市場評価の長期低落が映し出す「銀行業の苦況」
(東京証券取引所「業種別時価総額表」ほか)
トリグラフ・リサーチ 代表(SBIインベストメント執行役員) / 大久保 清和
週刊金融財政事情 2020年10月12日号
業種別の市場評価指標は、一国経済における産業の盛衰を鮮明に浮かび上がらせる。図表は、日銀異次元金融緩和策導入後の「銀行業」の、東証1部における時価総額構成比および業種平均株価純資産倍率(PBR)の長期推移を示している。銀行業の市場評価が「長期低落傾向」から抜け出せないでいることは一目瞭然だ。
具体的には、2013年4月の異次元金融緩和策導入時には9.2%であった東証1部時価総額構成比は、マイナス金利政策導入直前の16年1月には7.8%となり、今年9月にはわずか4.2%にまで急落した。同時点の平均PBRも、0.7倍→0.5倍→0.3倍と低下。東証1部全体の単純平均PBRはこの間、1.0倍→1.1倍→1.2倍と上昇傾向にあったので、銀行業のPBR急低下は際立っている。
また図表からは、マイナス金利政策導入後に両指標とも著しく悪化したことが読み取れる。これは、導入からすでに4年7カ月が経過したマイナス金利政策によって、預金金利の低下余地がほとんどないなか、貸出金利や有価証券利回りの低下が続き、銀行収益の根幹をなす「資金運用利益」が急速に減少したためだ。
全国銀行ベースの資金運用利益は13年3月期が7兆9,361億円であったのに対し、16年3月期は7兆8,082億円と、マイナス金利政策導入前の3年度で2%程度の減少にとどまっていた。しかしながら、その後は4年度連続減益となり、20年3月期は6兆5,890億円にまで減少。マイナス金利政策導入後の4年間で、1兆2,000億円強(16%減)もの減益となったのである。二つの市場評価指標は「銀行業の苦況」を映し出す「鏡」といえる。
東証1部時価総額構成比では33業種中10位にまで存在感が低下してしまった銀行業だが、資本の厚み、利益水準という観点では依然として「巨大かつ重要な産業」である。東証の業種別PBR統計(9月末)によると、東証1部における構成比は純資産14.2%、当期純利益10.3%で、ともに全業種中1位だ。だが、実績株主資本利益率(ROE)は4.3%と27位、PBR0.3倍は「鉱業」と並んで最下位にある。銀行業に蓄積された資本の効率が低く、有効活用されていないという構図は、わが国経済の構造問題をも示唆している。
苦況が続く銀行業が直面しているのが、コロナ禍を契機とした世界経済の混乱・低迷と今後に予想される産業構造の転換だ。すでに預貸金マクロ統計を中心に、未曽有とも表現し得る変化が現れている。銀行業に関連したマクロ統計は、まさに「旬な情報」なのである。
(提供:きんざいOnlineより)