会社を上場させることは、事業拡大において必要と感じている経営者も多いのではないだろうか。ベンチャー企業が上場したなどのニュースも見かけるが、「上場」とは何なのだろうか。ここでは、上場についての基本や対象となる株式市場、上場の労力やそのメリットについて説明する。

上場とは何か

上場市場
(画像=oka/stock.adobe.com)

そもそも、「上場」とは何なのであろうか。その意味するところと、具体的な上場について説明していく。

上場が意味するもの

上場とは、自社の株式を株式市場で売買するために、株式市場に公開することである。株式会社は、自社の経営権を「株式」として発行することにより、資金調達ができる。

株式は有価証券であるため、原則は自由に売買できる。ただし、一般の人が企業の株式を売買できる場所はとても少ない。それは、株式の価値を判断することがとても難しいからである。そのため、一定の条件を設けて、株式を自由に売買できる市場を開設している。それが株式市場である。

株式市場に上場するためには、証券取引所による厳しい審査を通過する必要があるため、会社が上場することは、非常に名誉であり信頼性の向上につながることなのである。

上場先株式市場の種類

上場先である株式市場は、規模・目的によっていくつかの市場に分かれている。ここでは、各市場の特徴と上場基準について説明する。

・東証第一部

東証とは、東京証券取引所の略である。東京証券取引所は、上場する企業規模などにより、一部・二部という市場に分かれている。

東証一部とは、東京証券取引所一部のことを指し、東証一部に上場するためには、以下のような条件を満たす必要がある。

株主数:上場時見込2200名以上
流通株式:流通株式数20,000単位以上、流通株式数が上場株式等の35%以上
時価総額:250億円以上
純資産の額:連結純資産の額が10億円以上(かつ単体で債務超過でない)
利益の額または時価総額:最近2年間の利益の額の総額が5億円以上であること、もしくは、時価総額が500億円以上であること

上場審査の内容としては、企業の継続性及び収益性、企業経営の健全性などを審査内容として公表しており、コーポレートガバナンス、開示の適切性、その他交易などがある。

参照:日本取引所グループ 上場審査基準

・東証第二部

前述の通り、東証二部とは、東京証券取引所の二部のことである。東証二部に上場するためには、以下のような条件を満たす必要がある。

株主数:上場時見込800名以上
流通株式:流通株式数4,000単位以上、流通株式鹿総額10億円以上、流通株式数が上場株式等の30%以上
時価総額:20億円以上
純資産の額:連結純資産の額が10億円以上(かつ単体で債務超過でない)
利益の額または時価総額:最近2年間の利益の額の総額が5億円以上であること、もしくは、時価総額が500億円以上であること

上場審査の内容としては、東証一部と同様である。

・マザーズ

東京証券取引所には、前述の一部・二部の他、成長中の新興企業を対象としたマザーズ市場がある。マザーズ市場は、近い将来の東証市場一部への上場を視野に入れた企業を対象としており、「高い成長可能性」を有する企業が上場対象となる。

マザーズに上場するためには、以下のような条件を満たす必要がある。

株主数:上場時見込200名以上
流通株式:流通株式数2,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式数が上場株式等の25%以上
時価総額:10億円以上
純資産の額:(利益の額または時価総額)指定なし

債務超過・赤字計上の場合でも上場が認められる可能性があり、柔軟な運用が行われている。

上場審査の内容としては、企業内容・リスク情報等の開示の適切性、企業経営の健全性、事業計画の合理性等を掲げている。それ以外にも市場の目的である「高い成長可能性」に関しての規定があり、最近の利益額・売上高の成長率と今後の見込みについて、上場審査時の主幹事証券会社が判断して、東京証券取引所に意見打診することとなっている。

・ジャスダック(JASDAQ)

東京証券取引所が運営する取引所であり、かつての店頭登録市場を源流とする株式市場である。信頼性、革新性、地域・国際性を市場のコンセプトとして掲げており、一定規模の企業を対象とする「スタンダード」と、特色ある企業を対象とした「グロース」という2つの区分に分かれ、それぞれの区分によって上場基準・審査基準も分かれている。

上場基準は以下の通りである。

株主数:上場時見込200名以上
株券の分布状況:公募又は売出し株式数が、1000単位又は上場株式数の10%のいずれか多い方に該当する
流通株式時価総額:5億円以上
純資産の額:2億円以上(グロースの場合には債務超過でないこと)
利益の額または時価総額:最近1年間の利益の額が1億円以上であること、もしくは、時価総額が50億円以上であること(グロースの場合には適用されない)

明記されている上場審査の内容も、各区分によって特徴を明確化させている。

スタンダードでは、企業の存続性や健全な企業統治を審査内容としているが、グロースでは企業の成長可能性や成長の段階に応じた健全な企業統治を掲げており、企業の成長性を重視していることを明記している。

・TOKYO PRO MARKET

東京証券取引所が運営する「プロ投資家」(金融商品取引法に定める特定投資家等)向けの株式市場であり、2009年6月に開設された市場である。

一般人が投資できる市場と異なり、上場基準は比較的緩和されており、企業側の負担を軽減しつつ、投資による資金調達がし易いという特徴がある。

プロ投資家専用の株式市場であるため、一般投資家は「TOKYO PRO MARKET」で株式を購入することはできない。

上場にあたっての形式基準は存在せず、「J-Advise」と呼ばれる資格認証を受けた事業会社(証券会社等)からの推薦に基づいて審査が行われる。

上場をするために何が必要か

上場するためには事業としての収益性・成長性が前提条件となるため、業績を向上させ、事業を成長させることが第一歩となる。さらに、上場後にも事業の成長を求められるため、成長性のある市場をターゲットとした事業であることも重要だ。

上場条件については、前述の各取引所の条件を満たすと、形式基準には該当することになる。それ以上に、売買の難しい株式という商品を一般に流通させるため、コーポレートガバナンス・会計処理・内部統制体制など、質の高い経営体制を確立していることが重要視される。

上場時は、対象の証券取引所によって厳しく審査され、上場後も、継続的に体制整備を行っていくこと必要がある。

上場するために必要な労力やコスト

上場するためには、以下のような大きな労力やコストが必要となる。

・上場審査対策

上場審査に合格するためには、業績を向上させるとともに、中期経営計画を中心とした、大企業のような予算制度と、さまざまな内部管理体制を一から構築する必要がある。そのための労力やコストは膨大であり、優秀な人員を確保しなければならない。また、上場に相応しいだけの経営体制を自社だけで構築するのは難しく、外部の専門家の活用も必要になるため、その分の多大なコストが発生する。

・ガバナンス体制の維持

上場企業には、高度なガバナンス体制が求められるため、社内の内部統制の仕組みを整備する必要がある。

そのため、株主総会の適正な運営の他、取締役会・監査役など、株式会社としてのガバナンスを守るための体制整備が必要となり、社内リソースをこのような管理部門に投入する必要がある。

・会計処理、会計監査

上場企業は、金融商品取引法に基づいて、日本基準もしくは国際基準に基づいた適正な会計処理を行わなければならず、その体制を社内で構築することが必要である。

また、外部の監査法人からの金融商品取引法に基づく会計監査が必須となるため、監査法人に支払う監査報酬と、監査手続きを行うためのコストを負担する必要もある。

上場することのメリット

上場を実施・維持するためには、多大な労力とコストが必要となるが、それでも上場を目指す意味とは何か。ここでは、上場に対する労力・コストを上回る、上場することのメリットについて説明する。

上場のメリット1. 資金調達力の向上

上場の最大のメリットは、資金調達の幅が広がることである。上場している株式会社は、自社株式の発行 (第三者割当増資)を行うことで、返済不要・金利不要な巨額の資金調達ができる。

また、上場している企業にとっては、株式自体がお金と同等である。他社を買収する場合などに、現金ではなく株式を対価として渡すことで、資金が流出することなくM&Aを進めることができる。

また、上場企業は、財務についての信頼性も高いため、銀行借り入れのハードルが下がるのはもちろん、社債という形で市場から直接調達することも可能になるなど、負債としての資金調達力も格段に向上する。

上場のメリット2. 株式の流動化

未上場企業の株式は、価値の判定や再譲渡が難しいことから、買い手がおらず資金化が難しい資産である。

そのため、経営陣がなんらかの理由(経営要因以外の負債の発生や相続税の支払いなど)で自社株の譲渡を行う必要が発生した場合には、会社自体をM&Aで売却して資金化するなど、抜本的な対応が必要となってしまう。

経営に向いていない経営陣が、株式を相続することで居座るケースなどもよく見られる。また、資産に含み益を有する優良な未上場企業の株式には、税務上大きな株価がついてしまうため、売却時や相続時に大きな負担となってしまう。

しかし、株式を上場すると、その株式の流動性は大幅に向上して市場で売却できるため、持株比率を維持する方法などの課題はあるものの、株式の流動性に起因する上記のような問題点は発生しなくなる。

また、流動性と合わせて、今までの創業者利益が現実化することも、創業者やストックオプションを所有する従業員にとっては大きなメリットである。

上場のメリット3. 人材採用における優位性の確保

ベンチャー企業は、経営が不安定であるという見方が世の中には根強いため、どの企業も優秀な人材の獲得に関しては苦労しているのが実情である。

しかし、上場企業になることで、後述する知名度・信頼度の向上もあり、新卒採用・中途採用両面において大きな効果を期待できるため、人材採用によってさらなる成長を目指すベンチャー企業にとっては大きなメリットの一つである。

上場のメリット4. 知名度や信頼性の向上

上場企業となることで、新聞の株価欄に常に掲載される他、さまざまな形で会社の知名度が向上する。また、上場審査をクリアした優秀な会社という印象があるため、会社の信頼性の向上にも大きく寄与する。

そのため、他企業との取引口座の開設や、人材採用、資金調達などのさまざまな局面で、その恩恵が得られることとなる。

上場には大きなメリットがある

上場と株式市場について説明し、上場における労力やコストとメリットについて解説してきた。上場するということは、市場に対する責任からさまざまな制約やコストが発生し、場合によっては経営に悪影響を与えることもある。

その一方で、上場によって、資金調達・人材確保を中心としたそれ以上の大きなメリットがあることも事実であり、上場をめざす企業も多い。

上場を目指すにあたっては、上記のような実体を踏まえ、目的意識を持って取り組むことが肝要である。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部