コロナ禍は、「働き方改革」に続いて、企業にとって働き方の大きな変換点となりつつある。特に顕著な変化としては、テレワークの普及が挙げられる。働く場所を選ばない働き方は、首都圏に住む理由の一つである「通勤」に影響を与え、人口の東京一極集中に変化を与えつつあるかもしれない。
コロナ禍でテレワークはどれほど普及しているのか?
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令により、テレワークを導入する企業は増加傾向にある。日本テレワーク学会の調査結果によると、東京都に着目した場合、2020年1月までは調査対象企業の3割程度がテレワークを導入していたが、2020年4月までに57.9%にまで増加している。
テレワークの導入は今後も進む?
首都圏の他県も、神奈川県は50%程度、埼玉県と千葉県においても40%ほどの企業が、緊急措置とはいえテレワークを導入する結果となった。
同調査では、テレワーカーがテレワークを行う場所についての調査結果も報告されているが、2020年4月には調査対象社の実に88%ほどが、自宅での在宅勤務を行っていたという結果であった。
ワクチンなどの開発が進んでおらず、新型コロナウイルスの終息が見えない以上、テレワークが従来の働き方より業務上マイナスポイントがあったとしても、企業への導入はこれからもますます進む可能性がある。
コロナ禍で変わる「住」への価値観!進む首都圏からの転出
新型コロナウイルスの感染拡大対策によってテレワークが増加した結果、会社への出勤回数も減少している。日本生産性本部の2020年5月の調査結果によると、調査対象者の約7割は1週間の会社への出勤日が2日以下となっている。
これからは住環境が重視される時代?
今までは、ほぼ毎日のように会社に出社する必要があったため、通勤時間や電車乗り継ぎの負担などに関わる「住む場所」は、非常に重要なポイントであった。ただ、出勤日が減り、三密を避けるための生活様式の変化に伴って在宅でのテレワークが増えれば、当然住む場所に対するこだわりも変化していくと考えられる。
これまでは、職場への通勤のしやすさを重視していた人が、自宅で働く際の環境を重視し、部屋の広さなどの「住環境」を重視していくかもしれない。
「住」への価値観の変化を示すように、コロナ禍では興味深い人の動きが出始めている。総務省の2020年7月の人口移動報告によると、東京圏からの転出者数が、2013年7月以降で初めて転入者数を上回ったのである。特に、東京都は転出超過の状況が継続しており、2020年8月の人口移動報告では、4,514人の転出超過となっているのである。
東京圏からの転出者増加で不動産価格の下落は進むのか?
コロナ禍で東京圏の人の動きに変化が出ている中、不動産の状況はどうなっているのだろうか。
実際、下落は進んでいるのか
株式会社東京カンテイの調べによると、東京オリンピックの開催が決まって以降、2014年頃から首都圏の70平方メートルあたりの中古マンション価格は上昇してきた。2014年7月は2,825万円であったが、2020年1月には3,716万円まで値を伸ばしている。
東京23区に限定すれば、2014年1月の4,108万円から2020年8月では5,768万円となっており、1,600万円ほど価格が上昇している。2020年6月以降も価格は上昇傾向を示しており、下落の兆候はない。そのような中、隣県の主要都市の2020年8月の中古マンション価格はいくらぐらいだろうか。それぞれの価格を確認してみよう。
神奈川県横浜市:3,087万円
埼玉県さいたま市:2,713万円
千葉県千葉市:1,948万円
いずれも東京23区よりもかなり安く、東京都と違って転入超過の状況となっている。首都圏に住む必要性を感じなくなった人々は、住みやすくかつ働きやすい隣県の都市部への移住を検討する可能性も否定できないだろう。それに伴い、隣県の都市部の不動産価格が上昇していくことも考えられる。
東京圏の不動産価格は東京オリンピック以降に注目
新型コロナウイルスによって、現状は首都圏のマンション価格の下落が起こっているわけではないが、不動産価格上昇のきっかけとなっている東京オリンピックが、2021年には終了する見込みとなっている。
東京都心のオフィス空室率も上昇傾向にあり、2020年7月は渋谷区が3.85%、港区が3.52%となっている。社員たちが出社する場所自体が変化し始めている事を示しており、シェアオフィスやコワーキングスペースなどの企業による利用が増える可能性もある。
首都圏で働く人の「住」に対する価値観の変化が進み、このまま転出超過の状況が続くようであれば、東京オリンピックの終了とともに不動産の下落が本格的に始まる可能性も否定できない。
「住」に対する価値観の変化で首都圏の不動産価格が変動する可能性あり
新型コロナウイルスの感染拡大による働き方の変化は、約7年ぶりの首都圏の人口転出超過が示すように、これまでの生活様式にまで影響を与え、東京一極集中緩和のきっかけとなるかもしれない。現時点では、首都圏の不動産として中古マンション価格に着目した限りでは、大きな下落の兆候は見られていないが、オフィス空室率の上昇が示すように、これから不動産に徐々に影響を与える可能性もある。
働く人々の「住」に対する価値観の変化に東京オリンピックの終了が重なり、首都圏の不動産価格に大きな転機が訪れることも否定できないだろう。(提供:THE OWNER)
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)