企業再生は、法人(企業)の法的・財務的な問題を解消することをさす。私的整理と法的整理によってメリットやデメリットが異なる点は知っておきたい。今回は、企業再生に関する私的整理と法的整理の選択について理解を深めていく。
企業再生と事業再生
企業再生の目的は、法人の再生を目指すことにある。債務超過で破綻状態に陥った法人が存続できるように改善策を講じる。
つまり、事業の再生や経営改善による収益率の向上を意味するわけではない。
銀行などの金融機関は、債権者の立場から貸出金の回収を目的に企業再生を考える。顧客のビジネスについて収益性や将来性まで関与しないケースが多い。
事業再生では、事業を抜本的に改革し、経営改善による収益率の向上を目指す。ターンアラウンドと呼ばれることが多い。
業績の悪化で倒産状態に陥った法人を再生する場合、利益を生み出す収益力を回復させなければ問題は解消しない。企業再生には事業再生が不可欠である。
企業再生と事業再生の違い
企業再生とは、法人が抱える債務超過や債務返済などの問題を解消することを意味する。これに対して事業再生は、事業を抜本的に改革して収益性を改善させることである。
いずれも業績悪化・倒産状態に陥った企業を対象としている。しかし、企業再生は法的・財務的な問題の解決に主眼を置くのに対して、事業再生はビジネスに関する課題の解消を重視している。
民事再生や会社更生といった法的整理では、ほとんどの当事者が法人であるため、企業再生を目的にしがちだ。
私的整理では、産業活力再生特別措置法にもとづく事業再生ADRのように、事業再生を目指す場合が多い。通常、企業再生には事業再生の取り組みが必要不可欠である。
企業再生に向けて、固定資産の売却や債務の一部免除、弁済期の繰延べなどの手続きを進めながら、組織の再構築や商品・サービスの見直しなどを通して事業再生に取り組む。
あくまで倒産状態に陥った会社を清算するわけではない。
企業再生に向けて事業再生が必要な理由
たとえば、ある会社が倒産状態になったとき、事業用の土地など固定資産を売却して現金化するとしよう。
売却益で債務超過を解消すれば、企業再生を実現したことになる。しかし、事業の損失が続けば、事業再生の目的を果たしたとはいえない。
企業再生を優先して債務超過を解消したいケースもあるだろう。しかし、重要な事業用資産を手放してしまうと、収益力のある事業価値まで大きく損なわれる。
そこで、事業再生計画の立案が必要となる。債務返済のリスケジュールを含めて、債務整理の対策を講じながら収益力の改善を目指す。
企業再生だけでなく事業再生も併せて検討することが重要である。
私的整理による企業再生
金融機関に対する債務の調整だけで再生が可能であり、資金繰りに支障が生じないのであれば、企業再生のスキームとして私的整理を選択する。
私的整理は、債権者との自主的な協議により債務を減免する手続きである。一定の手続準則を示した第三者機関にもとづいて行う。
たとえば、中小企業再生支援協議会や地域経済活性化支援機構(REVIC)、簡易裁判所などの機関が挙げられる。
私的整理による企業再生の種類
種類1.私的整理に関するガイドライン
平成13年に創設された私的整理の準則であり、金融債務の削減による事業再生を目的とする手続きである。
種類2.RCC企業再生スキーム
株式会社整理回収機構(RCC)が定めた私的整理の準則であり、企業再生の対象や再生計画案の要件などをまとめている。基本的には私的整理に関するガイドラインをモデルとしている。
種類3.中小企業再生支援協議会の支援
中小企業再生支援協議会が定めた私的整理の準則であり、金融債務の削減によって中小企業の事業再生を目指している。
種類4.事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)
私的整理準則の実務の蓄積を背景に創設された裁判外紛争解決手続である。過大な債務を負った事業者が法的整理手続きを踏まずに事業再生を行えるよう円滑化している。
種類5.株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生
株式会社地域経済活性化支援機構法にもとづき、中堅事業者や中小企業者などの事業再生をサポートし、地域経済の再建を図っている。
債権買取、対象事業者に対する出資・融資などのほか、経営人材の派遣業務も行っている。
私的整理による企業再生のメリットとデメリット
債権者との合意を円滑に進めることで、迅速に対応できる。商取引債務は減免の対象としないことから風評被害を防ぎ、商流を保全できる。それゆえ、事業価値の毀損を最小限に抑えられる。
しかし、全債権者の合意が前提となるため、一部の金融機関が反対すると手続きが進まない。
ただ、準則型私的整理による場合、第三者機関を利用しないケースに比べて、金融機関がスキームに同意しやすくなるため、このデメリットは目立ちにくい。
スキームの公平性及び透明性が担保されるので、担当者が社内の稟議を通しやすくなるからだ。
法的整理による企業再生
債務の調整だけでは再生できない場合や、資金繰りが破綻するようなケースには、商取引債務の調整まで行わなければならない。
私的整理での対応が難しいため、法的整理スキームによる企業再生を選択する。法的整理による企業再生では、法的手続に従って裁判所の主導により、債務整理を行う。
事業の存続を前提とする民事再生と会社更生の再建型手続が利用されやすい。
法的整理による企業再生の種類
種類1.民事再生手続
平成12年に創設された民事再生法にもとづく法的整理手続きであり、原則として従来の経営者が再生手続に当たる。
種類2.会社更生手続
担保権を含む債権を対象とする厳格な法的整理手続である。原則として従来の経営者に代わって裁判所から選任された管財人が再生手続に当たる。
種類3.特定調停
特定債務者が負っている債務に関して利害関係を調整する手続きである。民事再生手続や会社更生手続と比べると、当事者に対する法的な拘束力は弱い。
種類4.清算型法的整理
破産法にもとづく破産手続と、会社法にもとづく特別清算手続がある。
法的整理による企業再生のメリットとデメリット
法的整理による企業再生では、多数決の原理によって全債権者の同意が不要であり、手続きをスムーズに進めやすい。裁判所が主導するので、手続きも公平だ。
ただし、再建型の手続きであっても、世間的には倒産したとみなされる。風評被害も生じやすく、事業価値が大きく損なわれてしまう。
事業価値が損なわれると事業再生が困難となる。できるだけ早い段階から事業再生に着手し、私的整理のスキームを図れるようにすることが重要だ。
事業承継における企業再生ファンド
近年、第三者承継の相手として企業再生ファンドが注目されている。企業再生と事業承継は直接関連するものではないが、事業承継を契機に企業再生に取り組む企業も多いからだ。
企業再生ファンドに対する事業承継では、資金面のスポンサーや経営面のアドバイザーとして支援を受け、事業再生を目指す。
スポンサーやアドバイザーとなり得るのは、同業他社や取引先などだ。中でも企業再生ファンドは、企業再生や事業再生のノウハウを持っているので有力候補といえよう。
企業再生ファンドに経営権の全部または一部を渡して、資本参加を受けたり、劣後債を引受けたりしてもらう。事業承継を検討する際は、企業再生ファンドも選択肢に入れておくとよいだろう。(提供:THE OWNER)
文・古尾谷 裕昭(税理士)