秘密保持契約は、売り手側の機密情報を守るために結ばれる。

3. 買い手へのアプローチ

アドバイザーと契約したら、買い手へのアプローチを進める。アドバイザーのアドバイスを受けながら買い手候補をリストアップし、そこから数社に絞り込む。

買い手の意向を打診する際は、「ノンネーム資料」が用いられる。ノンネーム資料とは、具体的な企業名が特定されないようにした上で、自社の業種や規模、エリア、収益、売却理由、売却の条件などが記載されたものである。

買い手候補の企業からさらに詳しい情報を求められた場合は、秘密保持契約を結んだ上で情報を開示する。

4. トップ同士の面談

買い手企業を絞り込む際は、トップ同士の面談も重要なプロセスとして行われる。2~3社との面談を行うのが一般的だ。

経営者同士が顔を合わせて話をするため、互いに得られる情報は多い。自社についてのプレゼンテーションや相手企業に対する質問事項などを準備した上で臨むことが大切だ。

5. 買い手によるデューデリジェンス

買い手候補が1社に絞り込まれた段階で、買収の条件や独占交渉権、守秘義務、誠実交渉義務、スケジュールなどを記載した基本合意書を締結し、買い手はデューデリジェンスを実施する。デューデリジェンスとは、売り手企業の財務や法務、事業、労務などについて、買い手企業に依頼された専門家が綿密に調査を行うことである。

6. 条件交渉

デューデリジェンスの結果を踏まえて、買い手企業と最終的な条件交渉を行う。条件交渉においては、売却価格や経営者・役員・従業員の処遇、契約までのスケジュールなどについて話し合われる。

7. 最終契約・代金の受け渡し

条件交渉で合意に至れば、売却の方法や価格などを定めた最終契約書を取り交わす。また、その際に代金を受け取る。

最終契約を締結するにあたっては、会社によっては取締役会や株主総会での承認が必要となるケースもある。

中小企業がM&Aを成功させる5つのポイント

中小企業がM&Aを成功させるための5つのポイントを見ていこう。

1. M&Aが妥当であるかどうかを検証する

M&Aを成功させるために重要なのは、まず経営戦略としてのM&Aが妥当であるかどうかを検証することである。例えば、事業承継のためにM&Aを行う場合なら、親族内承継や役員・従業員への承継など、M&A以外にも選択肢がある。

M&Aありきで話を進めていくのでなく、M&Aが事業承継の方法として最適かどうかを、他の選択肢と比較した上で検討することが重要だ。ここでしっかりM&Aの妥当性を検証しておくことで、その後の交渉で意思決定に悩むことが少なくなる。

2. 利害関係者を把握のうえ調整する

M&Aには、株主や取引先、役員・従業員、金融機関など多くの利害関係者が存在する。利害関係者をしっかり把握し、M&Aに向けた調整を行うこともM&Aを成功させるポイントだ。

特に株主には直接的な利害があるため、同意を取り付けることが重要なポイントになる。持分比率が高い株主が反対すれば、M&Aが成立しない可能性があるからだ。

3. 議決権を確保する

議決権を確保することも、M&Aを成功させる上で大切だ。株式譲渡は、株主が保有する議決権の3分の2以上の賛成がないと行えないからである。

会社によって、株主構成にはさまざまなパターンがある。特に、先代からの相続によって株主になっている親戚などがいる場合は、会社への関わりが薄いため、どんな対応をしてくるか予測できないので注意しよう。

4. 適正な売却価格を把握する

自社の適正な売却価格を把握することも重要だ。第三者の専門家などに算定を依頼するといいだろう。

一般的な売却価格の計算方法は、会社の時価純資産に数年分の営業利益を加えるものだ。適正な売却価格を把握していれば、M&Aの交渉を有利に進めることができるだろう。

5. 会社の強みや魅力を適切にアピールする

会社の買収は、買い手企業にとってのメリットがあるから行われる。したがって、自社を買収することで買い手企業が得られるメリットをしっかりとアピールすることが大切だ。

そのためには、買い手企業が何を求めているのかを調査・検討する必要がある。相手が求めていることを自社の強みや魅力によって実現できることをアピールできれば、M&Aは成功に大きく近づくことになる。

M&Aアドバイザーの選び方

M&Aアドバイザーの選び方を見ていこう。

身近にいるアドバイザーか専門アドバイザーか

M&Aアドバイザーを選ぶにあたってまず検討すべきことは、地元の金融機関などの身近なアドバイザーとM&A専門のアドバイザーのどちらにするかである。身近なアドバイザーは、地元企業について豊富な知識を持っていることが強みだ。一方でM&A専門アドバイザーは、より専門性の高いアドバイスが期待できる。

仲介会社かアドバイザリー会社か

M&Aアドバイザーには、売り手と買い手の双方と契約してM&Aを仲立ちする仲介会社と、売り手あるいは買い手のどちらかとだけ契約するアドバイザリー会社がある。仲介会社に依頼すると、買い手が比較的短期間で見つかりやすいが、価格や条件の交渉は売り手と買い手双方の妥協点を探るかたちになる。それに対してアドバイザリー会社は、売り手あるいは買い手の利益が最大になるように動いてくれるため、より自社の意向に沿ったかたちでの交渉が期待できる。

中小企業M&Aの成功事例

中小企業のM&A成功事例を見てみよう。

従業員11人の小規模業者が事業承継に成功した例

消防設備・防災設備の設置工事・メンテナンスを行う従業員11名のD社では、社長の息子は薬剤師をしており後継者になることを拒否した。また資産が1億5,000万円程度になり、個人で買い取れるレベルを超えていたため、役員・従業員への承継も困難だった。

そこで、M&A専門のアドバイザー会社に相談し、従業員の雇用が確保できることなどを条件に売却先を選定した。最終的に、シナジー効果が期待できる不動産会社に売却することになった。全従業員の雇用が継続したため、従業員の不安は解消した。また、相乗効果が確かに表れていることから、取引先・金融機関からも一定の評価を受けている。

商工会議所の支援を受けて事業承継に成功した例

一般貨物運送会社である従業員40名のE社の社長には息子はおらず、娘2人は他業種の会社に勤務していた。甥への承継も考えたが同族経営の限界を感じ、商工会議所に相談した。

交渉した数社とは成約に至らなかったが、検討を始めた2年後に、全従業員の雇用を継続するかたちで同業者への売却が決定した。商圏が広がったためにシナジー効果が生まれ、売却後もそれまでと変わらない業績が続いている。

M&Aを活用して事業承継をスムーズに行おう

中小企業の経営者が高齢化し、事業承継が火急の課題となっている近年、後継者がいなくても事業承継を行えるM&Aが注目を浴びている。M&Aには事業承継以外にも、事業の不安を解消できる、創業者利益を得られる、個人保証を解除できるなど、多くのメリットがある。

M&Aは、専門家と相談しながら慎重に進めることが重要だ。ポイントを押さえて準備を進め、事業承継を成功させよう。(提供:THE OWNER

文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)