日本銀行は2021年度にCBDC(中央銀行デジタル通貨)の実証実験を行うことを発表。
すでにデジタル人民元発行への取り組みを進めている中国では、10月12日の18:00から10月18日の24:00までデジタル人民元を5万人の市民が使用するパイロットテストが深センで予定され、10月11日の8時まで応募を受け付けています。
3389カ所の商業施設や公共機関でのデジタル人民元の利用が可能となる深セン羅湖地区におけるこのパイロットテストは、中国・香港・マカオを結ぶグレーターベイエリア構想を促進するために行われ、中国国内における内需拡大にもつながると考えられます。
「デジタルRMB APP」をダウンロードし、5万人の市民がデジタル人民元を利活用するこの取り組みは国際的にも大きな注目を集めることでしょう。
日本における実証は「発行・流通・記録機能の検証、オフライン利用や金利・上限金額の設定、民間企業や市民が参加するパイロットテスト」の3段階で行われるとされ、金融機関を介した全体のシステム設計などの検討も行われます。
CBDCは現金が紙からデジタルに移行することで、透明性の向上や管理コストの削減といったメリットをもたらすとされていますが、デジタル円の実現に向けては日銀法の改正が必要となります。
人民元経済圏の拡大とともに基軸通貨である米ドルの地位が揺らぐといった懸念が募る中、中国においても実際の運用に向けては多くの課題が存在しており、今後はその解決に向けた議論と実証が行われると考えられます。
まず、中国におけるデジタル人民元の使用には携帯電話番号などの個人情報が必要となるといったプライバシー保護の課題があげられます。
デジタルウォレットのレベルに応じて支払い金額に制限が設定されており、支払いの上限金額を高くするにはID/銀行カードをアップロードまたは銀行への署名が必要となるなど、安全な運用を維持しつつ利便性をどのように担保していくのかなど制度設計についても中長期的な検証が必要であると考えられます。
また、「現在の通貨システムや金融市場にどのような影響を及ぼすかを観察する必要がある」と北京大学国立開発研究所副学部長の黄義平氏は指摘しており、デジタル人民元の利用は従来のキャッシュレス決済アカウントを使用する必要がないためにテック企業のデータ収集/利活用に関するエコシステムへの影響などにも注目するべきであると言えます。
そして、何より従来の通貨システムでは起こり得ると想定されていなかったリスクの防止(決済システムへのハッキングなど)に向けても注意が必要となり、通貨のデジタル化に向けては地道な検証と中長期的な観察が重要であると中国の先行事例は示唆しています。
これまで中国やバハマにおけるCBDCの発行に向けた取り組みが注目を集めてきましたが、日本においても国際的なCBDCへの関心の高まりから今年の6月頃から積極的な議論が交わされてきました。
すでに中国では2022年北京オリンピックでの実用化に向けてパイロットテストが実施されていますが、デジタル人民元の研究は5年前から行われてきたことを考えると日本でのCBDC発行に向けては中長期的な取り組みが必要になるとも想定されます。
一方、バハマではCBDC「サンドドル(Sand Dollars)」の計画が2018年に発表され、今年の10月には発行が予定されるなど、国の決済システムや国際的な影響力によって発行までの進捗が大きく異なるとも言えます。
各国では多くの中央銀行がデジタル通貨の開発を進めていおり、欧州中央銀行は10月12日から公開協議を実施し、デジタルユーロプロジェクトを2021年中に開始するかの決定を行うとしています。
デジタル円の発行に向けては海外のユースケースを参考に国内においても様々な議論が活性化することが期待され、5万人規模のデジタル人民元のパイロットテストによって得られた課題や仮説を参考に日本でも積極的な検証が行われることが望まれます。(提供:STOnline)