【経営トップに聞く 第36回】小野裕史(Global CEO, M17 Entertainment Limited)

M17 Entertainment Limited,小野裕史
(画像=THE21オンライン)

ますます盛り上がりを見せているライブ配信市場。数多くのサービスが登場しているが、売上で日本市場の約63.9%(2019年11月時点)を占めているのが、台湾発の「17LIVE」だ。その強さの理由は何か? 2017年に日本法人が設立されて以来、その代表取締役を務め、今年、親会社であるM17 Entertainment Limitedの Global CEOにも就任した小野裕史氏に話を聞いた。

「コンテンツ」と「テクノロジー」が成長要因

――「17LIVE」を運営するM17 Entertainment Limitedの日本法人である〔株〕17 Media Japanが設立された2017年には、既に日本にはライブ配信サービスが存在していました。後発でありながら圧倒的なシェアを得られた要因は何でしょうか?

【小野】日本法人を立ち上げた当時、確かに日本国内にもライブ配信サービスはありましたが、スマホに特化したサービスとしては「17LIVE」が草分けでした。そのうえで成長要因を挙げると、コンテンツとテクノロジーの2つです。

コンテンツについては、200人ほどいる社員の約半数が「ライバープロデューサー」としてライバー(配信者)のコンテンツ作りをお手伝いしています。そうすることで、質の高いコンテンツを数多く配信できています。

質が高いコンテンツとはどういうものなのかについては色々な見方があると思いますが、一般的にどのプラットフォームでも言えることとして、自社ユーザーの特徴を理解したうえでコンテンツを提供することだと思っています。当社のライバープロデューサーは、どういう配信がオーディエンス(ライブ配信視聴者)から求められているのか、配信内容はもちろん、オーディエンスとのコミュニケーションの取り方、さらにはカメラのアングルなどの細かい部分まで、熟知しています。契約しているライバーには、当社のライバープロデュースチームが担当について、ライブ配信のノウハウはもちろんのこと、取り組むべき姿勢や、これまでの経験をもとにしたファンに支持されるためのコンサルティングを常に行なっています。このような取り組みは他社には見られず、当社がより優位な状況を作れた大きな要因であると考えています。

もう一つのテクノロジーについては、台湾を中心に、100人以上のエンジニアが在籍しています。これほど多くのエンジニアがいるのも、他社にはない大きな特徴です。

ライブ配信では、高解像度、高音質、そして、タイムラグが少ないことが重要です。これを実現するのは、トラフィックが多くなればなるほど、技術的に難しくなります。

また、ゲーム実況を配信中のライバーの顔をオーディエンスが見られるようにするなど、オーディエンスがライバーとのインタラクティブなやり取りを楽しめるようにするための仕掛けを開発するためにも、ライブ配信に特化したテクノロジーが必要です。オーディエンスにライブ感を違和感なく楽しんでいただけるためには、テクノロジーにこだわりを持つことは非常に重要でした。

――だから、視聴者が増えているのですね。ライバーが「17LIVE」を選ぶのも、コンテンツとして質の高いライブ配信ができるから?

【小野】そういう人もいるでしょうし、収益を上げやすいからという人もいるかと思いますが、ライバーの目標や夢をかなえるためのアプリ内イベントを企画していることが、ライバーに選んでいただけている大きな理由だと思います。

代表的なアプリ内イベントには「シャイニングスター」や「戦国時代」、「クリスマスイベント」、「17 Music Wave」などがあり、常時、数十種類のイベントを実施しています。イベントの上位に入賞したライバーは、最新の音楽設備が揃ったライブハウスでのイベントへの出演や有名雑誌への掲載、また、渋谷の大型看板に広告モデルとして登場したり、著名タレントと地上波番組で共演したりできます。アプリ「外」で輝くことができるステージを創ってあげること、これを先駆的に行なってきました。

「17LIVE」は、芸能人のような特別な人だけではなく、誰もが、それぞれの夢を持って、表現者としてライブ配信をする場です。アプリ内イベントの勝者は、そうした夢を叶えられます。ライバーが夢を叶えられるよう、視聴者はライバーを応援するわけです。

――日本法人は、立ち上げ当初から順調に成長したのでしょうか?

【小野】ゼロからの立ち上げでしたから、すぐにうまくいったわけではありません。

当時、日本におけるライブ配信の普及率は、今とは比べものにならないほど低く、「ライブ配信って何なの?」といった反応が多く見られました。また、ダウンロードして視聴するのは無料で、ライバーを応援するために「ギフティング」(投げ銭)をするという仕組みについても、消費者のマインドに受け入れの障壁があったのは確かです。

そんな中でライブ配信アプリを推進していく大きな原動力の一つは、やはり、豊富なコンテンツ、つまり、ジャンルを超えたライバーが数多く配信しているということでした。「17LIVE」のアプリを開いたら観たいコンテンツがある、という状態を常に作るということです。

ジャンルの幅は、今年に入って、さらに急速に広がっています。ステイホーム期間が設けられたこともあって、幼稚園の先生が子供向けに体操の配信をしたり、休業を余儀なくされた動物園やアニマルカフェが元気で愛らしい動物の姿を配信したりと、これまで「17LIVE」では見られなかった企業や団体によるライブ配信も増えました。

最近では、コロナの影響で軒並み中止となっている音楽フェスとコラボし、「前夜祭」と称して、フェスの雰囲気を味わえる企画も実施しました。コロナ禍により、多くのアーティストが表現の場や機会を模索している状況にあり、また、これまでライブや演劇に行っていた人もそれができなくなっている中で、ライブ配信を楽しむことが常識になりつつあると思います。