企業も、人間と同じような成長のプロセスをたどることはよく知られている。また人間と同じように、成長に応じた投資やケア(課題に対する対策)が必要になることも想像に難くないだろう。
創業からその終わりまで、企業の寿命は30年程度と主張する人もいるが、その根拠はどこにあるのだろうか?一方で、30年を優に超えて成長し続ける企業もある。30年で絶えてしまう企業とそうでない企業の違いはどこにあるのだろうか?今回は企業の成長サイクルと、それぞれのステージにおける必要な対策について解説していこう。
目次
企業寿命30年説の背景
企業寿命30年説が初めて話題になったのは1983年、「日経ビジネス」が掲載した記事が発端と言われている。センセーショナルな内容はその真偽を問わず話題になるものだが、2018年に東京商工リサーチが発表した統計はその裏付けとなるかもしれない。
東京商工リサーチが示すショッキングな現実
東京商工リサーチは、登録されている企業が倒産した場合の「主要産業別平均寿命」を集計している。2018年の集計によれば倒産した企業の平均寿命は23.9年で、最も長いのは製造業の33.9年。卸売業の27.1年、運輸業の25.9年と続き、短いものは金融・保険業の11.7年となっている。業種によってバラツキはあるものの、最長が33.9年というのはショッキングな結果だ。
企業が倒産、もしくは廃業する事情はさまざまだが、30年という年数に注目するなら、その事業内容が時代にそぐわなくなったということも考えられるだろう。
ポケベルに見る廃業事例
記憶に新しいのは、「ポケベル」の愛称で親しまれたポケットベル(ページャー)のサービスだ。1986年に東京テレメッセージが首都圏でのポケベルの呼び出しサービスを始め、1980年代には日本全国に多くの地域テレメッセージが設立された。ポケベルはビジネスユーザーだけでなく、当時の高校生や大学生にも受け入れられ、携帯電話がなかった時代にパーソナルコミュニケーションの手段として爆発的に普及した。
ところが1997年頃からPHSや携帯電話にその座を脅かされるようになり、利用者が減り続けた結果、2019年にはページャーサービスが終了した。この間33年である。経営環境と顧客の好みの激しい変化に、事業がついていけなくなったことがサービス終了の要因であることは明らかだ。企業寿命30年説も、あながち間違いではないかもしれない。
2021年の企業の平均寿命
中小企業が前述のデータを見ると、大きな危機感を抱くかもしれない。では、2018年以降における企業の平均寿命はどのように推移しているのだろうか。
以下では東京商工リサーチのデータをもとに、2021年の企業の平均寿命を紹介する。
3年ぶりに平均寿命が延びている
2021年における倒産企業の平均寿命は、全業種で23.8年と公表されている。わずかではあるが前年の23.3年を上回り、3年ぶりに平均寿命を延ばした結果となった。
中でも新興企業は倒産構成比を下げており、業歴10年未満の倒産企業は前年比で0.9%ほどダウンした。新興企業の倒産構成比減少は5年ぶりのことであり、新型コロナの関連施策が主な要因とされている。
2020年からはコロナ禍で不振にあえぐ企業も多いが、柔軟な経営戦略によって乗り切った新興企業は少なくない。
一方で老舗企業の倒産は増加傾向に
一方で、業歴30年を超える老舗企業は苦境に立たされている。
老舗企業の倒産構成比は、2020年から1.3ポイントほど上昇した。特に四国をはじめとする地方の老舗企業は、経営者の高齢化や後継者不足などに悩まされている。
また、豊富なノウハウや事業基盤は老舗ならではの強みだが、老舗企業は過去の成功体験に固執しやすい傾向がある。これまでと同じ戦略でコロナ禍を乗り切ることは難しいため、最近では休業・廃業を選択する老舗企業も多く見られるようになった。
老舗企業の課題は簡単に解決するものではないため、効果的な施策等が実施されない限り、今後もしばらくは同じ状況が続くと予想される。
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企業の成長サイクルとは?
冒頭にも書いたように、企業には人間と同じように成長サイクルがあり、一般的に「創業期」「成長期」「成熟期」「衰退期」に分けられる。それぞれを簡単に説明しておこう。
創業期
その名のとおり創業したばかりの時期で、企業としてはベンチャーと呼ばれることも多い。
一般的に事業は確立しておらず、売上は安定しない。投資回収が済んでいないため、利益はほとんどないことが多い。いかに早く成長期に移行できるかが、その後の経営に大きく影響する。
成長期
商品やサービスの認知が進み、リピーターも増え始める時期だ。売上は伸び続け、投資の回収が進むことによって利益も増えていく。一方で、事業拡大のための人材不足や、資金確保が問題になることもある。潤沢な資金確保のために、この時期にIPO(新規株式公開)を図るベンチャー企業も多い。
成熟期
事業の成長が一段落し、売上、利益ともに安定する時期だ。内部留保も増え始め、経営的には安定しているが、その一方で事業の拡大を阻害する問題が明らかになる時期でもある。「売上増は七難隠す」という言葉があるが、その企業の根本的な問題は成長期には見えず、この時期になると顕在化することが多い。
衰退期
売上、利益が減り始める。企業としての寿命が見え始める時期だ。創業期の人材を含め、重要な人材の流出が止まらなくなる。株式公開をしている場合は株価が下がり、企業価値(時価総額)が落ちていく。金融機関やベンチャーキャピタルからの資金調達も難しくなり、衰退に歯止めがかからなくなってしまう。
企業の成長サイクル -それぞれのステージの課題と必要な施策とは?-
企業寿命30年説といっても、当然ながらそのようなタイマーがあるわけではない。商品やサービスの寿命、企業としてのさまざまな停滞要因が重なって、30年あたりで限界を迎えてしまうことが多いのだろう。企業の成長サイクルの各ステージ(期)では、先のステージを見据えてやっておかなければならないことがある。30年を超えて発展していくために、ぜひとも知っておきたい施策だ。
創業期 -速やかに成長期へ移行するためには-
創業したばかりのこの時期は、経営資源であるヒト・モノ・カネのすべてが足りていない。商品やサービスの認知も進んでいないため、売上は少なく利益もほとんどない。それどころか、資本金を日々食い潰しているような状態だ。一刻も早くこのステージを抜け出し、次の成長期へ向かうための対策は2つある。
1つ目は、安定した経営のための資金調達だ。金融機関や投資家、ベンチャーキャピタルから資金を調達しながら事業の安定を図る。資金の目途が付かなければ、人材確保はもちろん、モノづくりの企業であれば材料の調達も滞ってしまう。
人材確保には適さないが、サービスや商品の販売をしている企業であれば、クラウドファンディングを活用するのも手だ。実際、多くのベンチャーがアイデアや技術で資金集めに成功し、それを元手に事業を展開している。金融機関やベンチャーキャピタルから資金提供を受けられない場合は、検討してみてはどうだろうか?
2つ目は、商品のブランディングや認知拡大、顧客の獲得だ。クラウドファンディングにチャレンジすれば、クラウド(群衆)への認知拡大と顧客の獲得は、ある程度進む。その後SNSなどで情報を拡散し、商品やサービスの認知拡大を図っていく。SNSなどのインターネットサービスを利用すれば、費用をほとんどかけずに広告宣伝ができる。
成長期 -事業を安定させるためには-
売上や利益が伸び、会社が大きくなっていくこの時期は、人材確保が問題になることが多い。商品やサービスの販売拡大をするにも人材が必要であり、組織拡大に伴って総務や経理などのゼネラルスタッフも必要になる。
ゼネラルスタッフは派遣などを利用するとしても、問題は事業拡大のための人材だ。海外ではセールスレップ(Sales Representative)と呼ばれる営業代行を使うケースもあるが、販路(顧客)も同時に手に入れたいなら、協業が有効だ。
他の企業と契約し、拡販を依頼するのだ。もちろん相応の報酬を支払いことになるが、成長期には自らの市場拡大が最優先事項だ。店舗を展開するような業種であれば、フランチャイズも有効だろう。地方で展開すれば投資額を抑えることができ、スピード感のある事業展開ができる。この時期にシェアを確保しておけば、成熟期に潤沢な資金を確保できる可能性がある。
新規事業などのために、さらに資金を必要とする場合は、IPOも視野に入れるべきだ。創業期と違って商品やサービスの需要が伸びているなら、証券会社をはじめとする金融機関からの信用も得やすい。
成長期は、会社の安定(人材確保・資金確保)と事業の安定(拡大)が命題となる。
成熟期 -事業の停滞や低迷を打破するためには-
売上や利益の伸びが明らかに鈍化、もしくは緩やかに下降し始めるのが成熟期だ。前述のとおり、成長期にはわからなかったさまざまな問題が顕在化する。このステージでまず必要になるのは、業務改善や生産性の向上だ。成長期には気がつかなかった業務上の「無駄」が、いたるところにあるからだ。
また成熟期になると競合企業が現れ、これも売上や利益の低下を招く。多くの場合は価格競争になるため、生産性向上やコスト削減を図ると同時に、競合の強み・弱みを分析して自社の商品やサービスの競争力を強化していく必要がある。競合との差別化が難しい場合や、自社ではコストがかかるため難しい場合は、事業譲渡やM&A(合併と買収)も考えなければならない。
成熟期は、業務改善や生産性向上といった内向きの施策と、事業の選択と集中といった外向きの施策を検討する必要がある。
衰退期 -事業を改革するか撤退するかの判断基準-
衰退期は完全にマイナス成長になり、利益も出なくなる。残存利益獲得の時期と捉えることもできるが、獲得し終われば何も残らず、次にはつながらない。ビジネス書によっては、この衰退期を「改革か事業撤退の時期」と説明しているものがある。しかし、利益が減って人材流出などが始まるこの時期に、事業や会社の改革を行うことは大変難しい。衰退期を前半と後半に分けるなら、改革や事業撤退を考えるのは間違いなく前半だ。
言うまでもなく、改革するにも事業撤退するにも少なからず経費がかかる。まだ余力があるうちに改革や事業撤退を進め、会社を軽量化すればその後の道も見えてくる。
ただしこれは最終手段で、さまざまな手立ては成熟期に進めておく必要がある。ここまで会社の成長サイクルを4つのステージに分けて解説してきたが、重要なのは成長期と成熟期だ。成長期に十分な投資と事業の仕組みづくりができるか、成熟期にその成果をいかに維持できるか、この2つのステージで会社の寿命が決まると言っても過言ではない。
何を企業の平均寿命と捉えるか?最盛期は長く続かない
前述で紹介した東京商工リサーチのデータは、起業年が明らかな対象企業の平均経営年数を企業寿命としたものである。日本の実情を表したデータではあるが、この中には長期の休業を経験した企業も含まれる。
寿命を間近に控えた企業は、財務状態などの影響で休業を強いられるケースが珍しくない。このような状態で会社を延命させたとしても、経営者や従業員にメリットが生じることはないだろう。
会社を倒産させないことが目的になると、リスクをとった経営に挑戦しづらくなる。つまり、事業が徐々に縮小していくジリ貧の状態に陥ってしまうため、結果的に会社の寿命を縮めてしまう。
本当の意味で会社を延命させるには、時代に合わせて経営方針をうまく転換し、積極的に行動を起こすことが重要だ。常に最盛期が続くことはないため、競合他社や消費者のニーズをこまめに分析しながら、積極的に変化を起こすことを意識したい。
企業寿命に関するQ&A
時代に合った経営戦略を立てるには、国内企業の実情をしっかりと理解しておく必要がある。そのヒントとして、ここからは企業寿命に関する基礎知識をQ&A形式で紹介しよう。
Q1.中小企業の平均寿命は?中央値はどれくらい?
2011年版の中小企業白書によると、中小企業の存続率は1年後で約97%、5年後で約82%、10年後で約70%とされている。平均寿命は20年程度であり、起業から22年後にはおよそ半数の中小企業が倒産を迎える。
なお、上記のデータは対象企業の平均値であり、中央値は明らかにされていない。業種や地域によっても存続率は変わるため、あくまで参考程度に捉えてもらいたい。
Q2.上場企業の寿命は?
業種や地域にもよるが、大企業の平均寿命は15年程度と言われている。
企業の平均寿命は時代とともに短くなっており、1955年のデータでは約75年であった。そこから65年で大企業の寿命は60年ほど縮んでおり、短期間で経営体制が崩れるケースも増えてきている。
特に米国ではこのような傾向が顕著であり、1955年に「Fortune 500」に名を連ねていた企業の中で、現在でも残っている企業は約60社しかいない。
Q3.ビジネスモデルにも寿命はある?
業界のスタンダードとなったビジネスモデルは、一般的に20年で寿命を迎えると言われている。
ビジネスモデルは日々ブラッシュアップされるものであり、最終的には業界内で「定番」と呼ばれるものが残る。しかし、時流の変化によってニーズも変わるため、定番のビジネスモデルも生き残り続けるわけではない。
20年以上続く会社を作り上げるには、常に新たなビジネスモデルを模索する必要がある。
Q4.業種別の平均寿命を知りたい
東京商工リサーチが公表した2018年のデータによると、最も平均寿命が長い業種は製造業の34年、短い業種は金融・保険業の12年とされている。そのほかの業種については、卸売業が27年、運輸業が26年、農業・林業・漁業・工業が25年、建設業・小売業・不動産業が24年、サービス業や情報通信業が18年であった。
第三次産業は全体的に寿命が短く、業界内での入れ替わりが激しい傾向がある。
Q5.会社が10年続く割合は?
帝国データバンクの資料によると、企業の10年生存率は約70%とされている。中小企業に関しては10年生存率が約26%であり(※2006年版の中小企業白書を参照)、4社のうち3社は10年未満で倒産を迎える結果となった。
必要なのは自社の事業に関わる冷静な判断
「売上増は七難隠す」という言葉を紹介したが、好調な時ほど問題は見えなくなるものだ。自社の事業が成長サイクルのどの段階にあるのか、俯瞰して冷静に判断してほしい。その上で、この先自社がどのような時期にさしかかり、そこで待つ問題を事前に予想して対策を講じることが何より大切である。おすすめしたいのは、自社の状況については外部の人間を入れて判断することだ。中小企業診断士や信用できるコンサルタントを、主治医として常に確保しておきたい。
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文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)
(提供:THE OWNER)