昨今多くの中小・零細企業では、経営者の高齢化により事業承継のタイミングを迎えている。従来は経営者の家族が家業を継ぐ形が一般的であったため、事業承継は円滑に行われていた。しかし近年は、そうした事情が一変し、後継者不足により事業承継を円滑に行えない中小・零細企業が増えている。
そこで今回の記事では、中小・零細企業を取り巻く後継者不足の現状や原因、解決策を分かりやすく解説していく。現時点で後継者不足に悩む経営者はもちろん、今後事業承継の予定がある中小・零細企業の経営者も参考にしていただきたい。
目次
後継者不足とは
後継者不足とは、会社の経営権を引き継ぐ跡継ぎが見つかっていない状態である。一昔前までは、先代経営者の子どもが「家業を継ぐ」ことが一般的だったため、後継者不足という言葉自体は浸透していなかった。しかし近年は、少子高齢化をはじめとしたさまざまな理由により、子どもが家業を継ぐことが一般的ではなくなっているのだ。
その影響により多くの中小企業で次世代の後継者が見つかっていない状況に陥っている。そこで「後継者不足」という用語が広く知られるようになったわけだ。
後継者不足の現状
中小企業で後継者不足が進行していることは広く知られているが、果たして具体的に状況はどのようになっているのだろうか?この章では、帝国データバンクが行った「全国・後継者不在企業動向調査(2019)」という調査の結果をもとに後継者不足の現状を解説する。
約65%の中小企業が後継者不足となっている
同調査で全国約27万5,000社の中小企業を調査したところ、65.2%にあたる約18万社で後継者不足の状況に陥っている。後継者不在率が66%を超えた2016~2018年と比べると、やや減少傾向となっているが、依然として大半の中小企業が深刻な後継者不足に悩まされていることに変わりがない。
社長の年代ごとに見ていくと、先代経営者が70代の場合は39.9%、80代以上の場合は31.8%が後継者不足の状況である。約3~4割の中小企業では、早急な事業承継を必要とする一方で、いまだ後継者が不足している影響で前に進まないことが見て取れるだろう。
地域別に見た後継者不足の現状
地域別に後継者不足の現状を見た場合、2019年で後継者不足の割合が最も高かったのは北海道(72.9%)だった。北海道に次いで中国(70.6%)と近畿(66.6%)でも高い後継者不在率を記録している。一方で四国では54.5%、北陸では57.4%と後継者不在率が50%台の低い水準である地域もある。
地域によって約20%弱もの差が出ており、後継者不足の深刻度は異なることがわかる。なお前年度以前と比較した場合、9つある地域中5地域で前年よりも後継者不在率は下回った。関東と中部では、2年連続で後継者不在率の低下が見られているのが特徴だ。依然として後継者不足は楽観視できない。
しかし、ピーク時と比べると後継者不足の問題は緩和されつつあるといえるだろう。
業種別に見た後継者不足の現状
業種別に後継者不足の現状を見ると、7つある業種のすべてで後継者不在率の低下が見られた。特に卸売では64.7%→63.3%、サービスでは71.6%→70.2%と、共に1.4%も前年度と比べて後継者不在率が低下している。地域別に見た場合と同様に、以前と比べて後継者不足は若干ながら解消に向かっているといえるだろう。
ただし、業種を細かく区切った場合、前年と比べて後継者不在率が上昇した業種もある。特にその傾向が強いのが「製造業」だ。製造業全体で見ると59.0%→57.9%と1%を超える低下が見られた。しかし、15業種に分けて見ると7つの業種で後継者不在率が上昇している。全体的には後継者不足の課題が解決の兆しは見えるものの、一部の業種ではより深刻化していることがわかるだろう。
後継者不足の原因
そもそも、なぜ中小企業は後継者不足に陥っているのだろうか?一般的に、後継者不足に中小企業が陥っている原因として、以下の4つの問題点が挙げられる。
少子高齢化の影響
後継者不足の問題が進む最大の理由の一つは、少子高齢化の影響だ。内閣府の「令和元年版高齢白書(概要版)」によると2019年時点で高齢者(65歳以上)が人口に占める割合は28.1%となっている。一方、出生数は年々減少しているのが現状だ。厚生労働省の「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」によると2019年度の出生数は約86万4,000人と過去最小を記録した。
このような少子高齢化の傾向は、中小企業も例外ではない。多くの中小企業では、経営者の高齢化が進む一方で、肝心の跡継ぎである子どもがいなかったり少なかったりすることが多々ある。高齢化により経営者の交代タイミングを迎えているのにもかかわらず、担い手である若い人の数が減っていることで後継者不足は深刻化しているわけだ。
親族内承継が一般的でなくなった
少子高齢化により子どもの人数が減っても、数少ない子どもが後継者となれば問題ないように思えるかもしれない。しかし昨今は、従来当たり前であった親族内承継が一般的ではなくなっている。近年は、親の会社を継ぐことよりも子ども自らが働きたい仕事に就くことが一般的だ。その影響で、先代経営者である親が会社を引き継がせたくても子どもにその気がなく、後継者不足となっている会社は少なくない。
経営の先行き不安
経営の先行き不安も後継者不足の主要な原因の一つである。バブル崩壊やリーマンショック、経済のグローバル化などの原因により、中小企業を取り巻く経営環境は厳しくなる一方だ。特に近年は、ビジネスのIT化も進行しており、新しいビジネスモデルに対応できない中小企業が多くなっている。
これらの事情から、経営の先行きに不安を抱える中小企業は少なくない。業績の悪化や事業継続が困難となる可能性が高いことから、子どもはもちろん社内の役職員でも事業を引き継ぎたがらないケースもある。また、経営の先行き不安から事業承継を行わずに、自分の代で廃業しようと考える経営者も少なくない。
事業承継の準備が進んでいない
事業承継の準備を進めていないことが原因で、後継者不足に陥っている中小企業も多い。本来は、後継者の選定や後継者教育、経営資源の引き継ぎなど事業承継では多大な手間や手続きを要する。そのため、事業承継の準備には1~3年ほどの時間がかかるといわれている。しかし、中小企業の中には、本業の忙しさから事業承継の準備が後回しになっているところも少なくない。
いつまでも後回しにした結果、後継者の選定や教育が終わる前に先代経営者が亡くなってしまい、事業の続行が困難となる場合もある。
中小企業が抱える深刻な課題とは?新型コロナウイルスによる影響
2019年末から猛威をふるう新型コロナウイルスによって、中小企業の倒産リスクは高まりつつある。このような状況のなか、世の中の中小企業はどのような懸念を抱いているのだろうか。
以下は、帝国データバンクが2020年に実施した意識調査の結果である。
「事業承継で苦労しそうなこと」を見てみると、後継者の育成面を懸念している企業が半数以上に及ぶ。また、「事業承継で苦労したこと」を見ても、実際に後継者の育成・決定で悩まされたケースは多いことが分かる。
そのほか、事業の将来性を不安視する声が多い点も、中小経営者が押さえておきたいポイントだろう。特に飲食や観光に関連する業種は、今後も新型コロナウイルスの影響を大きく受ける可能性がある。
つまり、後継者不足以外の課題によって事業承継が進まなくなる恐れもあるので、自社に潜む課題は余裕のあるうちに洗い出しておきたい。
後継者不足の解決策
中小企業の抱える後継者不足は、事業承継の進行に深刻な影響を与えかねない。したがって、後継者不足の問題は迅速に解決することが必要だ。後継者不足の解決策としては「親族内承継」「親族外承継」「M&Aによる第三者承継」「廃業」という4つの選択肢がある。この章では、それぞれの解決策についてポイントを解説する。
親族内承継
親族内承継とは、先代経営者の子どもや配偶者などの親族を後継者とする方法である。後継者不足を解決する際には、まずは親族内で後継者候補を選定するのが一般的だ。親族内承継を成功させるには、早急な後継者の選定と教育が不可欠である。後継者の教育は、後継者によって差があるが一般的に5~10年ほどかかるといわれている。
そのため、先代経営者が若い(40~60代)のうちに後継者を確定し、いち早く後継者教育を始めることが大切だ。具体的な教育方法としては、実際に会社の重役として参画し、経営や実務に必要なノウハウを覚える方法が一般的である。もしくは外部の他社に入社し、必要なノウハウを網羅的に習得させるのも一つの方法だろう。
親族外承継
親族外承継とは、親族以外の役職員に会社を引き継いだり、外部から経営者を招き入れたりする方法のことだ。近年は、親族内承継に代わってメジャーな事業承継の方法となりつつある。そのような親族外承継で後継者不足に陥らないためには、後継者候補に「会社を引き継ぎたい」と思わせることが重要だ。
なぜなら、親族以外の人にとって中小企業を引き継ぐことは、とても大きなリスクに感じる可能性があるからである。親族外承継で最も大きな障壁となるのは、自社株の買い取り費用だ。自社株の大半を引き継ぐには莫大な費用がかかる。そのため、例えば無償で譲渡したり外部の金融機関から融資を受けたりするなどして、なるべく後継者の負担にならないように注力しなくてはならない。
また、今後倒産しそうな会社では、誰も後継者の役目を引き受けてくれない可能性が高いため、経営の先行き不安を少しでも解消することも重要だ。例えば、自社の強みを強化したり、不採算の事業からは撤退したりするなどの施策が効果的と考えられる。
M&Aによる第三者承継
従来、親族や会社内に後継者がいない中小企業は、廃業せざるを得ないことが一般的であった。しかし近年は、M&Aを活用して廃業を回避するケースが増えている。M&Aでは、自社の株式を外部の法人や経営者に譲渡する形で事業承継を行う。外部の幅広い法人・経営者の中から会社の引き継ぎ手を探すため、後継者不足により親族内や社内で事業承継できない企業には最適な手法だ。
ただし、後継者不足に陥っているような中小企業の大半は、業績悪化や倒産のリスクが高い傾向にあるため、簡単にはM&Aの相手を見つけられないという一面もある。後継者不足の企業がM&Aを果たすには、買い手にとって買収する価値のある企業にしなくてはならない。
具体的には、有利子負債や不要な在庫を削減しつつ主力事業を強化し、収益性を伸ばすことで企業価値を高める必要がある。短期間で実現できるものではないため、後継者不足を認識した時点から早めに対策を行うことが不可欠だ。
廃業
「親族外承継」「親族内承継」「M&A」のいずれでも後継者不足を解消できない場合は、廃業せざるを得ない。たしかに廃業は回避したい選択肢だが、業績や経営環境次第ではどうしても後継者不足を解決できないケースも考えられる。したがって親族外承継などの方法で後継者不足の解決を目指すと同時にやむを得ず廃業する場合にも備えておくことも重要だ。
例えば、従業員の再就職先を選定しておいたり事業用資産の売却先を見つけておいたりすることはもちろんのこと、廃業に必要な費用を見積もり・準備することも大切だ。あらかじめ廃業時の行動も明確にしておけば、やむを得ず廃業するとなった場合に従業員や家族に迷惑をかけずスムーズに事業をたたむことができるだろう。
上の表は、ここまで紹介した解決策の特徴をまとめたものだ。どの解決策にもメリット・デメリットがあるため、自社の状況と照らし合わせながら最適な手段を見極めることが必要になる。
基本的には親族内承継を望むケースが多いが、会社の状況次第ではベストな選択肢になるとは限らない。例えば、身内に後継者候補がいないケースや相続争いが発生しそうなケースでは、親族外承継やM&Aのほうが望ましい可能性もあるので、親族内承継にこだわらず広い視野で計画を立てていこう。
後継者候補の育成方法
事業承継の計画を立てる際に、「身内に会社を残したい」と感じる経営者は多いだろう。しかし、そのためには経営者自身が後継者候補を育成し、親族内承継を行う必要がある。
では、後継者候補を育成する方法としては、具体的にどのようなものがあるだろうか。ここからは「社内での育成」と「社外での育成」に分けて、後継者の主な育成方法をまとめた。
社内で後継者を育成する方法
社内で後継者を育成する方法は、大きく以下の3つに分けられる。
上記を見ると分かるように、育成方法によって後継者に伝えられる知識やノウハウ、情報などは変わってくる。したがって、事業承継までに余裕がある場合は、【1】→【2】→【3】の流れですべての社内教育を実施することが理想だ。
しかし、実際の事業承継では急を要するケースが多いため、時間の余裕を見ながら現実的な手段をとることになるだろう。この場合は、後継者候補の能力や資質をしっかりと把握して、優先的に行うべき社内教育を見極めることが重要になる。
また、どのような教育方法を選ぶとしても、経営者が積極的にサポートすることを忘れてはいけない。後継者候補にも必ず負担がかかるので、こまめにコミュニケーションを取りながら手厚くサポートしていこう。
社外で後継者を育成する方法
社外で後継者を育成する方法には、「他社で勤務させる」「社外セミナーに参加させる」の2つがある。
他社で勤務させる方法のメリットは、自社とは異なる視点のノウハウを習得できる点だ。本業に関するノウハウだけではなく、財務面や営業面などさまざまな知識を吸収できる可能性があるため、必ずしも業界内の会社にこだわる必要はない。自社との関連性が薄い業界・地域に派遣すれば、新たな人脈やビジネスチャンスを形成できるケースもある。
一方で、短期間で必要な知識・ノウハウを習得させたい場合は、社外セミナーによる教育を検討したい。最近ではさまざまな機関・組織が経営者向けのセミナーを実施しており、各業界に特化したセミナーも全国各地で受けられるようになった。
また、単発のセミナーだけではなく、以下のような中長期のセミナーに参加させる方法もひとつの手だろう。
社外セミナーによる教育は、前述の「社内教育」と並行して実施できる。後継者候補の意思も確認しながら、複数の方法を組み合わせて効率的な教育環境を整えていこう。
後継者不足を解決できるサービスや支援策も
経営者には特別な資質やスキルが求められるため、教育に力を入れても後継者が育たない可能性は十分に考えられる。どうしても後継者候補が育たない場合や、コスト面などの問題が生じた場合は、専門的なサービス・支援策の活用を検討したい。
後継者不足を解決に導くマッチングサービスとは?
後継者不足を解決するサービスとしては、「後継者マッチングサービス」と呼ばれるものがある。これは、後継者が見つからなくて悩んでいる企業と、会社を継ぎたい人または買収先を探している企業を結びつけるサービスのことだ。
では、後継者マッチングサービスを利用すると、企業にはどのようなメリット・デメリットが生じるだろうか。
マッチングサービスは日本全国から後継者候補(相手企業)を探せるものが多いため、スムーズに事業承継を進められる可能性がある。また、弁護士などの専門家が在籍するサービスを選べば、事業承継の具体的なアドバイスを受けることも可能だ。
ただし、ほとんどのサービスは有料であり、M&Aの場合は売却額に応じた成果報酬が発生する。サービスによっては着手金や中間報酬も発生するため、マッチングサービスの利用前には料金体系をしっかりと確認しておきたい。
ちなみに、マッチングサービスの提供元は民間企業が多いものの、以下のように国や公的機関が提供しているサービスも存在する。
公的なサービスであれば基本的には無料で利用できるため、特にコスト面で悩んでいる企業は積極的に検討してみよう。
後継者不足に関する公的支援
次は、国や自治体が実施する主な公的支援を紹介しよう。
後継者が見つからない理由は企業によってさまざまだが、実は相続税や借金などの負担を理由に、後継者側が消極的になってしまうケースは非常に多い。このような企業は税制や補助金に関する支援策を活用すると、簡単に悩みが解決する可能性もある。
また、事業承継診断やガイドラインなど、具体的な計画を立てるためのサポートもぜひ活用したいところだ。事業承継を控える中小企業は、後継者不足以外にも課題を抱えていることが多いため、少しでも役に立つ支援策は積極的に活用していこう。
後継者不足の相談先
後継者不足や事業承継に関する悩みは、その大半が簡単に解決できるものではない。専門的な知識が必要になるケースも多いため、悩みや不安を抱えたら早めに専門家へ相談をすることも必要だ。
実際にはどのような相談先があるのか、以下では中小企業をサポートする主な機関や組織などを紹介しよう。
上記のほか、民間のM&A仲介会社やコンサルタント会社なども検討したい相談先となる。費用はかかるが、これらの会社は弁護士などの専門家と連携していることが多いため、法務や税務に関する課題もしっかりと解決に導いてくれるだろう。
特にM&A仲介会社は、膨大なデータベースやプラットフォームを活用して、日本全国から買い手を探してくれるサービスが多く見られる。スムーズに相手が見つかれば結果的にコストを抑えられることもあるので、有料の相談先も含めて検討することをすすめたい。
M&Aも視野に入れ、早めの対策と準備で後継者不足を解決
中小企業の多くを苦しめる後継者不足は、早めの準備や対応により解決できる可能性がある。親族や会社内に後継者がいない場合、時間やコストはかかるがM&Aという方法も選択肢の一つだ。後継者不足に悩んでいる人は、後継者不足の原因を特定し、いち早く対策を始められるように心がけてみてはいかがだろうか。
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文・鈴木 裕太(中小企業診断士)
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