毎月、新たに発売されるビジネス書は約500冊。いったいどの本を読めばいいのか、迷ってしまう方も多くいるかと思われます。
本稿では、読書家が集まる本の要約サイト「flier(フライヤー)」で、9月にアクセスの多かった書籍ベスト5を業界ごとにご紹介。金融業界を銀行関連・証券関連・保険関連の3つに分け、それぞれのユーザーがどのような本を多く読んでいるのかを解説いたします。
目次
金融業界ユーザー別ランキング(五十音順)
銀行業界ランキング
第1位:『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』(日経コンピュータ / 山端宏実 / 岡部一詩 / 中田敦 / 大和田尚孝 / 谷島宣之著、日経BP)
第2位:『個人力』(澤円著、プレジデント社)
第3位:『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(井上一鷹著、日本能率協会マネジメントセンター)
第4位:『やってのける』(ハイディ・グラント・ハルバーソン著、児島修訳、大和書房)
第5位:『とてつもない数学』(永野裕之著、ダイヤモンド社)
証券業界ランキング
第1位:『心穏やかに。』(齋藤孝 / 小林弘幸著、プレジデント社)
第2位:『個人力』(澤円著、プレジデント社)
第3位:『とてつもない数学』(永野裕之著、ダイヤモンド社)
第4位:『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(井上一鷹著、日本能率協会マネジメントセンター)
第5位:『Think right』(ロルフ・ドベリ著、中村智子訳、サンマーク出版)
保険業界ランキング
第1位:『やってのける』(ハイディ・グラント・ハルバーソン著、児島修訳、大和書房)
第2位:『個人力』(澤円著、プレジデント社)
第3位:『Think right』(ロルフ・ドベリ著、中村智子訳、サンマーク出版)
第4位:『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(井上一鷹著、日本能率協会マネジメントセンター)
第5位:『とてつもない数学』(永野裕之著、ダイヤモンド社)
※本の要約サイト「flier(フライヤー)」の有料会員を対象にした、2020年9月の閲覧数ランキング
それはシステム部門だけの責任ではない
今月はそれぞれの業界において、最も読まれた本が異なるという結果となりました。
銀行業界で第1位になったのは、『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』。ある意味では当然の結果とも言えますが、証券業界や保険業界ではトップ5に入っていないことからも、本書の銀行業界における注目度の高さが伺えます。
みずほファイナンシャルグループ(FG)のシステム統合は、「IT業界のサグラダファミリア」と揶揄されるほど、なかなか実現しなかったプロジェクトです。システムの全面的構築には、じつに19年もかかったといいます。本書は現在から過去にさかのぼりつつ、銀行の上層部から現場メンバー、ITベンダーまで、幅広い関係者を取材しており、きわめて高い資料的価値があります。
なぜみずほFGのシステム統合はここまで苦戦することになったのでしょうか? 本書を読むと、その背景がよくわかります。巨大な組織で大きなプロジェクトを成功させるのは、並大抵のことではありません。というのもそれはシステム面だけに限る話ではなく、働く人たちのマインドセットにも関わることだからです。
ほとんどの日本企業には「基幹システム」が存在しますが、2000年前後に構築した基幹システムを使い続けている企業が多く、システム障害は他人事ではありません、老朽化したシステムとどう向き合い構築していくべきか、みずほ銀行の姿勢から学べることは少なくないでしょう。
発売日:2020年02月18日
ジャンル:リーダーシップ・マネジメント、経営戦略、産業・業界、テクノロジー・IT
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人の心は弱いものである
証券業界の今月の第1位は、『心穏やかに』でした。本書は日本における自律神経研究の第一人者である小林弘幸氏と、教育のプロフェッショナルである斎藤孝氏が、それぞれのエピソードを組み込みながら、心穏やかに日々を過ごす極意を読みやすくまとめたもの。
証券といえば、一般的にストレスが多いことで知られる業界ですが、ある意味でそのことを暗に示している結果といえるかもしれません。実際、本書は他の業界のランキングだとトップ5に入っておらず、証券業界の独自性が浮き彫りになったかたちです。
「心穏やかに」という言葉を聞くと、力を緩めてリラックスし、あらゆることを受け流しながら生きることを想像するかもしれませんが、本書で推奨されているのはむしろその逆。目の前で起きる事象や人間関係に身を委ねるのではなく、自分が抱えているつらさや生きづらさ、怒りや嫉妬といったマイナスの感情から目を背けず、ネガティブなエネルギーをポジティブに昇華してこそ、心の平穏は訪れるのだといいます。
人の心は弱いものです。だからこそ他人と自分を比べて、「自分は心が弱いからダメなのだ」と思わないようにしたいものです。本書では「3分で自律神経を整える方法」をはじめ、誰にでも実践できる心の整え方も紹介されています。本書を読めば、これまでよりも穏やかに日々を過ごすことができるかもしれません。
目標が達成できないのは「意志が弱いから」ではない
保険業界のランキングは、どちらかというと実践にフォーカスした書籍が上位にきやすい傾向があります。今月第1位となった『やってのける』も、「目標達成」という実践を扱った書籍のひとつ。本書は心理学者として研究現場の最前線にいる著者が書いており、経験論や精神論にとどまらないという点に特徴があります。それぞれの場面やタイプごとにおける目標達成の問題点や解決策も解説されていますので、応用しやすいのもポイントです。
目標を達成できないとき、私たちは「能力が足りないから」「意志が弱いから」と自分を責めてしまいがちですが、目標を達成できない理由の多くは、自分の能力不足ではありません。目標達成には、ある種のルールが存在するのです。
また、一般的には目標達成において良いとされている「楽観的思考」が有害になる場合についても触れられていますので、目標達成のための戦略を考えるうえで、参考になるところは多いでしょう。
さらに、他のメンバーの動機づけを高めるコツについても紹介されていますので、自分の目標を達成したいというときだけでなく、誰かのやる気を引き出したいという場面でも役立つはずです。
効率的な目標をどう立てればいいのかが、これ一冊でわかります。「今度こそ自分の目標を達成できる」と決意したいのなら、この一冊をおすすめします。
「個」として協働する
3つの業界すべてでトップ5に入った書籍についても、ご紹介させてください。
まず各業界ランキングで第2位になった『個人力』。これからの時代は、「ありたい自分のまま、人生を楽しんで生きていく力」、すなわち「個人力」が必要だと説く一冊です。
著者である澤円氏は、年間約300回にも渡るプレゼンテーションや講演をこなす、プレゼンのスペシャリスト。大学の客員教授や企業の顧問、オンラインサロンの運営など、じつにさまざまな活動をされている澤氏ですが、もともとはコンピューターに関する基礎知識もないままにIT業界へ飛び込み、エンジニアとしてキャリアをスタートさせました。そうした決断ができたのは、「Being(ありたい自分)」があったからだといいます。
コロナショックをきっかけに、大きく時代が変わろうとしている昨今。1990年代後半に起きたインターネットによる変革と同等の変化が、これから訪れるかもしれません。大きく時代が変化するときだからこそ、「ありたい自分」という基準を持つことが、ますます重要になってきます。
組織に属していながら、いかに「ありたい自分」像を持ち、「個人力」を磨いていけばいいのか。本書はそのためのヒントが満載です。自分の生き方に幅をもたせたい人、本当にやりたいことを見つけたい方に、迷わずおすすめできる一冊です。
すべては数学にたどり着く
『とてつもない数学』にもご注目を。金融業界で働く以上、多かれ少なかれ数字を扱うことになりますが、本書を読むと数字や数学というものが、いかにおもしろくて「使える」ものなのか、本書を読めば認識を新たにすること請け合いです。
たとえば本書には、「東京にマンホールはいくつあるか」といった数学クイズや、「指を使った掛け算」のような人に話したくなる数学ネタが、いくつもちりばめられています。箸休め的に解いていくだけでも楽しいですし、解説を読んでいるだけでも十分興味深く読めるでしょう。楽しんで読んでいるうちに、いつの間にか数学の知識や歴史、雑学、応用力まで身についてしまうはずです。
現代のビジネスパーソンには、ロジカル・シンキングや統計学、デザイン思考が欠かせないといいますが、もとを辿るとすべて数学に行き着きます。数字に苦手意識があるという方も、これを読めば数学への見方が変わってくるに違いありません。軽い切り口から深遠な“数学沼”に誘ってくれる、まさに道先案内人のような一冊。数学が好きな人にも嫌いな人にもおすすめできます。
発売日:2020年06月03日
ジャンル:自己啓発・マインド、テクノロジー・IT、サイエンス、リベラルアーツ
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編集後記
今月は上述した『個人力』や『とてつもない数学』の他、『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』がすべての各業界ランキングでトップ5に入りました。一見すると仕事には結びつかない本書ですが、「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」という問いについて、各分野の専門家が真剣に考えており、知識や好奇心の幅を広げてくれます。リベラルアーツの一冊として、こちらもぜひチェックしてみてください。
来月はどのような結果になるのか、いまから楽しみですね。
本の要約サイト「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されているほか、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。
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