経済
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米大統領選後、米10年債は1.2%を目指す

野村証券 チーフ金利ストラテジスト / 松沢 中
週刊金融財政事情 2020年11月2日号

 米大統領選後、米国資産はいったんトリプル高になりやすいと考えている。①選挙結果が長期にわたって判明しない、②相場がいずれかの方向に大きく振れる──という二つのリスクを避けるため、足元、米国から資金が逃避しているからだ。②の警戒を示すように、米株・米債のボラティリティー指数が高止まりしている。よって選挙結果が判明し、相場の初動を確認した後は資金が米国に巻き戻されやすい。

 債券市場では、「ブルーウェーブ(民主党大統領・同党議会両院支配)」実現が債券安に、ねじれ議会が債券高に結び付きやすいことは広く認識されている。ただし現在、市場はブルーウェーブの確率を高く織り込んでいるとみられるため、それが実現しても追加的な影響は小さく、6月に付けた米10年債利回りである0.9%台が当面の上限だろう。

 中期的に相場の方向性を決める要因のうち、市場が最も織り込めていないのは米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策の変化であろう。バイデン氏が大統領となればFRBへの政策介入が減り、よりファンダメンタルズに忠実な金融政策運営になりやすいとの見通しは成り立ち得る。

 FRB自身は、過度に緩和的になることを躊躇し始めている。今年6月の市場介入(量的緩和策、フォワードガイダンスなど)は金利上昇を止め、実質金利の大幅低下と、過剰流動性を原動力にしたハイテク株の乱高下をもたらした。

 債券市場にとっての「鬼門」は、米大統領選よりも12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)であろう。11月中には複数のコロナワクチン開発企業が最終治験結果を得る見通しであり、また年末商戦の状況もある程度見えてくる。12月FOMCで量的緩和策強化などのメッセージを見送れば、市場はそれを金利上昇の容認と捉え、米10年国債利回りは1.0%を超える可能性がある。

 米10年国債利回りの重要な節目となるのは1.2%だ。これには二つの意味がある。まず一つは、その水準に至る段階で、米短期(政策)金利は3年先までに2回の利上げをかなり織り込むことになる(図表)。そうなれば政策金利に新しいフォワードガイダンスを導入し、2023年末までは利上げをしないという9月FOMCとの乖離が明白になる。

 次に、1.2%台は、今年3月のドル流動性危機が発生した際に付けた金利水準のピークである。1980年代以降5回の景気後退・信用収縮局面において、漏れなく流動性危機に伴う金利上昇は発生した。その際に付けた水準は結果的に、その後にFRBの緩和打ち止めが明確になり、市場が金融引き締めを織り込み始めるまで強い支持線になっている。

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