多額の債務を抱えた中小企業にも、再建を目指す道はいくつか残されている。そのような企業にとって「民事再生」は、最初に考えておきたい選択肢のひとつだ。今回は民事再生のメリット・デメリットに加えて、要件や手続きなどの基礎知識を中心に解説していく。

民事再生とは?

民事再生
(画像=snowing12/stock.adobe.com)

民事再生とは、主に中小企業が自社を再建するために行う、民事再生法に基づく裁判手続きのこと。さまざまなステップを踏む必要はあるものの、裁判所から民事再生の認可を受けた企業は、抱えている債務を大幅に減らすことができる。

形式上は「倒産」だが……

民事再生は形式上では「倒産」という形になるものの、場合によっては経営陣を変えることなく会社の再建を目指せる。後述でも解説する通り、民事再生はほかの方法にはないメリットがいくつかあるので、資金不足や債務超過に陥りやすい中小経営者は、正しい知識をつけておくことが重要だ。

なお、民事再生は計画の内容によって、大きく以下の3パターンに分けられている。

民事再生の種類概要
・自力再建型第三者の力を借りることなく、本業の収益から債務を返済する方法。
・スポンサー型スポンサーから資金援助を受け、その資金を返済財源とする方法。
・清算型受け皿となる会社を設立し、その会社に営業の全部または一部を譲渡する方法。営業譲渡の代金が、債務の返済財源となる。

上記を見てわかる通り、民事再生は計画のタイプによって取るべき行動が変わってくるので、その点はしっかりと理解しておこう。

民事再生の開始申立の要件とは?

民事再生はどのような企業でも利用できる手続きではなく、申立に関しては以下の要件が設けられている。

〇民事再生の開始申立の要件
・破産手続き開始の原因となる事実が生じる恐れがある場合
・事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務を弁済できない場合

条件は様々ある

また、民事再生は対象企業に再建を図る力があり、かつ金融機関などの債権者に協力してもらうことが前提となるため、以下の点も申立の条件に含まれてくる。

〇民事再生の主な条件
・収益を上げる見込みがあること
・裁判所に支払う予納金をはじめ、手続きに必要な費用を準備できること
・未払いの優先債権がないこと
・銀行などの債権者が、民事再生の申立に強く反対していないこと

つまり、民事再生は自己都合だけでは進められない手続きなので、申立の前には上記の要件・条件に当てはまるかをきちんと確認しておくことが重要だ。

個人再生や会社更生、破産とはどう違う?

民事再生と似た言葉に、「個人再生」や「会社更生」と呼ばれるものがある。また、借金を減らすための手続きと聞いて、なかには「破産」を思い浮かべた経営者もいることだろう。

具体的な違いについて

では、これらの言葉と民事再生には、どのような違いがあるのだろうか。その点を明らかにするために、まずは以下の表に目を通してみよう。

手続きの種類概要該当する具体的な手続き
倒産 清算型 会社の資産を換価処分し、最終的には会社自体を消滅させる手続き。【1】破産
【2】特別清算
再建型 会社の資産は維持したまま、事業の収益を債権者に配分するための手続き【3】民事再生(個人再生)
【4】会社更生

上記を見てわかる通り、裁判所が関与する倒産手続きは【1】~【4】の4つに分けられる。

清算型に該当する破産と特別清算は、いずれも会社自体が消滅する手続きだ。この2つにはいくつか違いがあるものの、債権者の同意なしで行える手続きが「破産」、債権者の同意が必須となる手続きが「特別清算」と覚えておくと分かりやすい。

再建型に該当する民事再生と会社更生にも、いくつか違いがある。最大の違いは、手続きを済ませた後の会社の再建に「誰が関わるのか?」という点だ。経営陣がそのまま残って再建をする場合は「民事再生」、裁判所が選任した管財人が再建業務を実施する場合は「会社更生」となる。

ちなみに、民事再生と個人再生は基本的には同じ意味合いであり、個人が行う民事再生のことを「個人再生」と言う。

民事再生のメリット・デメリット

ほかの倒産手続きとの違いを正しく理解するには、民事再生のメリット・デメリットを理解しておくことが重要だ。民事再生にはメリットがある反面で、注意するべきデメリットも潜んでいるため注意しておこう。

民事再生のメリット4つ

民事再生には、大きくわけて以下の4つのメリットがある。

メリット1.事業を継続できる

会社が消滅する破産や特別清算とは違い、民事再生では事業を継続したまま借金などの債務を減らせる。そのため、再生計画をきちんと立てて実行すれば、会社をそのままの形で再建できる可能性があるだろう。

さらに、原則としては最長で10年の返済猶予を受けられるので、余裕をもった返済計画も立てやすい。

メリット2.経営権を維持したまま倒産手続きができる

現経営者が経営権を手放す必要がない点も、民事再生の大きなメリット。計画通りに再建を図れれば、以前と変わらない形で経営を維持できる。

一方で、優秀な経営者の退陣が求められるような手続きを選ぶと、中小企業では経営が立ちいかなくなるリスクが高まる。

メリット3.必要な資金を確保できる

民事再生の申立を行うと、対象となる金融機関の口座に入金した預金については、債務と相殺することが禁止されている。つまり、民事再生通知後の入金分はそのまま現金預金として残せるため、民事再生ではある程度の必要資金を手元に残せるのだ。

経営危機に陥っている中小企業にとって、必要資金を確保できる意味合いは非常に大きい。

メリット4.場合によっては短期間で会社を再建できる

後述でも詳しく解説するが、民事再生の申立を行った後には、再生計画案の決議がされてから計画を実行することになる。申立から計画案の決議までにかかる期間は、一般的なケースでおよそ5ヶ月であるため、民事再生では早ければ1年程度で会社再建を実現することが可能だ。

ただし、必ずしも短期間で再建できるわけではなく、計画次第では経営が回復しない可能性も十分に考えられるため、再生計画は慎重に検討する必要がある。

民事再生のデメリット4つ

民事再生には魅力的なメリットがある一方で、以下のようなデメリットも潜んでいる。

デメリット1.手続きにコストが発生する

民事再生の手続きでは、「予納金」を裁判所へ支払わなければならない。予納金の額については以下のように、負債総額に応じて設定されている。

負債総額支払う予納金の額
5,000万円未満200万円
5000万円~1億円未満300万円
1億~5億円未満400万円
5億~10億円未満500万円

また、予納金の1.0~1.5倍にあたる「弁護士費用」の負担が必要になる点も、民事再生では忘れてはいけないポイントだ。つまり、民事再生によって再建を図るのであれば、ある程度のまとまった資金が必要になる。

デメリット2.担保権を行使される可能性も

民事再生では、原則として担保権の行使を防ぐことはできない。つまり、債権者が土地の抵当権を実行すると、事業に必要な不動産を失ってしまう恐れがある。

このような事態を防ぐには、担保権者と弁済協定を別途締結しておくことが必要だ。

デメリット3.債務免除益課税が課せられる

対価を支払わない形で債務の免除を受けると、その免除分は債権者から贈与されたものとして扱われる。この贈与分(免除分)に対して課せられる税金が、「債務免除益課税」と呼ばれるものだ。

債務免除益課税は高額にのぼるケースもあるため、場合によっては再生計画を圧迫しかねない。仮に支払えない場合には、税務署と分割払いの交渉をする必要がある。

デメリット4.社会的信用が失墜する恐れがある

これはほかの倒産手続きにも該当するが、再建型の手続きである民事再生を選んでも、倒産のうわさを完全に防ぎきることは難しい。仮にうわさが広まると、社会的信用性が失墜して売上減少を招く恐れがあるので、情報管理には細心の注意が必要だ。

民事再生では事業や会社が残るため、「信用性は落ちない」と勘違いしてしまうケースもあるが、あくまでも倒産手続きのひとつであることは理解しておこう。

民事再生申立手続きの基本的な流れ

民事再生の申立を行うには、正しい順序で手続きを進める必要がある。細かくわけると、民事再生の申立には多くの工程があるので、基本的な流れを以下でひとつずつ確認していこう。

【STEP1】民事再生手続きの検討

まずは、上記で紹介したメリット・デメリットを見比べて、「民事再生を選ぶべきか?」について慎重に検討をする必要がある。経営者だけで判断できれば問題はないが、もし判断に迷うようであれば、弁護士などの専門家に相談することも検討しよう。

ちなみに、専門家に相談をすると費用はかかるものの、その後の工程まで幅広くサポートしてもらえる可能性がある。

【STEP2】民事再生手続きの申立

民事再生の実施を決めたら、申立書や債権者一覧表などの必要書類を用意して、裁判所に対して申立を行う。必要書類については、裁判所から取り寄せるものが含まれているので、事前に問い合わせをしておくと良いだろう。

また、通常は民事再生の申立と同時に、「弁済禁止の保全処分」の申立も済ませるケースが一般的だ。この申立を行っておくと、民事再生の申立の前日までに発生した債務について、返済をする行為が一時的に禁止されるため、手持ちの資金が減ることを防げる。

【STEP3】監督委員の選任

監督委員とは、民事再生に関して裁判所を補佐する人物のことだ。民事再生の申立を済ませると、債務者の財産や再生計画を監督する役目として、この監督委員が裁判所から選任される。

ちなみに、民事再生では破産管財人や更生管財人は選任されないケースが多い。

【STEP4】債権者に対する説明会の実施

前述でも触れた通り、事業者が民事再生の手続きを進めるには、債権者からの協力が必須となる。そのため、民事再生の申立を行った旨については、債権者に対してきちんと説明をしなければならない。

説明する時期が遅れると、理解を得ることが難しくなる恐れがあるため、このタイミングで説明会を実施することが重要だ。

【STEP5】民事再生手続きの開始決定

申立から2週間ほどが経過すると、民事再生手続きの開始決定が裁判所から通知される。ちなみに、再生計画案の内容が認められない場合には、この時点で裁判所が申立を棄却する可能性もあるため注意しておきたい。

【STEP6】債権者による債権届の提出

民事再生の内容を確認した債権者は、一定期間内に「債権届」を裁判所に提出する。債権者がこの届出を済ませると、再生手続きに参加する意思を示した形となるので、この次のステップからいよいよ具体的な再生計画が進められていく。

【STEP7】財産価額の結果報告

再生計画案を作る前準備として、まずは民事再生手続き開始決定時の財務状況を表す書類の提出が求められる。具体的には、財産目録や貸借対照表、財産状況の報告書などを、裁判所に対して提出しなければならない。

【STEP8】債権認否書の提出

次は【STEP6】で債権者が提出した債権届の内容を、債務者が細かく確認をする。債務者がその内容を認め、裁判所に対して「債権認否書」を提出したら、民事再生の対象になる負債総額が決定される。

【STEP9】再生計画案の作成と決議

ここまで進んだら、ついに「債務をどのように返済するか?」をまとめた再生計画案を作成していく。この再生計画案は、裁判所が設定した期日までに提出をする必要があるので、事前にある程度の内容は考えておく必要があるだろう。

裁判所に再生計画案を提出すると、その内容に関して債権者集会において決議が行われる。再生計画案が認められるには、以下の2つの条件を満たす必要があるので、再生計画案は内容にもしっかりとこだわらなくてはならない。

・出席した債権者(議決権者)の過半数の賛成
・議決権者がもつ総額の議決権のうち、2分の1以上の議決権を有する者の賛成

上記の条件を満たすと、再生計画案が可決された形となり、本格的に効力が発生することになる。

【STEP10】再生計画の実行

ここまで進めば、あとは再生計画案の内容に従って、債務を返済していくことになる。なお、再生計画案が認可されてから3年の間は、監督委員が返済状況を細かく確認するため、勝手な判断で計画から逸脱することは基本的に許されない。

自信のない方は、弁護士などの専門家に相談を

いくつかある倒産手続きの中でも、民事再生は比較的メリットが大きい選択肢だ。これまで大切に会社を育ててきた経営者にとって、事業や経営権を失わずに済む点は大きな魅力だろう。

ただし、民事再生の申立には要件・条件があり、手続きの際には多くの工程を踏む必要がある。手続きの順序を間違えると、それまでにかけてきた手間や費用が無駄になってしまう恐れがあるので、自信のない方は専門家の力を積極的に借りるようにしよう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)