現代の日本では、あらゆる業界で業界再編M&Aが活発化している。この波に中小企業が巻き込まれるケースも珍しくないので、中小経営者は業界再編の基礎をしっかりと学んでおきたい。そこで今回は業界再編M&Aの概要に加えて、近年の傾向などをまとめた。

業界再編M&Aとは?

M&A
(画像=PIXTA)

業界再編M&Aとは、力を持つ企業がM&Aによって連合を作り、業界構造を変えながら新しいビジネスに挑戦することだ。目的はケースによってさまざまだが、企業の生き残り戦略として活用される例や、海外企業に対抗するための手段として活用される例が多く見受けられる。

トップ企業が業界再編に取り組む理由

業界再編を主導する企業は、その業界内でトップレベルに位置する優良企業であることが多い。そのため、なかには「なぜトップ企業が業界再編に取り組むのか?」と疑問に感じる経営者もいることだろう。

たしかに、業界トップの企業は大きな利益を稼いでいるが、その状態はいつまでも続くわけではない。全業界のうち10%の業界は毎年トップの企業が入れ替わると言われており、場合によっては市場自体が縮小してしまう可能性も考えられる。

つまり、成功したビジネスを同じ形でいつまでも続けていると、次第に企業の売上は減少していく。また、現代では海外企業が国内市場に進出するケースも珍しくないので、ビジネスを進化させないとたちまち海外企業にシェアを奪われてしまうだろう。

このような状況を防ぐ手段として、現代では「業界再編M&A」に多くの注目が集まっているのだ。

中小企業にとっての業界再編M&Aの重要性

業界再編M&Aは、実は大企業だけが実施するものではない。近年では事業承継の戦略的手段として、中小企業が業界再編M&Aに取り組むケースも増えてきている。

たとえば、次世代の経営者が優秀な人物である場合や、優れたノウハウを持っている中小企業の場合は、事業承継の際に優良企業の興味を惹ける可能性がある。仮に話がうまく進んで優良企業のグループ入りを果たせば、経営陣の活躍の幅がぐっと広がり、業界内での重要なポジションも確立できるはずだ。

つまり、業界再編M&Aは中小企業にとっても、企業の成長や生き残りをかけた重要な戦略となり得る。ただし、基礎知識を身につけておかないと、動き方を間違えたり機を逃したりする恐れがあるため、事業承継を検討中の経営者はこれを機に業界再編M&Aの基礎を学んでいこう。

業界再編には「業界のライフサイクル」が関係している?

業界再編が発生する要因としては、「業界のライフサイクル」が大きく関係している。業界のライフサイクルとは、その業界が始まってから衰退するまでの一連の流れのことだ。
業界のライフサイクルを理解しておくと、業界再編が発生するタイミングを見極めやすくなるので、まずは基礎知識としてライフサイクルの流れをひとつずつ確認していこう。

1.導入期~成長期

ひとつの業界が誕生する時期は、一般的に「導入期」と呼ばれている。導入期を迎えた業界にはさまざまな企業が参入し、そのうち売上上位10社のシェアが10%を超えると、業界のライフサイクルは「成長期」へと移る。

成長期を迎えた業界では、主に以下のような事象が発生する。

  • 中堅企業や中小企業が、ホールディングスを設立する
  • 中堅企業や中小企業間でのM&Aが増加する
  • 大手企業が中小企業を買収する

上記を見てわかる通り、成長期を迎えると規模拡大を目的としてM&Aや買収が活発になるため、業界再編は成長期から始まると言われている。

2.成熟期

売上上位10社のシェアが50%を超えると、その業界は「成熟期」へと移っていく。成熟期に発生する事象としては、主に以下のものが挙げられる。

  • 大手企業が中堅企業や、地域でトップレベルの企業を買収する
  • M&Aにおける売り手市場が終わり、小規模の企業は買い手がつかなくなる

成熟期を迎えると売り手企業の規模がどんどん拡大していく点は、中小経営者がしっかりと理解しておきたいポイントだ。大手企業が中小規模の企業を買収することで、業界や市場の状況は大きく変化していくため、成熟期は業界再編のピークの時期と言える。

3.最終期

売上上位10社のシェアが70%を超えると、その業界は「最終期」を迎える。最終期を迎えた業界では売上上位10社の経営統合が始まり、最終的には約4社に統合されていく。そして、その約4社のシェアが90%を超えた頃に、国内の業界再編は終了となる。

つまり、最終期にさしかかった業界では、中堅企業・中小企業のM&Aはほとんど行われていない。基本的には大企業同士がM&Aを実施し、異業種参入や海外展開に向けて動き出すことになる。

業界再編M&Aが発生する要因とは?

業界再編M&Aが発生する要因は、上記で解説した「業界のライフサイクルの影響」だけではない。以下でまとめたように、業界再編M&Aはさまざまな事象をきっかけとして発生する。

業界再編M&Aが発生する主な要因概要
・好景気好景気の時期には「規模を拡大したい」と考える企業が増えるため、それに伴って業界再編M&Aの件数も増える傾向にある。
・規制改革国の規制改革によって市場環境が大きく変わると、業界構造を変化させるための戦略を打ち出す企業が増える。それに伴って、業界再編M&Aの件数も増加していく。
・技術革新最先端の技術が開発されると、業界構造に大きな変化をもたらす。それに応じて、多くの企業が業界再編を意識するようになる。
・異業種参入隣接業種が業界に参入してくると、業界内での力関係が大きく変化する。それに伴い、業界全体で再編の機運が高まる。
・業界のリーダーの決定業界のリーダーが決まると、そのリーダーのビジョンに賛同する中小企業がいくつか現れるようになる。次第に中小企業の大手グループ入りが進み、業界再編M&Aの件数が増えていく。

上記をまとめると、業界構造に大きな変化をもたらす出来事が発生した場合には、業界再編M&Aが活発になる可能性が高い。したがって、力を持った企業の不祥事や、大手企業と中堅企業の統合なども、場合によっては業界再編M&Aを活発化させる要因になるだろう。

細かく見ると、業界再編M&Aが発生する要因は数えきれないほど存在しているため、「業界構造に変化があると、業界再編が進みやすい」という点をしっかりと理解しておきたい。

近年の業界再編M&Aの傾向は?

業界再編M&Aの傾向は、業界ごとに大きな違いがある。たとえば、成長期から成熟期へ移行しつつある業界や、イノベーション(技術革新)と深い関係がある業界では、自然と業界再編M&Aが活発化していくためだ。

業界再編M&Aが活発化している主な業界

近年、特に業界再編M&Aが活発化している業界としては、主に以下のものが挙げられる。

  • IT、ソフトウェア業界
  • 建設、住宅業界
  • 不動産業界
  • 設備工事、電気工事、ビルメンテナンス業界
  • 調剤薬局、病院医療業界
  • 介護業界
  • 運送、物流業界 など

たとえば、2020年に入ってからは、大手ドラッグストアチェーンを運営する「ツルハホールディングス」がM&A攻勢を見せたことで、薬局業界の業界再編が大きく加速している。2020年7月時点では、日本全国に数多くのドラッグストアが存在しているものの、薬局業界は最終的に3~4社程度の大手に集約されるかもしれない。

上記のほか、食品や外食、食品小売業界でも業界再編M&Aの動きが見られる。なかでも外食産業は、これまで特に寡占化が進んでいなかった業界ではあるものの、業界再編が進めば巨大企業が誕生する可能性は十分に考えられるだろう。

これらのケースのように、業界再編が活発化している業界に注目すると、自社の立ち位置や今後とるべき戦略などが見えることもある。特に上記の業界に該当する中小企業は、業界構造の変化を敏感に察知しておきたい。

中小経営者が意識したい、業界再編M&Aに関する3つの視点

業界再編M&Aの動向は、中小企業のM&Aにも大きく影響する。タイミングを見誤ると、魅力的な買い手や売り手がなかなか見つからなくなる恐れがあるため、M&Aを検討中の経営者は業界再編M&Aを強く意識することが重要だ。

そこで以下では、中小経営者が意識したい「業界再編M&Aに関する3つの視点」をまとめた。

1.常に業界の最新情報をチェックする

ここまで解説してきたように、業界再編M&Aはさまざまなことが要因となって活発化する。その流れに乗り遅れないためには、常に業界の最新情報をチェックすることが必要だ。

なかでも、大手企業の動きは業界構造に変化をもたらす可能性が高いため、その動向はこまめに確認しておきたい。そのほか、国内の景気状況や国の規制、同業界におけるイノベーションなど、業界構造に影響を及ぼす情報はいち早くチェックしておこう。

2.「成長期~成熟期」に意識を向ける

業界のライフサイクルの中で、業界再編M&Aが活発化するのは「成長期~成熟期」にかけてだ。成熟期を過ぎると売り手市場は完全に終わってしまうため、最終期に入ってから動き出すのはすでに遅い。

より多くの買い手・売り手を見つけたいのであれば、成長期にさしかかった段階からM&Aを強く意識する必要がある。M&Aの準備には数年単位の時間を要することもあるため、自社の業界が成長期にさしかかったら、できるだけ早めにM&Aに向けて動き出すようにしよう。

3.明確なビジョンを持ってM&Aに臨む

業界再編の最適なタイミングを見計らっても、M&Aは必ずしも成功するものではない。M&Aの成功率を少しでも高めるには、「明確なビジョン」を持って計画を進めることが重要だ。

たとえば、M&Aによって取引先がどうなるのか、従業員の処遇や立ち位置がどう変化するのかを意識するだけで、M&Aの相手企業選びは変わってくる。経営者が自身のリタイアだけを考えていては、理想の形でM&Aを進めることは難しい。

したがって、M&Aを検討中の経営者は「どんな会社にしたいのか?」や「どんな形で社会貢献をしたいのか?」などを意識し、業界構造が変化してもブレない明確なビジョンを設定しておこう。

業界の流れをつかむことが、M&Aのタイミングを見極めることにつながる

業界再編M&Aを理解することは、M&Aの最適なタイミングを見極めることにつながる。M&A市場において、中小企業は決して強い立場とは言えないため、業界の流れをつかむことで少しでも有利なタイミングを見極めることが重要だ。

M&Aを検討している経営者は、本記事で紹介した近年の傾向や3つの視点を意識し、早めにM&Aの計画に取りかかるようにしよう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)