前回のコラムでは、証券会社の老練な支店長とのエピソードを紹介し、そこから何を学んだかについてお伝えした。すなわち、「投資方針を貫く」ことの大切さだ。その「学び」がその後の筆者の投資信託に対する信念を確たるものとした。
さて、今回は以下の2点について考えてみたい。
(1)個人投資家向けの投資信託にベンチマークは必要か?
(2)ベンチマーク設定の難しさと、運用上のデメリット
そもそも投資信託に運用側が自らベンチマークを定めるようになったのは何故か? 実は日本には特殊事情があったことはあまり公言されていない。ひとつには、1990年代の長い株価下落の中で、ファンドマネージャーや運用会社、或いは販売会社が、投資家への「言い訳」のために小理屈を練るための道具が必要だったからだ。筆者はリアルにその渦中を過ごしたので間違いない。また、パフォーマンス分析理論の歴史自体もそう長くはない。
投資顧問会社に年金運用受託が拡大され(以前は生命保険会社と信託銀行だけが受託していた)、自社のパフォーマンスの優位性を尤もらしくアカデミックに立証する必要に迫られたことが背景にある。当時の日本証券アナリスト協会の会員誌には頻繁に「パフォーマンス分析」について、実証論文が掲載されていた。面白いのは、そうした論文のまとめが「まだ確立されたパフォーマンス測定の方法は無い」という結論で終わっていたことだ。ただ相対比較の為に、ベンチマークという概念がよく利用されたのは事実だ。
「ベンチマークは何ですか?」と聞かれても答えようがない
では何故、年金運用のために始まった「ベンチマーク」という概念が、主として個人投資家向けの投資信託にまで、あたかも「常識」のように使われるようになったのか? それは間違いなく「年金コンサルタント会社」の存在が大きい。