2020年7月27日の年金広報検討会では、政府が、個人の年金額の見通しの試算等を行うための「年金アプリ(公式)」を開発し、同アプリで読み込むためのQRコードを「ねんきん定期便」に記載する方針が示された。本稿では、政府が検討中の案と筆者が考える改善案を述べる。
検討中の案:年金アプリ(公式)で試算し、その結果をファイルで民間アプリへ連携
政府が検討中の案では、パート労働者が厚生年金に加入する場合や年金の受給開始時期を変更する場合(繰上げ/繰下げ受給)について、個人の年金記録に基づいた年金額の簡易試算を可能にする。試算結果をファイルに出力し、家計簿などの民間アプリとの連携も可能にする方針である。
現在でも、日本年金機構が提供するWebサービス「ねんきんネット」で試算が可能だが、同アプリでは「ねんきん定期便」に印刷されたQRコードを読み取ることから、ユーザー登録不要で試算が可能になるとみられる。
改善案1:専門家への相談等で活用できるよう、QRコードや試算の仕様等を民間へ提供
個人が自らのスマートフォンで試算できても十分な活用は難しく、ファイナンシャル・プランナーや金融機関の窓口などに相談するケースが想定される。しかし、試算結果が個人の端末内でしか利用できなければ不便だろう。出力されたファイルをメール等で送付することも考えられるが、送付操作の難しさや誤送信のリスクが課題となる。
そこで考えられるのが、民間のアプリで公式アプリと同様の試算ができるよう、QRコードや試算の仕様等を民間アプリの開発者へ提供することである(1)。相談先のアプリ等でQRコードを利用できれば、大きな画面での分かりやすい説明や、年金額の試算だけでなく生活設計(ライフプラン)の作成などにも活用できるだろう。また試算の仕様等が提供されれば、年金制度に詳しくないアプリ開発者も参入しやすくなり、公式アプリよりも分かりやすい図示などが期待できよう。
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(1)制度変更等に伴うQRコードや試算方法の更新に対して民間アプリが適切に対応できるよう、単に仕様を公開するのではなく、適切に利用・更新することを契約した上で仕様を提供することや、アプリ同士が情報を連携する仕組み(API)を活用して読み取りや試算の部分は日本年金機構が管理・更新することなども、考えられる。
改善案2:利用頻度向上に向け、毎月の記録更新の通知や、アプリ自体を「ねんきん定期便」化
検討会では、「年金アプリ(公式)」の利用頻度を高める方策を求める意見も出た。現時点で検討されている試算以外の同アプリの機能は、厚生労働省の「年金ポータルサイト」や今後設置予定の制度改正の解説ページとの接続である。制度解説は順次の公開が難しいが、既存の解説内容を連載形式で順次紹介して通知するなどの工夫は可能だろう。
また、自分自身のこととして関心を持ってもらうために、「ねんきん定期便」が送付されたことの通知(開封の勧奨)も考えられる。現在の案では、利用者の誕生月が特定できないため、全員向けの通知の中に「○月生まれの方に」などと記載する必要がある。アプリに「ねんきんネット」への接続機能が追加されてユーザー情報が登録されれば、毎月の加入記録の更新ごとに通知することや、公式アプリ自体を「ねんきん定期便」として利用し、同アプリに表示されたQRコードを民間アプリで読み取ることなども考えられる*2。
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(2)2021年度末に予定されている年金手帳の廃止を考慮すれば、年金アプリ(公式)を案内して年金手帳の代替として利用してもらうことも考えられる。
中嶋邦夫(なかしまくにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター公的年金調査室長兼任
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