ファーウェイ(華為科技)は、米国が禁輸措置を強化したことで、実質的に独自ハイエンドプロセッサ『Kirin』の生産停止に追い込まれた。対抗策として国内自給自足計画を目論むものの、苦し紛れであることは隠せない。米国からの圧力で衰退した日本の半導体産業とは違う道を辿り、新たな戦略で「第3のスマホプラットフォーム」を確立することができるのだろうか?
サプライチェーンしらみ潰し 完全に遮断されたファーウェイ
米国が2020年5月、8月と二度にわたり禁輸措置を講じたことにより、ファーウェイとその関連企業は、米国の技術を使用して製造された半導体やソフトへのアクセスを完全に失った。
スマホ開発は継続不可能
高性能な半導体は、設計や製造措置を米国に依存しているため、他国で代用を見つけるのは至難の業だ。最先端の半導体のサプライチェーンを遮断されたファーウェイは、これまでのように国際市場を狙ったスマホの開発が継続不可能になる。
米国が恐れているのは国家の安全だけではなく、ファーウェイの驚異的な国際市場競争力だ。同社は高性能で低価格な機種を次々と発表し、韓国サムスンと共にスマホ市場を制覇するという、異例の急成長を遂げた。ファーウェイにとっては「5G市場でさらにその勢力を拡大する」と期待されていた矢先の、痛恨の一撃だ。
「日本半導体潰し」との共通点
今回のファーウェイに対する米国の措置は、1980年代の「日本半導体潰し」を彷彿とさせる。70年代に半導体分野で頭角を現した日本は、瞬く間に世界の半導体市場シェアの50%を超える、半導体先進国へと成長した。
米国による過去の日本いじめ
日本の半導体に脅威を感じた米国は、初期段階で圧力をかけ始めた。しかし日本の国際市場競走力は、その後もさらに加速する。1985~1986年にわたり、日本のメモリチップが世界市場シェアの85%を占めたのに対し、米国のシェアはわずか9%と惨敗だった。それに追い打ちをかけるかのように、家電・ハイテク製品分野でも日本メーカーの国際勢力が増した。
米国は、自国の市場が日本に完全に支配される前に、決定的な対策を講じて日本の進出を食いとめる必要があった。そこで「防衛産業の基礎を脅かす安全保障問題」を盾に、1986年に「日米半導体協定」、1987年に日本のハイテク製品への高関税と、立て続けに日本の国際市場力を封じるための政策が導入された。この協定により、「日本政府は米国製の半導体の利用を、日本国内で推奨する」など、米国に有利な環境が整備されることとなった。
1991年の第二次協定では、日本製の半導体に米国の規格が適用され、日本市場における米国製半導体のシェアが20%まで引き上げられた。このような日本半導体潰しは1997年まで続き、協定が失効する頃には、日本の半導体の勢力はすっかり衰えていた。
日本はもう一つ、「プラザ合意」という苦渋も味わっている。これは1985年、ドル安で米国の輸出を増大させ、貿易赤字を減らすことを目的に、「基軸通貨であるドルに対してG5加盟国が各国の通貨を一律10~12%幅で切り上げる」というものだ。
「ドル高が続くと米経済が悪化し、いずれ世界経済に打撃を与える」という利害関係から合意に至ったものの、日本にとっては円高や輸出の減少、景気低迷の要因となった。1987年にはドル安を食いとめる手段として「ルーブル合意」が成立し、日本の景気は回復したものの、これが低金利政策の継続と相成り、空前のバブルを生み出した。
「第3のスマホプラットフォーム」確立目指す
果たしてファーウェイは、日本と同じ運命をたどるのだろうか。
国際市場が再び開放されない限り、ファーウェイの土俵はあくまで中国国内に限定される。つまり少なくとも現時点においては、国内での完全自給自足を目指すしか、ファーウェイに残された道はないだろう。
独自路線で突き進むしかないファーウェイ
半導体だけではなく、Googleへのアクセスも失った同社は、アンドロイドに代わるOSとして、自社の「HarmonyOS」のプレインストールを2021年に開始する。手始めに「Harmony OS 2.0」のベータ版配信を年内に計画しており、さらにアンドロイドベースのOS「EMUI」の新バージョンもリリースする予定だ。アプリ開発にも注力する意向を示すなど、完全に敗北を受け入れてはいない。
戦略的な動きと中国政府の積極的な支援、魅力的なアプリの開発、そして他社との提携によって国内のサプライチェーンを強化できれば、同社が「第3のスマホプラットフォーム」を確立できる望みはゼロではない。
新たな半導体入手ルート 確保の可能性は?
しかしもう一つ、重要な課題が横たわっている。プラットフォーム問題が解決したとしても、肝心の半導体が手元になければ、新たなスマホを開発・生産できない。
最大2年分半導体の在庫を確保しているが……
ファーウェイはインテルなどの米半導体メーカーの在庫を最大2年分確保する一方で、新たな入手ルートを物色中だ。禁輸措置が強化された今、最も可能性が高いのは中国Unisoc(紫光展鋭)だろう。
Unisocが2019年に発表したCPU(中央処理装置)「Tiger T710」は、ファーウェイの「Kirin 810」の性能を上回る評価を受けた。最近では、中国の大手電子情報産業グループ、Hisense(海信)が国内で発表した、5G通信対応スマートフォン「F50」にも搭載され、脚光を浴びている。しかし「現在のUnisocの技術レベルはファーウェイの基準に満たない」との見方もあり、少なくとも今後数年間はファーウェイにとって、苦難の時代となることが予想される。
バイデン政権下で「中米半導体協定」合意もあり得る?
もう一つの望みの綱は、バイデン政権の誕生ではないだろうか。トランプ大統領同様、バイデン氏も対中国スタンスを示しているが、貿易慣行の改善が期待されている。米国で中国企業が、再び自由に事業を展開できるようになる可能性は、依然として低い。しかし日米半導体協定のように、米国側に有利な条件下で、ファーウェイが一部の取引を再開できる可能性はゼロではない。
折しも、米半導体大手Qualcomm(クアルコム)が販売制限の撤回を求め、米政府に働きかけているという。同社は特許紛争を巡り、ファーウェイから和解金18億ドルを受けとる案で、長期ライセンス契約を締結したばかりだ。世界最大の通信ネットワーク機器ベンダーであるファーウェイの失速は、通信ネットワークエコシステムに携わる世界中のビジネスに、多大なる影響を与える。大口取引先の日本や台湾、韓国企業も例外ではない。
数々の試練を乗りこえ、ファーウェイが世界のスマホ市場に返り咲く日は訪れるのだろうか。それともスマホ事業撤退に追い込まれ、かつての日本の半導体産業のように、衰退していくのか。今後の動向から目が離せない。(提供:THE OWNER)
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)