電力自由化という言葉は聞いたことがあるけど「詳しくは知らない」という人も多いのではないでしょうか。本記事では「そもそも電力自由化の意味とは何か」「自由化によって私たちの生活がどう劇的変化したか」について分かりやすく解説します。

そもそも電力自由化とは 段階を経て電力小売の全面自由化へ

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(画像=osame/stock.adobe.com)

国内の電力は、2016年4月から一般家庭も含めて全面自由化されました。それまで電力は「1地域・1電力会社」の専売特許でした。例えば関西エリアの電力は関西電力、関東エリアの電力は東京電力しか扱えないといった状態になります。そのため関西に住む人が東京電力の電力を購入しようとしてもできなかったわけです。

2016年4月に全面自由化された電力ですが、十数年前から自由化の動きはありました。第1段階の2000年3月には特別高圧区分、第2段階の2004年・2005年には高圧区分、そして2016年4月の第3段階で「電力小売の全面自由化」に至ったのです。

自由化の年区分対象
2000年特別高圧・大規模な工場
・デパート
・オフィスビル
2004年
2005年
高圧・中小規模工場
・中小ビル
2016年低圧
(電力小売りの全面自由化)
・一般家庭
・商店

電力自由化によって650社もの新興電力会社が誕生するも

電力自由化によって数多くの電力会社が全国に生まれています。もともとあった東京電力や関西電力などの1地域・1社の独占的な電力会社は、全国に10社ありました。一方2000年の自由化以降に参入した新興電力会社は約650社と言われています。新興電力会社のなかには、東証1部上場のイーレックス株式会社<9517>のように大手企業に成長しているところもあります。

とはいえ、イーレックス株式会社の時価総額約655億円に対して東京電力ホールディングス株式会社<9501>の時価総額は約4,563億円と現段階ではかなりの開きがあります。(2020年10月22日時点)新興電力会社が大手切り崩しに苦戦している理由の一つは「自前の大規模発電所を保有していない」ということです。

新興電力会社は、大手電力会社の余剰電力を卸電力取引所で調達し企業や家庭に提供しています。そのため大手電力会社を揺るがすほどの大胆なプランが打ち出しにくいのです。一方で新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済活動が停滞し電力の市場価格が安くなっている状況は新興電力会社にとって追い風と言えるでしょう。この機に乗じて大手よりもかなり割安なプランを提案する新興電力会社も登場しています。

電力小売の全面自由化によってもたらされた3つの劇的変化

普段は気づきにくいですが、2016年の電力小売の全面自由化によって私たちの生活には数多くのベネフィットが生まれています。

電力自由化による劇的変化1:料金メニューが多彩になった

最も分かりやすい変化は、電力小売の全面自由化によって多彩な料金メニューからセレクトできるようになったことです。あわせて電気料金とほかのサービスを組み合わせたお得なプランも登場しています。例えば「auでんき」では、電気料金の利用額に応じてPontaポイントを還元しており、以下のように毎月の電気料金が増えるほどポイント還元率が高くなる仕組みです。

  • 電気料金5,000円未満:還元率1%
  • 電気料金5,000~8,000円未満:還元率3%
  • 電気料金8,000円以上:還元率5%

あわせてauのユーザーは、携帯料金と電気料金をまとめて支払えるので管理の手間も省けます。こういったサービスは、電力小売の全面自由化の前は絶対できないことでした。

電力自由化による劇的変化2:温室効果ガスゼロの電気を選べるようになった

2016年の電力小売り全面自由化から4年が経ち、電気サービスは次のステージに入っています。全面自由化が実現したばかりのころは「自由化で電気料金がお得になる」という打ち出しのサービスが注目されました。さらに最近では「地球環境を大切にしたい」と考える企業・自治体・人が「再生可能エネルギーで発電した電気を選ぶ」という考え方が浸透してきています。

再生可能エネルギーとは、太陽光風力、水力、地熱など自然の力を利用した温室効果ガスを排出しないエネルギーのことです。日本は2020年10月、菅首相が所信演説で「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」と打ち出しました。 国が明確な方向性を示したため、社会全体で「再生可能エネルギーで生まれた電気を積極的に使う」という機運が高まってくることが期待されます。

電力自由化による劇的変化3:電気の地産地消がはじまった

電力小売り全面自由化によって起こった、もう一つの変化が「電気の地産地消」です。これは、ある地域内で発電した電気をその地域内(あるいは近隣)で使う仕組みです。電気の地産地消によって「電気の送電中のロスがなくなる」というメリットがあります。電力は、発電した場所と電気を使う場所の距離が遠くなるほどロスが生じます。

発電したときの電気量が100だとすると距離が遠くなるほど90、80、70……と減少していくのです。電気を地産地消すればロスが少なくなりエネルギー利用の効率性が高まります。効率性が高まればやがては料金にも反映されることも期待できるでしょう。電気の地産地消は、前出の「再生可能エネルギーで発電した電気」と相性が良いことも特徴です。

太陽光や風力で発電した電気を地産地消すれば環境負荷の少ないエコシステムが実現します。「電力の地産地消×再生可能エネルギー」の取り組みは、各地域ですでにはじまっています。例えば湘南電力では、神奈川県内の再生可能エネルギーで発電された電気を湘南エリアに提供。電力の地産地消を推進しています。

2020年4月からさらに「送配電の自由化」が進められている

ここまで改革が進んできた電力の自由化ですが、2020年4月以降「送配電の自由化」という新しい局面に入っています。送配電の自由化は電力小売の全面自由化などと比べると注目度が薄い印象ですが、日本の電力改革には重要なテーマの一つです。自由化以前、1地域1社だった電力会社は「発電」「送配電」「小売」の3つの部門を完全に独占する存在でした。

しかしこのような独占的な環境だと事業の効率化が進みにくい弊害があるため、電力自由化を含む「電力システム改革」が進められることになったのです。電力会社が独占していた3部門は、1995年以降に発電部門の自由化、2016年に小売部門の自由化が実現しました。そして残った1部門が「送配電」というわけです。

送配電部門は、ほかの2部門と違い複数の企業が参入すると逆に効率化しにくい性格もあります。そのため送配電については「1地域1社」という形を残しつつ、さまざまな方向で独占色を薄める取り組みが進められている傾向です。具体的な方法としては「電力会社の送配電部門の会計機能を完全に分離させる」「送配電部門を別会社化する」などがあります。

いずれにしても電力独占の最後の砦とも言える送配電にメスが入ることで、日本の電力自由化がさらに進むことが期待できるでしょう。

まとめ

電力小売の全面自由化は私たちの暮らしに劇的な変化を生んでいます。特に「電力の地産地消×再生可能エネルギー」の取り組みが数多くの地域で広がれば、日本の電力事情はより一層劇的に変わっていくことでしょう。私たち一人ひとりが主体的に電気サービスを選ぶ……そんなライフスタイルが当たり前になる日も近そうです。(提供:Renergy Online