経済
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上値が重い原油価格、バイデン氏勝利でさらなる逆風も

みずほ証券 マーケットストラテジスト / 中島 三養子
週刊金融財政事情 2020年11月2日号

 原油価格は当面、上値の重い展開が見込まれる。10月23日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格の期近物は1バレル=39.85ドル。石油輸出国機構(OPEC)は、10月月報で2020年の世界石油需要見通しを小幅に引き上げた。しかし、8月からの3カ月間におけるWTI原油の先物曲線を比較すると、直近が沈み込んでいる(図表)。市場では原油価格が新型コロナウイルス感染拡大前の50ドル台に戻るのは30年ごろになるとみているようだ。国際エネルギー機関(IEA)は、10月の長期見通しで需要の伸びの遅れを指摘した。

 米国では原油需要を冷え込ませる要因が二つある。一つは景気刺激策の効果が薄れるなか、追加経済対策協議が難航していることだ。今後は冬場に新型コロナ感染の第3波が起きる恐れもあり、景気回復ペースの鈍化が懸念されよう。

 もう一つは米大統領選でのバイデン氏勝利だ。トランプ米大統領は19年にパリ協定からの離脱手続きを開始し、石油業界に対して規制緩和の方針を取ってきた。20年に入り原油価格が下落し、コロナ禍の下でも米ガス石油関連業者の雇用者数は高止まりしており、政府や米連邦準備制度理事会(FRB)の政策により雇用が守られていたようだ。しかし、世論調査でトランプ氏の支持率を上回る民主党のバイデン氏が勝利すると、環境対策優先となり、原油市場にとって逆風となろう。同氏は、就任即日のパリ協定への復帰、クリーンエネルギー革命の提唱や、大型インフラ投資の一環としての環境投資等を公約に含めている。

 OPEC年報によるエネルギータイプ別予想では、20~45年における石油需要の増加量に対して、ガスや再生可能エネルギーなどの需要増加量は大幅に上回る見通しだ。今後も「新しい生活様式」への対応のほか、パリ協定における地球温暖化対策への取り組みから脱炭素化がいっそう進み、長期的な石油価格の伸び悩みにつながりそうだ。

 足元では減産対象外となるリビアの増産がOPECの減産を相殺する格好となっており、今後、原油価格が下振れする展開となれば、OPEC加盟国に非加盟主要産油国を加えたOPECプラスの危機意識は強まろう。原油価格は一時的に1バレル=30ドル前後までの下振れもあり得る。11月30日~12月1日のOPECプラス会合では、21年から予定される減産縮小の見送りどころか、さらなる減産により原油価格下支えを迫られる可能性もある。

 今後は中国やインドをはじめとしたアジア向け需要がどの程度持ち直すかが注目される。みずほ証券商品企画部では、20年の予想レンジを1バレル=30~50ドルと予想している。

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